2-01 宝石スライム(前編)

 私はマヤ。今、夢中で狩りをしている。


 こんな私は異世界転移者であり、元人間の今は半人半妖のサキュバスだ。

 頭には1対の小さな黒い角、背中には悪魔を思わせるような黒い翼、お尻にはむちのような細くしなやかな尻尾が付いている。


 実は、つい最近この世界に来たばかりだ。異世界に来て早々、国王様を助けるミッションに参加したり戦闘で死にかけたりと、大変ではあった。


 一か月前までただの会社員だったのに。


 しかし、何とか国王様も救出できて怪我も治り、今は楽しい異世界生活を満喫まんきつしている。

 魔法が使え、小説やゲームの様なこの世界、控えめに言って最高に楽しい。


  さて、さっきもサラッと述べたとおり、今日は異世界で出来た友達3人で山に狩りに来ている。事の始まりは昨日、友人宅でまったり本を読んでいる時だった。


◇◇◇


「ねぇ、二人とも明日暇?」


 さらさらのピンク髪にライトブルーの瞳の小柄な少女が不安げに声をかけてきた。

 この子はツンデレ魔女っ娘のルル。魔術学院の生徒だが学院の都合で一時帰宅している。


 どうやら何かを企んでいる様だ。私はこの質問の答え方は今でも即答できない。ちなみに明日は暇だ。

 お店が今日・明日とお休みなので、文字通り羽を伸ばしている。しかし、何が有るのだろう?場合によっては考えたい。


「内容によってかな~。何をたくらんでいるんだい?ルル。」


 おっとりと即答するのは、茶トラ猫が美少女になったような美しい毛並みの猫耳娘、チャト。素直な彼女らしい回答だった。グリーンの瞳でからかう様に彼女を見ている。


 ルルは「うっ」と一瞬詰まりながらも正直に話す。


「宝石スライムが解禁になったから、明日3人で狩りに行きたいなって思ったのよ。」

「おぉ!もうそんな季節なんだ~。いいね~!僕も行きた~い!!・・・けど、狩猟許可書まだ間に合うかな?あれ、人気ですぐ売り切れちゃうよねぇ?」


 チャトが乗り気ということは面白いイベントなのだろう。宝石スライム狩りとやらは。

 私は身を乗り出してルルの話を聞く。


「ふふふ!大丈夫よ!!ギルドで3人分の許可書を買ってきたわ!今年はなんと1人10匹まで狩っていいらしいから激熱よ!」

「さすがルル~できる女!!じゃあ、明日決定ね。」


 ルルもチャトも凄い盛り上がっている。チャトには私が明日暇なのを知られていたので、私も参加の運びになった。狩りか・・・狩猟ゲームのような感じなのだろう。お肉焼いたりするのだろうか?


「マヤ~、明日は山に入るから、動きやすい服装と、お弁当持参で9時にうちに集合ね~。」

「武器とか要る?」

「素手でイケるから大丈夫よ。あと少し魔法使う位かしら?」


 素手!そしてハイキングか果物狩り位に言われてしまった。


 そして時は流れ今に至る。


 現在街の南東にある山を登っている。ここは地元民からハイキングコースとしても人気の山だ。歩きながら素朴な疑問を聞いてみた。


「ルル、宝石スライムって何?」

「え!?知らなかったの?まあいいわ。宝石スライムはスライムの一種で体内に宝石や鉱石を核として内包しているの。」

「そのスライムって、消化が弱いから、骨も溶けずに一緒に入っている場合もあるんだよ~。」


 チャトも補足してくれた。スライムの中に、動物の白骨が有ると想像したら背筋が震えた。ホラーが苦手な私としては、形がはっきり残った骨とは出会いたくない。チャトがいつにも増して饒舌だ。


「内包している宝石核や骨はスライムの魔力が吸収されていて、それだけでも属性強化や状態異常防止の効果が有るんだけど、魔術式を書き込んで細工が出来るんだ~。マジックアイテムやアクセサリーに人気なんだよ~。」


「そう、お金になるのよ。」


 ルルがジト目でチャリーンとお金のジェスチャーを取る。ここの世界でもお金のジェスチャー同じなんだ。


「お金になるから密猟が横行して、一時期は数が減ったんだけど、ギルドが狩猟を制限して保護したから今では数も戻ったんだ~。いつもだったら1人5匹までなんだけど生息数が増えたんだろうねぇ。今年は10匹までOKだから、十分元とれちゃうね~。僕もアクセサリー加工で使いたいから助かるよ~。」


 そうだ、チャトは、アクセサリー作りが趣味であり、魔術学院では魔装具を専攻していたのでこの狩りは血が騒ぐだろう。


 そんなに便利な素材なら私もお世話になる機会が有ると思うので頑張って狩ろうと思う。


 道の途中、お昼休憩を挟む。持ってきたお弁当を食べながら、女三人会話に花が咲いた。


「明後日から学院が再開されるのよね・・・。明日王都に戻らなきゃ。」


 ルルが通う王立魔術学院は、王宮立てこもり事件に伴い休校になっていた。約一か月ぶりに学院に人が戻ってくる。彼女の顔はどこか寂しげだ。


「そうなんだね・・・寂しくなっちゃうな・・・。」


 年の近いチャトルルと過ごすのはとても楽しい、何より彼女たちの性格も裏表無い、かと言ってサバサバしすぎてないので、付き合いやすいのだ。


「そういえばマヤは2か月後の『短期公開講座』来ないの?申し込めば誰でもいろいろ学べて楽しいと思うわよ。マヤは魔法の飲み込みが早いから、きっとあなたにとってもいい機会だと思うわ。」


 ―――短期公開講座?


 詳しく聞くと、1か月限定で一般向けに王立魔術学院が公開授業を開催するらしい。学生以外も受講して単位を取ることが出来るので、資格の取得の為に利用したり、興味関心を深めるために利用する人が多い。またその年齢層も老若男女幅広く受け入れているそうだ。


 確かに、ルルの言うとおり魔法に興味はある。  


 それに、魔法の学校って言われるともっと気になる。映画やゲームの世界が現実になるのだ。みんな学院でどんな生活を送っているのか非常に気になる。


「すごい楽しそう!エスタ先生に相談してみようかな・・・。」

「僕も短期公開講座に行く予定だよ~、お世話になっていた研究室の手伝いに行くんだ~。先生方忙しいみたいで、人が足りないんだって~。ついでに工房借りて制作もするけどね~。」


 チャトも行くんだ!卒業しても学院には関わりが有るんだな・・・でも気になる事もある。先立つものの心配だ。この世界に来て一か月、そこまでお金は貯まっていない。


「やっぱりその短期公開講座ってお金かかるよね・・・?」


 二人は目を合わせ首を傾げ考え込む。やはりお高いか・・・

 ルルが静かに語り出した。


「今日、こぶし大のスライムの核や貴重な種類が取れれば、余裕だけど。そんなレアは現実的じゃないから、中ランクを数で稼いだ方がいいわ。ラッキーなことに10体だから余裕ね。」

「そうだね、マヤから見て綺麗だなって思った核を持つスライムを狩れば、今日だけで十分、学費・生活費・宿代を捻出できると思うよ。」


 そんなに?今日だけでそんなに稼げちゃうの?

 恐るべし、宝石スライム。


「ということで、この後は頑張るわよ!しっかり稼ぎましょう!!」

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