エピローグ ぐうぜんの話
今日は休みだ。
やりたい事山ほどは沢山ある。
しかし、今日は意識的に休むことにした。王宮の一件以降初めての休暇だ。何も考えない時間も大切である。
最近見つけたお気に入りの場所で休むことにした。裏庭に有る小屋の上だ。
翼を得てから気軽に高い所に登れるようになったのでとても便利だ。
風に吹かれながら、ぼんやり青空を眺める。こんなにゆっくりした時間を味わうのはすごく贅沢に感じる。王宮の件では文字通り体を張ったので、この贅沢もご褒美として許してもらいたい。
秋の日差しが目に入り左手で遮る。
視界に映る私の左手首には兄・・・ラプラス
それは日の光を浴びキラキラと輝く。そういえば、兄は元気かな・・・とぼんやり考えながら見ていた。すると、バングルから金色の糸が伸びてる事に気づいた・・・
もしやこれ・・・・
「お兄ちゃん?聞こえてるの?」
漠然と思い浮かんでしまった。あくまで思いつきの妄想だ。声が届くのではないだろうか?
ケイオスとリクサは装飾品で互いの絆を繋いでいた。
この金色の糸もラプラスβへと繋がっていて、何か起こるのではないか?
「やあ、よく気づいたね。マヤ。」
優しい声が聞こえた。ラプラスβ。異界へ消えた兄の声だ。不意に目が潤む。まさか妄想が現実になるとは・・・
「
褒められて、涙が出た。召喚初日から今までの記憶が一気に駆け巡る。思わず感情が言葉に乗ってしまった。
「ホント大変だったんだからね!何度死にかけたか・・・お兄ちゃんのバカ!!!ちゃんと説明してよ。」
異世界に来てからの事を兄に話した。そして真夜の君と融合した事、サキュバスになった事、ケイオスの事も。
「真夜の君との融合の件は申し訳なかった。僕のミスで転送座標軸が交差した事による、重大事故なんだ・・・。二人にはどう償えばいいのか・・・。」
重大事故・・・この体になって正直戸惑いや不便になった所もあるけど・・・
「気に入っているからいいよ。真夜の君もいるから寂しくないし。進んで分離方法も探していないからね。始末書頑張って書いてね。」
「ありがとう、そういってもらえると心が軽くなるよ・・・」
ふと気になった事をまとめて聞いてみた。
「お兄ちゃん、今まで
「まさか、マヤから語りかけてくれたからこうやって話せている。」
「お兄ちゃんってさ、異界の王なの?」
「そうだね。正確には『僕達、ラプラスの魔』が異界の王とも名乗っているね。呼び方は世界によって様々だよ。」
「へー、そういえば・・・私、国王陛下との契約書に手形捺した記憶が無いんだよね。いつ捺されたの。」
「えっ。僕の目の前で捺印したじゃないか?バインダーに挟んだ契約書見せただろ?」
(そういえば、そんなものあった。)
「あれは、話を聞いたサインじゃなかったの?」
「あれ?読まなかったの?」
「「?」」
読めないよ。あの時はまだ自動翻訳能力付与されてなかったよ。今後、契約書はしっかり確認しよう・・・。
「そうだ、ケイオスの事だけど・・・。」
「奴は、欲しいものは力ずくで手に入れるのが
そうだ。左の薬指に有った指輪は消えていた。
指輪をつけていた跡だけがうっすら残っている。
「関与してくる確率はかなり低いよ。もう安心してくれていい。」
もう、命を狙われる事は無いんだ・・・良かった。
・・・でも、都合がよすぎる。 偶然が重なり過ぎている。
偶然、転移座標軸が交差して起こってしまった融合事故
偶然同時に召喚された
偶然来た世界にケイオスの部下が居て
偶然ケイオスが現れ
偶然ケイオスの興味が消えた。
それに真夜の君もお兄ちゃんを『狸』って言っていた・・・
「お兄ちゃん・・・もしかして、こうなるって最初から分かっていた?」
「まさか、そんな事する訳ないだろ?妹の魂をわざと融合させるなんて。―――全部偶然だ。それより、そっちの生活、楽しめよマヤ。帰りたくなったり、話したくなったらこうやって連絡しな。お前は一人じゃないんだ。」
「―――そうか、分かった。お兄ちゃんもね。ありがとう。またね。」
通信を切って寝転び空を見上げる。
兄は偶然と言っているが恐らく必然にしたのだろう。全てうまく行くように。
そして・・・全て終わったのか。
昼寝でもしよう。いい夢が見れそうだ。
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