21 めざめた朝(後編)

「リーリさっき、先生の事なんて呼んだの?」

「え?エスタ殿下だけど・・・?」


 でんか・・・殿下?


「・・・殿下?どういうこと?・・・王族なの?」

「ええ、知りませんでした?彼は第二王子でニグルム陛下の弟君ですよ。」


 混乱と貧血で頭がクラクラする。・・・第二?弟?あれ確か弟君って・・・

 周りを見て、声を潜め、リーリに小声で聞く。


「だって・・・この事件の当初、人質に取られて、その後助かったけど昏睡してたって・・・」

「ええ、その時は丁度、彼の影武者が被害にあってしまって。城の者も彼を本人だと思っていましたから。凄く似ているんです。作戦の日の夕方に影武者の彼は安全な所に身を隠してもらいました。エスタ殿下は城の生活が性に合わないらしくて・・・時々、影武者と入れ替わって二重生活をしているのですよ。」


 彼女は、秘密ですよ!と可愛くウインクしてみせる。

 先生は以前、国王とは旧知の仲と話していた。そして、関係者しか知らない事件の情報や城の隠し通路も熟知していた。


 それは、そうか。王弟殿下なんだから。


 そんな高貴なご身分の方に、私、失礼な事していないだろうか・・・いや、していると思う。

 言動を振り返えると、ダラダラと冷や汗が出る。起きて早々心臓に悪い・・・もう一回寝よう。


「おーい。マヤ。目覚めたんだって?」


 ―――――!タイミングを考えて欲しい。


 私は驚きで声もでず。あわあわしながら、部屋の入口を見た。噂の主が登場した。


 彼は所々怪我をしているが、自力で歩けるようでゆっくりと、こちらに近づいてくる。空いて居る椅子が無かったので、私が居るベッドに腰掛けた。

 優しい眼差しにドキリとしてしまう。穏やかな声で語りかけてくる。自然と鼓動が早くなる。


「目覚めて良かった。心配した。大丈夫か?」

「は、はい・・・殿下・・・」


 そのいつもと違う呼び方に彼はムッとした。


「リーリ・・・話したな?」

「マヤに隠し事しちゃ可哀そうですもん。」


 彼は悔しそうにリーリを見た。彼女は子供っぽく言い放つ。先生は誰にも聞かれないように、私の耳元でそっとつぶやく。


「呼び方は今まで通りで・・・今日の夜、ここを抜け出すぞ。兄貴にはもう話してある。城は窮屈でたまらん。」

「わ、わかりました。」


 短くそう答えるので精一杯だった。

 近い・・・耳元で囁かないで。鼓動が早くて胸が苦しい。


 それより、もう城を出るの?さっき、起きたばかりなのに、なかなかひどい。・・・暴君め。

 彼はそれだけ言うとニヤリと笑い、またどこかへと行ってしまった。


 その後、リーリ達と別れ、―――深夜、先生は私をかかえて城を抜け出したのだった。

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