2-03 新しい特技

 今日はエスタ先生のお店で仕事だ。


 私の仕事は店番と清掃、品物の管理だ。

 商品として飼われている子供ミミックも私に懐いてきた。私を見かけると口を開けて餌を催促さいそくする。もう初期のように宝箱に擬態してくれない。いいのであろうか?


 一通り仕事をこなし、店のカウンターの中に椅子を持ち込み、そこで本を読むことにした。


 本と言っても異世界転移者が持たされるマニュアルだ。


 このマニュアル、持ち主のステータスや使える技などが記載されている。

 私は転移中の事故でサキュバス【真夜の君】まよのきみの魂と融合してこの体になり、混ざった魂を分離するすべは今の所、分かっていない。

 その為、サキュバスの本と私の本、2冊あったものを1冊に統合したのだ。


 名前 佐伯真夜さえきまや

 種族 半人半妖精 サキュバス Lv.50


 マニュアルもどの様に統合しようか悩んだのだろう。

私のレベルと真夜の君のレベルを素直に足して二で割ったようだ。

 でも悲観的な事ばかりではない。私の魂が持つ特性が追記されている。


【特性】 

 New『吸収力』技や魔法の会得率えとくりつが1.5倍上がる。

『夢幻』夢の中で自在に自身や環境を変化させ操ることが出来る。

『眠り姫』→解放済み:この特性を持つことでアビリティーが初期化される。特定条件を達成すると以後アビリティーの威力は2倍になる。


 私の魔法の習得率の速さの原因はこれ吸収力だった。通りで難なく魔法が使えたのか。


 実は、昨日の狩りで私はレベルアップしていたので、新たなアビリティーが増えていた。今マニュアルにじわじわと文字が浮かび上がっているところだった。どんな技かな?楽しみ!


 New『催眠』 対象が目覚めている場合、強制的に眠らせることが出来る。


 ―――ほうほう。サキュバス由来の技だろう。これは敵に会った時に使えるので便利そうだ。もう一つ技名がじわじわと浮かび上がる。『催・・


 New『催淫』 対象の性欲を刺激し増進させる。


「―――ねぇ。ちょっと待ってよ。」


 マニュアルに対して声を出して突っ込んでしまった。これもサキュバス由来の技だけど、どう役立てろと?要らないでしょ!!!因みに『魅惑』という相手を誘惑する技も既に持っている。

 誘惑して更に催淫でダメ押しするの?どれだけ入念なんだ。


(ひゃひゃひゃひゃ・・・!腹がよじれるっっっ。)


この頭の中に響く声は、真夜の君。時折ときおり起きては私を通して静かに世界を観察しているが、面白いことが有ったり私が困っていると、このように話しかけてくるのだ。


(あーーー苦しかった。いいではないか。恋人が出来たら試しに・・・)

「使いません!誰にも試しません!!」


 ―――はぁ・・・。新しい技に頭を抱えている所で、店舗奥の工房からエスタ先生が出てきた。

 今日の彼は恐ろしく機嫌が悪い。滅茶苦茶表情に出ている。普段以上に目つきが鋭い。

 彼は私の向かいに座り、カウンターに突っ伏し大きなため息を吐いた。


「王宮が色々と五月蠅うるさいんだ・・・。」


 私はカウンターの奥でお茶を淹れてそっと彼に渡す。彼は「ありがと」と受取りお茶をすすると落ち着いたのか、疲れた顔をして愚痴り始めた。


「今日も影武者から連絡が有って、どうやら兄弟二人で死にかけたことが大臣の間で大問題になっているらしい。早く結婚して後継者を残せと突かれて、毎日見合い写真が届くから助けてくれと悲鳴を上げていた。」


 影武者君、可哀そうに・・・この先生、実は王族で国王陛下の弟君だ。

 先日、国王陛下と先生は揃いもそろって、命がけの召喚をしてぞくと戦い、命からがら助かったという。ちなみにこの兄弟は未婚でお世継ぎが居ない。年が離れた弟もいるが外国で留学中らしい。

 先生は城の暮らしが嫌で、城を抜け出し街で魔法屋を営んでいる。先生がいない間は影武者君が城で対応するが、対応しきれない事案が有ると魔法を通じて先生に連絡するのだ。


許嫁いいなずけとかいないんですか?」

「いない、親父の方針で決めなかった。縁談に関しては・・・体調が悪い振りして断れとだけ言っておいた。」


 先生は面倒臭そうに首を振った。この体調不良作戦も長くは持たないだろう。更に彼は頭を抱えて小さくつぶやく。


「令嬢は苦手なんだよ・・・あいつら末恐ろしい・・・。」


 過去に何が有ったのだろう。この様子だと聞くのもはばかられる。


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