19 ナイトメア(後編)
―――眠り姫。
眠り姫は私の中に居る何か。彼女は私の口から言葉を紡ぐ。
「よく気付いたのう・・・。狸の妹よ。」
狸の妹・・・狸とはお兄ちゃん、ラプラス
「夢で逢いましたし・・・、あれだけ主張されてはね・・・。あなたも作戦を聞いていたから、わかりますよね?」
「ああ、勿論。王を傷つけず。ナイトメアを倒せばいいのだろ?」
彼女は意気揚々と答えるが・・・実体で陛下を殴り飛ばした癖に。なにが勿論だ・・・。やや呆れてしまった。
「ご理解頂けて嬉しいです。長い間お待たせして、すみませんでした。私の体はしばらくお任せします。じゃあ、行きましょうか。」
「うむ、お前は見ておれ。」
私一人の口からこの言葉を話していると不思議だった。
眠り姫・・・わたしは、苦しそうに浮いているナイトメアの前に仁王立した。妖しく恍惚の笑みを浮かべながら宣誓布告する。
「のう、久しいのう
私の脳裏に、散って逝った同胞との楽しかった日々が走馬灯のように流れた。彼女の楽しく幸せで切ない思い出達。それを奪った恨みが彼女を奮い立たせる。
・・・ナイトメアは苦しみながらも人の形を取った。頭は黒い犬だが人間の体の形状をしている。互いに構える。わたしも、じりじりと間合いを取り、攻めるタイミングを計る。
動いたのはナイトメアだった。奴の手先には黒く刃物のような爪をぎらつかせている。
わたしも合わせて爪に生気をこめて硬化して伸ばし、奴の爪を受け流す。
幾つかの火花を散らせ、懐に潜り込み奴の胸に爪を突き立てる。しかし筋肉に邪魔されて心臓まで届かない。
突き飛ばされ後ろに飛び退き、間髪置かず再度突撃する。ぶつかる前にやつの頭の上を跳躍して背中に回り、爪を突き立て生気を流した。
動きは私の方が速い。サキュバスなのに戦い慣れている眠り姫とは何者なのか。格闘ゲームでも見ているかのように小気味よく技を決めてゆく。
こちら優勢で進んでいる。しかし、生気を流しながらの戦いなので、消耗はしている。この調子で相手を削っていけば大丈夫だろう。
背筋が凍る視線を感じた。
何?国王陛下とは違う・・・・ナイトメアを見るよりもその視線の方に恐怖を感じ、私たちは、視線の主を探した。今までに無い不穏な気配を感じる。
どこ・・・?
玉座の背もたれの上に一人男が座っていた。こちらを見て座っている。半分欠けた黒い狐の仮面を着け、半分見える素顔は品定めでもするかのように、笑いながらこちらを見ている。
私の左手の薬指が熱く痛む。
狐面の男が左手を掲げた。結婚指輪を見せるかのように。やつが軽く手を引くと合わせて私の左手が引っ張られた。
見つかった・・・ケイオスだ。
(ちっ!少し痛むぞ。食いしばれ!)
馬乗りにされ噛みつかれそうになるが、翼で殴り薙ぎ払う。ナイトメアは私から飛び降り、予想しない方向に走り出した。
ナイトメアは玉座に向かって走り出した。
陛下をまた乗っ取る気?それともケイオスに助けを乞うのか?どちらにしても
急いで飛び、ナイトメアに体当たりして押し倒す。そして噛みつき生気を流した。どれだけ気を流され苦しくても、ナイトメアはあきらめずに地を這い玉座へ向かう。
近づけてなるものか・・・
私たちは必死に牙を立て爪を立て、生気を流す。 目の前が青くちかちかする。頭がくらくらしてきたが、構っていられない。
でも、少しずつ確実にナイトメアの力は弱くなっていく。
止まれ!止まれ!!!!
もう少しと思った時、羽の力が急に抜け地に伏せた。それに続き全身に力が入らない。ナイトメアから離れてしまった。何だこれは・・・
体の主導権が私に切り替わった。
生気切れ?ウソでしょ?
生存に最低限の生気を残し、尽きてしまった。
急に力の抜けた私たちに気づきナイトメアがずるりと近寄ってきた。
お返しとばかり、瘴気を流される。赤ゲージ状態なのに・・・決して強くはないが地味に痛い。
まずい・・・
気が遠のきそうになった時。声が聞こえた気がした。私が危険な時にいつも助けてくれるあの声。
心臓が跳ねる。生気が急激に流れ込んでくる。外部からだ・・・先生。
―――力が湧き目に光が宿った。
最後のチャンスだ。ナイトメアを掴み全力で生気を流す。こいつも虫の息だ。
眠り姫、もう少しだよ・・・絶対に倒そう。
翼の力が戻り翼が形を変え、杭のようにナイトメアを刺した。
これで終われ!!!
・・・・ありったけを一気に流し込む。
握り締めたナイトメアの感覚が消えた。それは灰が空に舞うようにボロボロと崩れ消えて行った。眠り姫は満足そうに笑い、再び翼は力を失った。
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