20 夢のおわり(前編)
ずずずず・・・
耳障りな音がした。音をたどると玉座だった。玉座が地面に飲まれるように穴へと沈んでいく。ケイオスは肘掛に座りこちらを見てニヤニヤしている。あの玉座には陛下が座っているのに。嘘でしょ?
漠然とあの穴に呑まれたら、助けられない気がした。
歯を食いしばり立ち上がる。体が重くふらつく。足を一歩踏み出すだけでも辛い。
意志を持たない翼と尻尾が重い・・・それらをずるずると引きずりながら玉座の元までたどり着く。
沈みゆく玉座は、かろうじて背もたれが見えていた。陛下の体はもう穴の中に入っていた。身を乗り出して彼の腕を掴もうと手を伸ばすが、虚空を掴む。
さらに手を伸ばそうと穴の淵に手をかけ必死に腕を伸ばす。おねがい・・・届いて・・・
「陛下!!手を・・・」
彼は私の存在に気づき虚ろな顔で私を見ている。そして悲しく目を伏せた。
やだ、あきらめないで・・・
「お願いします•••手を掴んでください!」
段々と彼は離れていく。何で?どうして?
もう、私の腕は何でこんなに短いんだ。
こんなのはイヤだ!
「陛下!迎えに来ました。このままじゃ死んじゃいます!!皆あなたを心配して待っています!!もう、こんな淋しい所に一人ぼっちにさせません!一緒に帰りましょう!!だから・・・お願い!!!」
必死に懇願した。お願い・・・届いて。
彼がピクリと動いた。瞳にわずかな光が宿った。こちらを向き、手を伸ばした・・・。
ぎゅっと手を掴む。
体が玉座から離れ私の腕に体重がかかった。私のボロボロの体には・・・とても辛かった。
先生も・・・リーリも・・・眠り姫も・・・命を賭けた。
なら、私も何が何でも引き上げねば・・・
「絶対に・・・離さないんだからっ!!!うっ・・・あぁぁぁぁぁぁ!!!」
その時、飾りになっていた翼が思い出したように動いた。翼を手のように変形させ、地に手を着くように力を込める。陛下の体がずるっと引きあがる。もう少し。力を籠め一気に引き上げる。
陛下の全身が奈落から引きあがり、勢いで後ろに倒れた。
穴の中に居たケイオスが跳ねるように出てきて、倒れた私の顔を目を細くして覗き込んだ。今の私にできるのは引き上げた陛下を奪われないようギュッと掴み、ただただ奴を睨みつけるだけだった。
ケイオスはしゃがみ込み、私の左薬指に触れた。そして、すっと立ちあがり歩き出した。風景が歪み赤黒かった空が心なしか清らかさを取り戻した。
もう限界だ・・・疲れた。
陛下を見た。大丈夫ちゃんと居る。
良かった、助かった。これで終わった・・・
私が覚えているのは、ここまで。
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