13 チャトルルマヤ(⁠後編)

 今日の午後は休みをもらった。昨日チャトさんとルルさんとで遊ぶ約束をしていたのだ。

 今日はチャトさん家まで飛んでみようと思う。


 妖精体では浮いて移動できるが、実体の翼では飛んだことがなかった。

 もう一組の腕を動かすイメージで、翼は動かすことが出来たので実践だ。


 この翼、広げると結構大きい。普段は畳んでいるがそれでも注意しないと、いたる所にぶつける。私は裏庭に移動して翼を広げた。空気を羽全体で掴む感じではばたく。フワッと体が持ち上がる感じはしたが。飛び上がるまでは勢いが必要だった。


 バタバタバタと思いっきり羽ばたくと、大きく浮いた。そのままの調子で羽ばたく。


 ―――飛んだ!結構高い!


 羽を広げで滑空かっくうする。これは慣れるまで大変そうだ・・・

 墜落だけは嫌だ!それだけ気を付けて飛んだ。チャトさん家の近くにも空き地が有った。そこに降りようと思う。


 10分ほど格闘して、何とか旋回しながら空き地に降り立った。これは、明日筋肉痛になりそう。背中と胸の筋肉が痛い。飛ぶより歩いたほうが楽まである。


 無事にチャトさん家に到着した。

 昨日と同じように私は店舗の扉を開いた。


「マヤ~いらっしゃい。こっちだよ。おいで~。」


 チャトさんに連れられ、店の奥へ進んだ。


 店舗の二階が住居スペースで、私はチャトさんの部屋へ通された。天井からキラキラとモビールが装飾されている。木製の長椅子には敷物が敷いてあり、その上にはカラフルなクッションが沢山ある。


 その中に埋もれるように、可愛い魔女っ娘が座っていた。小さな魔女が歓迎してくれた。


「遅かったじゃないマヤ。さあ座って。詳しく話を聞かせてもらいましょうか?」


 いや、どうやら尋問が始まるらしい。


 ■■■


 お土産で持ってきたお茶を飲み、ルルさんが王都土産に持ってきたお菓子を食べながら話始める。王都のお菓子がこれまた可愛い。薄いピンク色の焼き菓子だ。軽くサクッとした触感で。口の中でフワッと溶ける。溶ける時に薔薇の香りがフワッとひろがる。


「このお菓子美味しい、とっても可愛い。」


 美味しさの余り思わず、最低限の語彙力で、素直な感想をこぼしてしまった。


「ふん!そうよね。やっぱり北の田舎には無いわよね!気に入ったならもっと食べなさい。」


 バカにしているのか、優しさが溢れているのか。ルルさんが自分の分を分けてくれる。


「ルル、お土産ありがと~。これ、王都で人気のお菓子だから並ばないと買えない奴だよね。バラのフレーバーは新作じゃなかった?」


 え!そんな貴重なものを・・・しかしチャトさんも情報通である。


「ルルさんって優しい・・・。」

「ね~!優しいよね~。」


 チャトさんはこの店を手伝いながら、魔法石を用いたアクセサリー、魔法装具を制作している。昨年、王都魔術学院を卒業して実家に帰ってきたそうだ。王都も良かったが、忙しいのに慣れず、王都から一番近い田舎とも呼ばれるこの町が、一番居心地がいいらしい。


 ルルさんは逆で田舎町が嫌で、王都魔術学院に進学したらしい。4年制の学院で現在2年生。王宮配属の魔術師を目指して日夜勉学に励んでいるとのこと。その魔術学院も入学がなかなか大変らしい。二人とも凄いな・・・。


「それよりマヤ!何で、何で先生と住んでいるのよ!!!」

「先生は遠縁の親戚の知り合いで・・・勉強を教えてもらいながら助手として働かせてもらっています。こっちの事何も分からないし、世間知らずでほっとくと危ないからって。」


 私は設定を説明した。

 まだこの世界に来て3日目のぴよぴよなサキュバスだとは言えない。


「今日だって初めて飛んだし。」

「「え?」」


 そうだよね。引くよね。

 翼を持ってたらもっと早い年齢から飛ぶよね。この世界。


「飛べる人居たんだね~。」

「絶滅危惧種ねアンタ。」


 帰ってきた言葉が意外だった。飛ぶのが珍しいみたいな言い草だ。

 皆さん、飛ばないの?


「有翼人種は数多くいるけど、年々と飛行に必要な筋力が落ちて飛べなくなっているのよ。それに近年は浮遊魔法から応用して飛行魔法が確立されているから。魔法で飛ぶのがほとんどよ。」


 ルルさんが詳しく説明してくれた。―――へぇ!うまく飛べなくて良かったんだ。


「子供でも知っていることをアンタは知らないって言うの?」

「恥ずかしながらそうです。」

「アンタ私より年上よね?」

「ハイ・・・」


 ルルさんは頭を抱えた。


 そうなのだ、チャトさんは私の2つ下。ルルさんは更に3つ下だ。5歳年下を悩ませてしまった。我ながら情けない。


「そりゃ・・・確かに、一人は危険だわ。」

「まぁまぁ~飛んでいる最中に落ちなくて良かったね。」


 確かにそうだ。よく落ちずに済んだ。不意にチャトさんが会話を切り出す。


「そういえば、ルル。学院で告白された彼とはどうなっているの〜?」


  恋話だ!ルルさんが瞳を潤め困りながら答える。


「いきなり何よ!・・・私、年上派だし・・・子供とは付き合えないし・・・それに、王宮配属の魔術士じゃなきゃ嫌って・・・でも、そう言っても彼にグイグイ来られて困っているのよっ!!」


「ええ~もったいない!その彼とそのまま付き合っちゃえばいいじゃ~ん。」


「・・・あれ?先生は?」

「エスタ先生は私の目の保養よ!うるさいわね!この年増達!」


目の保養。それを聞いて何処か安心した私がいたのは秘密だ。


 チャトさんルルさんと過ごす時間はとても心地よかった。ここ数日、命を狙われたり異世界飛ばされたり、いろんなことが起こりすぎていたから、こんな風に他愛もない会話ができてとてもうれしかった。こんな楽しい時間がこれからも続けばいい。


 帰りはルルさんに飛行魔法を教わって帰った。

 なんだかんだ言って面倒見がいい。なかなか筋がいいわねとも褒めてくれた。


 ほっこりしながら、家路につくのであった。

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