14 夢の護衛(⁠前編)

 この日から、聖女リーリ様の睡眠を守るべく、夜に妖精の体になり、王宮へ通うことになった。

 昨夜より早めに、王宮に忍び込み。眠る前のリーリ様の部屋に降り立った。

 果たして彼女は私たちの提案を聞き入れてくれるのであろうか・・・

 扉をノックすることが出来なかったので、扉の前から声をかけようとしたその時。

 ガチャリと扉が開き、妖精のような白髪碧眼の少女が笑顔でひょっこり覗き込んだ。


「やっぱりそうだ!いらっしゃいマヤ。どうぞ入って。」


 彼女は私を部屋の中へ入るよう促した。ここは彼女の寝室だがベッドの他にも小さなテーブルとソファーが有った。案内されてソファーにかけるように私はふわりと浮いた。

 向かいの席に彼女が座る。


「こんばんは!マヤ。昨日はありがとう。あなたのおかげでよく眠れたの。久々にゆっくり眠れたわ。それにね、今日は魔獣が少なくて力の消費がいつもより少ないのよね。」


 彼女はどこか上機嫌だ。にこにこ話す姿が愛らしい。

 まだ疲れは有るものの、昨日よりは確実に顔色がいい。睡眠は大切だ。


「リーリ様その件で相談がございます。」


 私は彼女に夜の護衛を申し出た。私がとある人物から召喚されたサキュバスで、王を助ける事を目的として動いていることも話した。それは先生から許可をもらっている。彼女は静かに私の話を聞き、目を伏せ思考を巡らせ答えた。


「なるほど、分かったわ・・・。それじゃお言葉に甘えてお願いするわ。あなたたちの申し入れ感謝するわ。」


 私たちの提案を聞き入れて貰えて良かった。そっと胸をなでおろし。さっそく今夜から護衛と魔獣の狙撃を始めた。

 基本、彼女の夢の中には入らず。聖女の塔の部屋から警戒する。そして城の様子も観察して、魔獣を見つけたら結界内から魔法で射って倒すを繰り返した。

 この狙撃のおかげで魔法に成れて精度と威力が格段に上昇した。光の矢は本数を増やして打つことが出来た。だが、矢では威力が弱いので何本か命中させなければ倒せない。そこで矢より威力が高い『光の槍』を教えてもらったので、それを投げるようにした。これなら魔獣は一撃で倒れるようになった。

 城に棲む、人ならざる者は魔獣の他にも居た。リーリ様の睡眠を妨害したインキュバスだ。彼は屋根の上に現れ、私は彼に向かい弓矢を構える、それを見て彼は物陰に隠れるのだが、逃げずにこちらを観察している。彼も私が塔から魔獣を狙撃している姿を見ていたので、次は狙って撃ってくると考えているのかもしれない。できれば攻撃したくないので、そのままおとなしくしてもらえると、こちらも好都合だ。


 魔獣は日に日に減り、結界の補修も追い付きリーリ様や王宮の魔法使いたちの負担は格段に減っていった。3日もする頃には場内を徘徊する魔獣は居なくなり、彼女は格段に元気になった。そして彼女とも仲良くなり話すことが増えた。

 この日は夢の中で話すことになり、彼女の夢にお邪魔することになった。

 彼女の夢の中は初日に見た草原だった。空が晴れて爽やかな空が続いている。風に運ばれて花の香りがする。とても心地の良い空間だった。草原の真ん中に敷物を敷いて、座り話をした。


 ◇◇◇


 遠くで爆発音が聞こえた。それと同時に夢からはじき出された。

 ベッドの上のリーリは体を起こし扉の方を睨み警戒している。音で彼女が目覚めたのだ。しかし彼女はどこか苦しそうだ。


「結界を・・・壊された?・・・うっ・・・。」


 足音が聞こえてきた。一人。足音は重く、とても響く。足音が扉の前で止まると。バン!!と扉が破られた。扉が有ったところには、黒髪と赤髪の男2人が立っていた。


 操られた国王陛下と、赤髪の賊だった。


 国王陛下は以前に見た時と同じく、まっすぐを光の無い目で見ていた。しかし彼は半透明でその背後に黒い影が憑りついている。王が私と同じ妖精体になってる。

 赤髪の男が実体のようだ、うねる赤髪を後ろで結い黒いロングコートを羽織っている。ニヤニヤと厭らしく笑いながら話し出した。


「こんばんは聖女様。お久しぶりだねぇ~リクサ様が迎えに来たぜ。なかなか謁見の間から出してくれねーからよ、無理やり穴開けて来ちまったぜ。結界破られて痛いよなぁ。」


 リーリが苦しむ原因は結界を破られたからか。彼女の額にはジワリと汗が滲む。そして・・・国王陛下の姿を見て悲鳴を上げる。


「ニグルム様!あぁ!なんてことを・・・酷い・・・彼に何をしたの?」

「ああ。こいつを玩具にしようと思ってな。今、順調に進めている最中だ。こいつ動かして国を滅ぼして遊ぶのさ。だが聖女様が遊ぶのは俺とだ、おとなしくしていれば優しくしてやる。傷物にしたくねぇからよ。ついてきな。」


 手を差し伸べながらリクサとやらはゆっくりと近づいてくる。リーリは息を切らしながらも彼を睨みつけ後ずさる。

 私はリクサの足元めがけて光の矢を放った。光の矢が床に刺さる。


「来ないで。」


 私はリーリの前に立ち次弾の矢を構え静かに睨む。リクサは私を上から下へゆっくり見ると私の左手を凝視して表情を変えた。


「ほう。うるさいサキュバスだと思ったら・・・お前ケイオス様の花嫁じゃねぇか。」


 時が止まった気がした。


 私は慌てて左薬指の指輪を隠す。『ケイオスの花嫁』この世界に来る前に聞いたワードだった。


一番聞きたくない名前。


ケイオスの関係者に見つかっってしまった。

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