18 決行(⁠3/4)

 王宮に忍び込み、リクサとナイトメアを2人掛で1体ずつ制圧するつもりで有ったが流れが変わった。


「構わん代案に切り替える。行け!」

「はい!」


 私達は二手に分かれた。


 2対1が難しい場合は先生が王を、私がリクサを相手にする事になっていた。

 王は剣の心得がある為、私との肉弾戦は圧倒的に不利だ。なので先生が対応すると言っていたが・・・


 ―――ギィィィン!


 剣と剣がぶつかり合う音がした。先生、剣使えたんだ・・・。心配不要のようだ。

 私はリクサに対峙する。こいつはモロの話によると魔法メインだ。それに聖女様から受けたダメージもまだ残っているようなので、勝機はある。


 リクサは謁見の間から広間へつながる階段を駆け下り始める。私も後を追って階段を駆け下りた。途中の踊り場に差しかかった時、階下からリクサが私に向かい瘴気の鞭を放った、巨大な軟体生物の足のようにうねり来る鞭は、私を薙ぐように弾き飛ばし、右横の壁に打ち付けられた。こんな攻撃聞いてない。私は倒れ込む、この位置からは奴の姿が見えないが、喜ぶ声が聞こえる。


「あの時、おとなしく捕まっておけば痛い思いしなかったのになぁ!バカだな!!」


 ―――負けるかよ。


 私は起き上がり、踊り場を駆けて跳躍して、階段を飛び下り滑空する。

 滞空中に打てる限りの光の矢を乱射する。

 奴は矢を相殺するために瘴気の壁を広く展開して防いだ、残り少ない瘴気を使わされて苛立っている。私は着地後、光の槍を持って突っ込む。

 その時、瘴気の鞭を打たれ後方に吹き飛んだ。とっさにガードしたが痛い。痛みをこらえて立ち上がろうとした時。


 目の前に剣を構えたリクサが居た。


「・・・やっぱやめた。オメェは殺す!」


 彼の剣は私めがけて振り下ろされる。スローモーションに見えた。しかし、間合いに入られていて、避ける事はできない。剣は私の体を袈裟切りに何の手ごたえもなく通ってゆく。


「【体に戻れ!!】」


 妖精体は物理攻撃が効かない。左角がちりりと熱く痛み、私は階段の踊り場の奥に置いておいた本体に戻ると飛び起きて光の矢を放った。出力は高い。相殺させない。

 矢は奴の右脚を射る。リクサはバランスを崩し、膝をついた。恨めしそうにつぶやく。


「姑息な手を使いやがる・・・」

「私たちも本気なだけよ。」


 謁見の間からここは一直線に位置して見下ろせる。先生は王と戦っている最中にこちらの様子を伺って服従の言葉で私を体に戻してくれた。

 私は魔法を構え詰め寄る。あと少しでこいつを足止めできる。


 その時、奴は隠し持っていた投げナイフを放ってきた。私はとっさに翼で受ける。

 ―――いっ!!!!・・・


 つぅっと血が滴った。

 歯を食いしばって堪え、翼を退けると奴は私とは逆方向へ走り出した。


「待て!逃げるな!!」


 大広間から曲がり、バルコニーへ向かったリクサを追いかける。

 私がバルコニーに飛び込むとリクサは魔法陣を展開していた。見覚えがある。異世界転移の魔法陣だ。

 転移する気?

