13 チャトルルマヤ(前編)
エスタ先生が部屋を出た後、私は着替えてダイニングへと向かった。先生は本を読みながらお茶を飲んでいた。
「おはようございます。先ほどはお目汚しを・・・すみませんでした。」
「問題ない、あれくらいでは驚かない。」
見間違いだったかな?動揺していた先生が脳裏に浮かぶ。
私もカップにお茶を注ぎ席についた。
「マヤは、眠くないのか?」
先生から素朴な疑問を投げかけられた。確かにそうだ。
しかし、睡眠不足特有の疲れはなかった。体は休めているのかも知れない。
大丈夫そうです?と疑問形で答えてみた。訝しげな顔をされた。
私は引き続き昨日の偵察の結果を報告した。
街と城を囲む淡い光の壁
城の敷地中を徘徊する魔獣。
魔獣のせいで基地に閉じ込められている兵士や魔法使い、
城で見かけた黒髪と赤髪の男。
インキュバスに眠りを邪魔されていた聖女様。
先生は話を一通り聞いて説明した。
白い光の壁は聖女様が張っている結界で魔獣や瘴気など、邪悪な物を通さない結界とのことだ。ただし私やインキュバスは妖精のため、邪悪とみなされず通れるらしい。
基地は私が見たまま、前線の基地になっているとのこと聖女様の結界の補助をしたり、魔獣の数を減らして城に近づく機会をうかがっているらしい。
城に居た男二人の黒髪は国王陛下とのことだった、赤髪は城に侵入した賊。陛下の様子を話した時先生の顔が曇った。相当心配なんだろう。
聖女様の力が日に日に弱った原因は、インキュバスに眠りを邪魔された線が濃厚だった。
怪我や病気で体力を消耗していたり、心理的な消耗・・・夢の中が不穏な風景で無ければ原因は、インキュバスだ。
奴め、地味に大きくダメージを与えてくる。
「ということは、聖女様の体力が回復すれば状況は良くなって来るってコトですか?」
「そうだな。それに魔獣の数が減れば、結界の損傷と修繕も減るから、聖女様も前線基地の奴らも助かるはずだ。」
少し先生の顔が明るくなった。希望が見えた。少し回り道だがその作戦もあったのか・・・
「私・・・しばらく聖女様の周りでインキュバスを妨害してもいいですか?あと、聖女様の塔から魔獣も狙撃できるので」
「は?狙撃ぃ?何で?」
私が的外れなことを言ってしまったのか。眉をひそめて怪訝な顔をされた。私はマニュアルを呼び出して開き先生に見せた。
『古典魔法:聖Ⅰ』
「光の矢が打てるようになりました!本数少ないですけど・・・。」
私は右手を床にかざして、一本の光の矢を出した。
先生はそれを見て目を丸くする。
「お前、いつの間に覚えた。教えていないのに・・・それは古典魔法で、使える奴の方が少ないのに・・・。古語も読めるのかお前・・・。」
先生はドン引きしている。ドン引きしすぎて名前すら忘れられている。
私は気付かなかったが、ラプラスβベータが付与した翻訳のスキルは古語にも対応していたらしい。私は目を泳がせた。
「昨日の午前中の休み時間に・・・読めちゃったみたいです・・・。」
「スポンジみたいな奴だな・・・。」
スポンジのように水分を吸収する・・・飲み込みが良いという事かな?褒め言葉として受け取っておこう。
「本だけだと偏りが有るので・・・他に先生のおすすめの魔法が有ったら教えてほしいんです。」
「そうか・・・魔法は考えてみる少し時間をくれ。そして、聖女様の睡眠中の護衛と魔獣の狙撃はお願いしたい。契約外だがよろしく頼む。」
先生は姿勢を正すと頭を下げだ。こうゆうとこ真面目で律儀だな・・・
「目標達成に必要な事で、私にできる簡単な事だから、きっと契約の範囲内です。それに契約外の事をしてのペナルティについては何も記載がないので。だから頭を上げてください。」
先生はそう制されて、頭を上げる。心配そうな眼差しで言葉をかけてくれた。
「ただ無理はしないでくれ、マヤの魔力は無尽蔵じゃない。魔力切れを起こしたらどうなるか分からない。」
確かにそうだ。多少疲れることが有るが、魔力切れまで起こしたことはない。限界を知っておきたいところではあるけど、気を付けるに越したことはないかなぁ。
確か魔力は生気を体内で練って作られると書いてあった。ということは・・・
「魔力切れしたら、ドレインで誰かから生気を吸えば回復するんですよね?」
「ほう。そうだが。吸ってみるか?」
考えていたことが口から洩れてしまった。
聞いた私も私だが・・・私は驚いて、飲んでいたお茶が気管に入り、むせる。
先生は悪戯っぽくニヤニヤと余裕の笑みだ。何か・・・悔しい。
「い・・いえ!・・・今は結構です!!」
そう言って、慌てて席を立ち仕事の準備をするため部屋を出た。
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