15 青い煌めき(後編)

 ぱちんと目が覚める。どれだけ寝ていたろうか。まだ夢の中だ。

 インキュバスは私の上でスヤスヤと寝ていた。見張りがこんなんでいいのだろうか。


 重い・・・こいつ・・・。


 私が起きたことに気づいて奴も目を覚ました。


「いけね、寝ちまった。じっとしているのも疲れるな。」


 奴は体を起こして伸びをする。人の上で伸びないで欲しい。

 ただ、まずいことに、疲れた素振りをしている。吸われる前に回避しないと。

 私は奴に話しかける事にした。


「ねえ、名前はなんて言うの?」

「ん?俺はモロだ。」


 彼は不敵に笑って見せる。モロ・・・覚えやすい。

 いやいや、会話をつづけよう。


「リーリとリクサ達はどうなったの?」

「リーリは昨日結界を2つ展開してマスター達をまた城内に押し戻して閉じ込めた、疲れてはいるが彼女は無事だ。それより何でお前昨日『誘惑』使わなかったんだ?」


 確かに。忘れていた。使った方が解決したのでは?


「忘れてた…。」

「魔法でゴリ押していたもんな。まぁ、やらなくて正解だ。あの人も今や障気の塊だ、返り討ちにされてたかもな。それに、好かれるもの嫌だしな。」


 なんだ、こいつは。情報漏洩してない?…敵なのか味方なのか?


「モロは何で、あんな奴と契約したの?」

「ああ・・・契約したわけじゃない。捕まっちまって、無理矢理使われているんだ。まったくついてない。」

「えぇ・・じゃ対価は?」

「んなもん無い。」


 ひぇ・・・ブラック。無理やり働かせているだけとか。理不尽。

 モロに少し同情した。


「それはひどい・・・逆らうとどうなるの?」

「服従の魔法を使われる。」


 ほら、と言って彼は自身の首を指差した。

 黒いチョーカーかと思えば首の裏側から細くリボンが結ばれており、端はどこかへ繋がっているようだった。きっと契約主リクサに繋がっている。私と先生の鎖状の絆より脆そうに見て取れた。


「確か双方の合意が取れていない契約って、絆を切っちゃえば自由になれるんだよね?」

「そうだけど、そう簡単にいかねーよ。軽く結ばれているとはいえ、自分じゃ切れないし。妖精が見えて、魔力がある人間じゃないと。」


 先生に切ってもらうか・・・それかリーリか・・・妖精が見れて魔力を持つか。


「ねえねえ、ちょっと近づいて。」

「は?何企んでる?吸うぞ」


 彼は怪訝けげんな顔をしながら、私の頭の横に手を着き、顔を近づける。

 私はすっと彼の首に腕を回し、彼を繋いでいる黒いリボンを両手で握り締めた。


「お前、いつの間に動けるようになったんだよ!」

「さっき起きた時。ちなみにモロからドレインさせてもらってる。」


 ふふふ!私は口からだけでなくて皮膚の接触があれば、そこからもドレインが可能になった。露出高い者同士密着していたら、吸収効率も上がる。不本意だけど。

 ちなみにナイトメア戦で時チャージした時も、奴は私に触られるのを痛がっていた。きっとその時、ドレインとチャージのアビリティーがレベルアップしたのだろう。


 私は結び目をつーっと解く。するとリボンは崩れるように消えて行った。

 消滅していく絆を見て彼は唖然あぜんとしていた。


「ウソだろ?お前・・・」

「うん。うまくいった。だって魔力があるなら出来るんでしょ?私、のサキュバスだからね。」


 私はドヤ顔で彼の首に回した腕に力を入れて引き寄せる。驚く彼の首元に唇を押し当ててドレインした。


「な!待て!何する!止めろ。」


 彼は生気が足りなくなり人間の姿を保てなくなったのか。ぬいぐるみの様にふわふわの毛が生えた白い獣になった。子猫ぐらいの大きさだ。しかし、しっかりと角と翼と尻尾は有る。私は彼を両手でしっかり捕まえる。かわいい。けど吸い過ぎちゃったかな?


「お前、やりたがったな。」

「人の上で好き勝手していた罰。さて、この夢の主導権返してもらうよ。」


 モロは疲れて動け無さそうだった。私は体を起こし翼をばたつかせる。世界が歪んで一面真っ白な世界になる。まだ怠さは有るけど、動けないわけではない。大きく伸びをした。


「さて起きますか。」


 瞼を開けると先生の家だった。

 自分の体に戻ってきた。私の夢から弾き出されたモロが胸の上に転がっていた。彼にそっと触れようと手を伸ばすとやわらかい毛並みを感じた。妖精に触れた・・・小動物を愛でるように頭をなでる。何の変化かは、よくわからない。妖精が私の体を透過しない。あとでマニュアルを読もう。

 体を起こし外の様子を伺う。日が傾いてきている。長い時間寝ていたのかもしれない。

 私はストールを羽織り、モロを抱いて部屋を出てダイニングへと向かった。

 先生がお茶を飲みながら本を読んでいた。


「先生・・・?」


 私はダイニングの入口からひょっこり顔をのぞかせて声をかけた。

 先生は私を見ると驚いて駆け寄り、そしてギュッと抱きしめられた。

 先生のいい香りがした。相当心配させてしまったみたいだ。


「無茶しすぎだ。心配させやがって!・・・もう目覚めないかと思った。」

「・・・ご心配をおかけしました。」


 何故だろう、先生の顔を見てとても安心した。

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