14 夢の護衛(後編)
「ハハハ!!見つけたぜ!!こんなところに居るって俺はツイてる!聖女と花嫁両方ケイオス様に献上すれば俺の評価は爆上がり!国滅ぼして遊ぶなんていう面倒くさい仕事終りだ!」
どこまでもついて来るケイオス。私から
このリクサをここで始末すればケイオスに報告される前に終わるのかもしれない。
どろり重い黒い感情が私の心にベタリと音を立てて落ちた。
「おとなしく来い。お前らに勝ち目は―――」
私は話が終る前に光の矢をリクサに向けて放ち、次の瞬間に槍を持ち、投げつけた。
全て命中したが、当たると同時にそれらは霧散してゆく。何で!?
「ははははは!残念だったな。俺とお前では格が違うんだよ。魔獣を倒していい気になっていたか?その攻撃は効かないぜ!俺には無限の瘴気が有るんだ。活きのいい花嫁だ。
陛下―――ナイトメアの姿が一瞬揺らいで、大きな犬の姿になる。次の瞬間、私は突進されて弾き飛ばされた。
痛い。
妖精の体でも痛みは感じるようだ。私は後方に吹き飛んだ。ナイトメアに触れた肌がビリビリと痛くて
「いや!マヤ!!!」
リーリの悲痛な声が聞こえた。どうしよう。リーリを守らなきゃ。
「こいつはサキュバスとの相性最悪だからなぁ。瘴気をベースに作られているし、皮膚からも瘴気を流し込むから触られるだけでも痛いはずだぜ。痛くて動けないよなぁ。可哀そうになぁ。さあ、手間かけさせんな。行くぞ。」
リクサがリーリに近づく。このままでは彼女が捕まる。それだけは絶対に阻止したい。私は痛みをこらえて起き上がり、光の槍を三本同時に奴に向かい放った。
三つとも命中したはずなのに二本が消失している。一本が奴の右腕に当たっているが、ダメージを見ると光の矢が刺さったかのようなダメージだった。どうやら私の攻撃は彼に当たると威力が減るようだ。相殺されている?ただ、矢とは違い槍は魔力を多く消費する。矢のように乱射できない。息が乱れる。
でも、もう一本光の槍を作る。
「は?お前・・・まだ動けるのか?面倒くせぇ・・・。」
それを邪魔しようとナイトメアが向かってくる。
集中が切れて槍が消失する。私はすぐさま光の矢を一本、ナイトメアの後ろ脚に命中させた。彼は鳴き声を上げ怯み後退した。
リーリが駆け寄ってくる。
「マヤ!大丈夫?お願い逃げて!」
「でもリーリが・・・。」
「おい!花嫁ェ!」
リクサの怒号が聞こえた。
ナイトメアが彼の傍に戻り
苛立ちながら奴は言い放つ。
「取引だ!お前が来い。そうすれば、聖女は見逃す。そうだ、この世界から引き上げる。どうだ?悪い話じゃないだろ?」
は?何を言い出す。私はぐっと起き上がり
奴は笑いながら語りかけてきた。ニヤニヤ
「何を根拠に信じろと?私を捕まえた後にリーリも捕まえて、世界を荒らすんでしょ?確証が持てない。」
「そんな悲しい事言うなよ。この世界を壊すより、お前を献上した方がコスパいいしリターンも大きい。俺は早く出世したいからな。お前のおかげでみんな助かるんだぜ?信じられないなら王を解放するか。」
そう言い放った途端。ナイトメアは静かに歩み寄り止まると、背後の影が消えて、ぐらっとバランスを崩し倒れた。
マジ?・・・・解放したの?
私とリーリは呆然とした。
「ほら助けていいんだぜ?」
私は王の様子を確認しようと動こうとするが、リーリが止めた。
「罠かもしれません。危ない」
確かに、影が消えただけで戻った確証はない。倒れている人物が微かに動きこちらを見る。そして弱々しく声を発した。
「リ、リーリか・・・?」
後ろでリーリが息をのむ声が聞こえた。
本物のようだ。だが、具合が非常に悪そうで、すぐに
「な?約束は守った。どうする?この状態で本体に戻せば元の綺麗な国王様になるぜ?」
正直、信じられない。それに奴について行くつもりも、まるで無い。でも王の状態が心配だった。私はリーリと目を合わせ頷く。
「王の状態を確認させて!」
「ああ!」
リーリの元を離れてそっと陛下に近づく。
倒れていた彼を抱き起し、話しかける
「大丈夫ですか?・・・」
「ああ・・・君は・・・?」
辛そうに彼は答えた。私はリーリの方を向くと、彼女は結界を張る準備をしていた。そして頷き合図する。
私は陛下の妖精体を抱えてリーリの傍へと戻ろうとした時、消えていたナイトメアがリクサの影から現れた。
まずい。
私は急いで陛下を抱えたまま後ろに跳ぶも間に合わず。ナイトメアが彼に入り込み目の色が変わる。急いで彼からも離れるも、その長い腕に捕まり抱きしめられるように拘束された。
次第に触られている部分が痺れ、痛みが出てくる。痛い。
「捕まえた。約束を破るのはズルいよなぁ?まずはお前からだ。ナイトメア、殺さないように弱らせろ。暴れられたら面倒だ。聖女様はこいつを献上した後、迎えに行くぜ。まあ、その間に力を削らせてもらうがな。」
動きたくても体が痛いし拘束の力が強くて動けない。あんなに弱々しかった陛下のどこにこんな力が残ってるんだ。悔しくて顔を見上げる。
拘束するナイトメアは、私の後頭部を掴み固定して、静かに顔を近づけてきた。そして、唇を塞いだ。そして何か流れ込んできた。
痛い!いたい!いたい!いたい!!
こんなに痛いキスは嫌だ。全身に瘴気の痛みが走る。どうにか助かろうと本能的に記憶を遡り対策を探す。目の前が青くちかちかした。
―――
言葉が頭の中に響いた。わたしも毒?・・・相殺・・・!とっさに私は生気を彼に流し込んだ。
ドレインは生気を吸うがチャージはその逆、自身の生気を他者に分け与える技。生気を流されナイトメアの様子が変わった。拘束の力が弱まった。
私に触られているのも苦痛のようだ。私の肌からも生気の流れを感じる。
―――絶対に許さん。ここで終わらてやろう。
このまま流し込めば倒せる?
腕を何とか伸ばし逃げられないようにナイトメアの頭をぐっと抱えた。
「へぇ、お熱いねぇ。興奮してくるぜ。」
「マヤ!それ以上はダメ!離れて!!」
―――絶対に離すものか。
ナイトメアは離れようと抵抗する。彼からの瘴気の流れは止まっており、わたしは限界近くまで生気で流し続けた。しかし、とうとう突き飛ばされ離れる。
ナイトメアは後ろに飛びのき崩れ込む。ナイトメアは王から離れ悔しそうな目でわたしを睨む。
わたしも、倒れたまま満足げに笑いながら奴を見た。まだ、こんなもんじゃ済まさない。
その時後ろに居たリーリが叫んだ。
「邪な物から我を隔て、守りたまえ!!!」
リーリを起点として球状に結界が広がってゆく
「ちっ!結界で押しつぶすつもりか?」
リクサは悪態をつきながら、部屋から出て行きナイトメアも再び王にとりつき、溶けるように退散した。
窓からは朝日が差し込む。最後に聞こえたのはリーリの悲しむ声と先生が呼ぶ声だった。
角が熱い。
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