2-02 宝石スライム(後編)


 宝石スライムを探し、けもの道を進むと不思議な光景が広がった。

 雨も降っていないのに所々水滴のような輝きが有る。奥に進むにつれその水滴は水まんじゅう位の大きさのものが増えた。


「そろそろ出てきたわね。手のひらサイズ以下は狩りの対象外だから気を付けてね。」


 近くに居たサッカーボール大の宝石スライムをつついてみる。水まんじゅう型を維持していて適度に弾力が有る、指を押し込むと「むにー」と伸びて指が中に入った。ひんやりとしていて、感触がクセになりそうだ。


「チャト、スライムってどう狩るの?」

「ああ、素手でね~思いっきり突っ込んで核を握るんだ~。」


 そう言って彼女は見渡して、近くに居たスイカぐらいの大きさの宝石スライムに容赦ようしゃなく手を突っ込んで素早く核をつかんだ。するとスライムは水のように溶けて地面へと染み込んだ。


「溶けたスライムは、地面に浸透しんとうして地下の鉱物を内包ないほうするんた。そしてまた地上に帰ってくるんだ~。」


 不思議な生態だ。チャトが手を開くと、3cm程の紫色の結晶が握られていた。


「スライムは木の上から獲物を狙ったり連携して狩りをするから、食べられないように気を付けてね~。あと万が一を考えて、三人の姿が見える位置で狩りする事。移動のときは遠慮せず声掛けてね~。」


 スライムに食べられると聞いて、白骨化して内包された自分の姿を想像してしまった。怖すぎる。


「ここら辺で始めましょう!」


 ルルの一言でみんな狩りを始めるのであった。

 てのひら以上の大きさで、核が綺麗なの・・・結構、夢中になってしまう。


 おっと!いた。


 夕日のように綺麗な宝石を内包しているスライムだった。少し骨も入ってるが・・・ここは心を鬼にして、エイッと手を素早く突っ込んで核をにぎった。


 掌には3cmほどの核が有った。キレイキレイ!

 スライムの体と共に地面に落ちた骨も合わせて回収する。


 これは素材、これは素材。


 こんな感じで順調に狩りは進んだ。湖のように青く澄んだ石や、紫色の石など、色とりどりの石を8個ほど回収する。しゃがんで骨を回収してい居ると。


 べちゃ・・・


 頭の上にひんやりとした感覚を覚えた。頭を伝い粘液ねんえきのような感触が垂れてくる。

 これはスライム?まずい。夢中になり過ぎた。

 と思ったと同時に、スライムは液体化してぽたぽたと流れて行った。


「もう!上も注意しろって言われたでしょう?」


 ぷりぷりと起ったルルが核を握ったおかげで、私はスライムに食べられずに済んだ。実際はスライムの体液で私は若干びしょびしょだが。後頭部が冷たい。


「ありがとうルル・・・」


 どん!――――?


 私は同時に後ろに突き飛ばされた。尻餅しりもちをついてルルを見る。かなり大きめのスライムに全身を飲み込まれてた。


 スライムも連携して狩りをするって言っていたけど二段構にだんがまええなんて有り?


 ルルを飲み込むスライムは直径3m程有るか、腕を伸ばしても核に手が届かない。他にも食べたのか、動物の白骨がいたるところに内包されていて恐怖をあおる。彼女は鼻と口を手で塞いで冷静に私に目で合図した。私は大声で緊急を伝えた。


「チャト!大変!!!ルルが!!」


 近くからチャトが駆けつけて状況を把握はあくし、すぐさま魔法の詠唱えいしょうを始めた。チャト手をかざすと周囲の空気が歪む。そしてその歪みは散弾のようにスライムに向けて放たれた。チャトの魔法でスライムの体が抉られはじけ飛び大きさを削るが、それでもまだ足りない。


「もう一発っ!」


 チャトが構え詠唱を始めた。私も羽ばたいて上空へまわり、スライムの真上から核めがけて一直線に飛び込んだ。


 とぷんとスライムの中に入り込み、両手で核を握り締める。


 すると、ザパーと大量の液体化したスライムが洪水のように流れた。びしょ濡れになったルルと私はスライムが内包していた骨に囲まれ、地面に座り込む。


「はぁはぁ・・・ありがとう。助かったわ。」

「よかった、私こそ・・・ルル助けてくれてありがとう。」


 ホントそうなのだ。ルルのおかげで私も食べられずに済んだ。


「マヤ、始めに助けを読んだのはナイス判断よ。でも、その後よ・・・二人共、助け方が滅茶苦茶なのよ。チャト!あれ、めっちゃ私をかすめたわよ!!それにマヤ!アンタも飛び込んでどうするのよ、スライム突き破って地面に衝突しちゃうでしょ?」


「「・・・うっ!ごめん、出来るだけ加減はしたんだ・・・」」


 助けたのに怒られた。ルルも怒るだけ怒って冷静を取り戻した。相当怖かったんだろう。あの骨に私もなると思ったら冷静を欠いてしまう。


「ご、ごめん・・・ありがとう。あなた達と一緒じゃなかったら私も白骨になっていたわ。」


 周りに散らばる骨を見て、チャトが提案する。


「このスライムの報酬は、僕とマヤでもらってもいいかなぁ?」

「ええ、もちろんよ。喧嘩しないように分けて。」


「そうしたら、マヤが核で、僕がこの骨でもいいかなぁ?」


 私は手に掴んでる核を見る。小玉スイカぐらいある。これと骨では明らかに私がもらい過ぎだ。


「チャト!こんなに大きな核もらえない。割ろう!」

「え!割るの~?勿体もったいないよ。僕は骨で十分だからさ。大物だらけで、これ持てるかなぁ~。」

「それなら、私が取った石どれか好きなの持って行って!」


 チャトは悩むと


「そこまで言うなら~、ギルドに報告が終ったあと頂こうかな?」


 もう!ぜひぜひ。大物スライムに入って居た骨は3人で手分けして持って帰ることになった。

 魔法で服を乾燥させ、それぞれの限度の10匹を狩り終えた私たちは山を下りた。


 ギルドに、収穫物の報告が必要なのでそれぞれの成果を見せた。

 三人が持っている骨の量に職員さんは目を見張るが、小玉スイカ大の石を見てドン引きされた。めったにないらしい。換金するか聞かれたが、後日換金することにした。先生にも自慢したいのだ。ふたりも石を換金せずそのまま持って帰ることにした。


「ルル、今日は誘ってくれてありがとう。狩猟許可書代に好きな石を選んで。」

「あらいいの?私が儲かっちゃうのしか無いじゃない。・・・じゃあこれにしようかしら?」


 そう言ってルルは青い石を選んだ。


「チャトも選んで!」


 割れなかった大物の代わりを選んでもらう。彼女は緑の石を手に取り光にかざす。


「じゃあ~、これ貰うね。ありがと~う。」

「これだけあれば、短期公開講座にも余裕で足りるねぇ。後は先生のお許しが出るといいね~。」

「そうね、もし学院に行けたらそこで会いましょう。今回行けなくてもチャンスは沢山あるから気負うんじゃないわよ。それに休みになったら私も帰省するし。」

「二人共ありがとう!また沢山遊ぼう!」


 こうして私たちは帰路に着いた。

 異世界の初めての狩りはとてもいい思い出になった。

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