20 夢のおわり(後編)

◇長らく悪夢にさいなまれた男の目覚め◇


 城を占拠された後から悪い夢を見ていた。


 とても暗く、とても苦しかった。女性の声が聞こえ、差し出された手を握った。穴に落ちたのだろうか・・・手を握るのが精いっぱいで、体が思うように動かなかった。彼女に助け出してもらった後、長い悪夢が終ったのか、段々と意識が明瞭になってきた。


 私の体の下に女性がひとり倒れていた。彼女には黒い角と翼が有り、サキュバスのような容姿をしていたが、気を失っていた。私は体を起こして彼女から降りる。


「君・・・大丈夫かい?」


 彼女の頬に触れると「ううっ」と呻いた。生きている様だ。

 ここはどこだ?周りを見渡す。ここは私の部屋ではない様だ。暑さも寒さも感じない。現実味のない風景、夢か・・・?


 ずっ・・・ずっ・・・


 どこからともなく引きずる音が聞こえた。


 音がなる方を見ると赤髪の男が這いずりながら近寄ってきた。その眼は怒りに燃えている。

 あいつは城を占拠した男だった。悪夢ナイトメア使役しえきしていた者だ・・・さすが、夢に関する妖精を使役しただけあって自力で他者の夢の中まで来る才はあるようだ。。


 男は彼女に近寄り叫びだす。


「こいつのせいで!こいつのせいで・・・絶対に殺す!!!」


 そういいながらサキュバスの翼を荒々しく掴んだ。翼を折りそうな勢いだった。

 私は慌てて男を彼女から引き離した。男も息が絶え絶えだ。


「やめろ。彼女に触るな。」

「こいつをよこせ!八つ裂きにする!!」


 私は彼女を引き寄せ抱きかかえる。

 相当な恨みが有るらしい、しかしそれはこちらもだ。


「お前、よくも悪さをしてくれたな。タダでは済まさない・・・。」

「黙れッ!ろくに召喚もできない奴が騒ぐな!!」


 召喚・・・そう聞いて思い出した。


 そうだ・・・私は奴らに操られながら、異界の王と契約をさせられた。ただこいつらが呼びたいと願ったものは来なかった。


 来たのは一冊の本と左手の小指に嵌っている契約の指輪。指輪に視線を落とすと、そこから鎖の様な絆が伸びていた。絆は今抱えている彼女の右角につながっていた。


 成程。「『迎えに来た』か・・・」召喚は成功していて、私の願いは成就したのか。


「召喚は完成している。さあ、お前はここから出てゆけ・・・。光よ」


 手を赤髪にかざし、唱える。光が男の胴を貫いた。そして静に消えて行った。夢から強制的に退場させた。

 

 腕の中で眠る彼女を見た。傷だらけで胸が締め付けられた。こんな姿になってまで・・・ちゃんと来てくれたんだな。


「・・・ありがとう。」


さて、起きよう。長く寝過ぎた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る