 ニヤニヤと笑いながら、勝利を確信した目で最後の挨拶をする。


「残念だったな。俺は一度帰らせてもらうぜ。じゃあな!花よm・・・」


 一筋の光がリクサの左足を貫いた。続けてもう一発。右肩を貫く。私はこの隙に魔法陣にナイフを突き立て文字を削り壊した。何が起こったか分からないリクサは崩れ落ち、恨みがましいく振り返り光を放った主を探した。


「お前!!いつもいつも邪魔しやがって!この女!!八つ裂きにしてやる・・・!」


 彼の目に見えたのは聖女の塔。その上層の窓辺に白い影が見えた。リーリだった。

 彼女を心配するようにモロが付き添う。


「私も弓は得意なの。ごめんあそばせ。」


 私は転がるリクサを捕まえ、持ってきた縄で両手両足を拘束する。瘴気でからだを修復しているがそれも追い付かないみたいだった。止血はされたものの傷がふさがる様子が無い。この事にリクサは悪態をついた。わざわざこいつを生捕りにするのは、この国に渡して裁いてもらうから。目に魔力を集中してリクサを見た。体中に糸が絡まっている。こいつもケイオスのしがらみに捕らわれた一人に過ぎない様だ。糸の発生源を探し所持品を漁る。胸にしまっていた懐中時計だ。


「やめろ!テメェ!!それに触るなァ!!それがないと・・・。」


 ―――ケイオスの元に帰れない。この品は道標であり、絆。

 絆が消えれば、帰る場所が分からなくなり、この世界に取り残される。


「あなたに、これは必要ないよ。あなたも、この世界に縛られる事になるのだから。」

「あぁぁぁ・・・やめろぉぉぉ・・・やめてくれぇぇぇ・・・・。」


 泣きながら懇願する彼を無視して、私は時計を床に置き、時計の文字盤めがけてナイフの柄を何度も振り落とし、壊した。時計は砂のように崩れ落ちサラサラと風に攫われていった。ふっと一息ついて、聖女の塔を見上げた。


 窓際には誰もいなくカーテンがはたはたとたなびいているだけだった。

 魔力が枯渇している中、魔法の矢を打ってくれたのだろう、大丈夫だろうか・・・窓枠からモロが手をひらひらと振っていた。無事という事かな・・・。ここはモロに任せるしかない。私は城内へと戻り先生と国王の元へ向かった。


 ◇◇◇


 城内を浄化した後、リーリは膝から崩れ、息を乱していた。魔力の消費が激しい。妖精である俺は彼女に触れる事が出来ない。触れようとすると、指をすり抜けてしまう。こんな時、彼女に触れる事が出来ないのがもどかしい。


「あり・・・がとう・・・大丈夫です」


 そんな俺の気持ちを察してか、彼女は言葉を必死に絞り出した。

 彼女はポケットに忍ばせていたポーションを無理矢理喉へと流し込み、ふらつきながらも王宮が見渡せる窓際へ、イスを運び座って外を見ていた。息は整ってきたが時折辛そうに窓枠に突っ伏している。

 暫くして王宮のバルコニーの扉が勢いよく開いた音が聞こえる。その音を聞いてリーリは立ち上がった。最後の力を振り絞り光の弓矢の魔法を展開した。その弓矢はマヤが使っている物より大きく美しかった。

 バルコニーに出てきた人物を窓から、強い意志で狙う。普段温和な彼女からは想像も出来ないほどその眼は冷たく鋭い。闇夜に佇む彼女は星に照らされてとても美しかった。

 彼女の額には珠のような汗が滲んでいた。そして獲物を捉えた。一発、また一発と光の矢を放つ。


 バルコニーから汚い声が聞こえた。標的にあたったのだろう。

 氷の微笑みを浮かべながら、彼女は言葉を放つ。


「私も弓は得意なの。ごめんあそばせ。」


 国を、友人達を傷つけた輩にどうしても一矢報いたかったのだろう。冷たい眼差しのままにやりと笑い、倒れてしまった。

 バルコニーを見るとマヤが奴を縛り上げ、心配そうにこちらを覗いていた。こちらは対応するとマヤにサインを送り、俺は急いで倒れて気を失っているリーリの夢に潜った。

 リーリは夢の中で静かに水底へと・・・意識の深層へと沈んで行く所だった。これ以上沈むと俺は彼女に何もできなくなってしまう。今できる事は・・・。俺はリーリに口づけをして生気を流し込んだ。何とか助かって欲しい。その一心で注ぐ。そして俺の意識も途切れた。



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