12 塔の乙女(後編)
これは乙女のピンチかもしれない。私は壁を伝い。壁を挟んで聖女様の後ろへと回った。そして壁にもぐり聖女様に声をかけた。
「もしもし・・・お困りですか?お助けした方がよろしいですか?」
声に気づいてくれるかな?壁の中で部屋の様子が見えない私は返答を待った。
「―――!は、はい!!助けてほしいです!!!」
答えが来た。
私はそのまま壁にぐっと潜りそのまま聖女様の後ろから両手をにゅっと突出し聖女様を抱える。聖女様に触れた!これならば男にも触れるだろう。瞬時に判断して足を勢いよく伸ばし、男の腹めがけて蹴りつけた。ごめん。
ぐっとくぐもった声が聞こえた。私の不意を突いた蹴りで男は後ろに吹っ飛んだ。
男は、一瞬驚いて何が起こったかわからないようだった。私の姿を捉えると睨み立ち上がった。
私は聖女様を離し、彼女を守るように彼らの間に入った。
「お前何者だ。なぜ俺の結界の中に居る?どうやって入った?!」
俺の結界?ここは聖女様の夢の中では・・・。
本当の喧嘩はしたこと無いので正直怖いが、腹をくくろう。私は彼の瞳を真っ直ぐに見据えて言った。
「私もサキュバスです。だから、人の夢に入り込むことが出来ます。どうか退いてもらえませんか?彼女か困っています!」
「俺と同じだと?なら、尚更だ!淫魔の結界は、獲物を取られように張る物だ、そう簡単に破れる物じゃないんだぞ!それに断る。彼女は俺の獲物だ。横取りは許さない。・・・彼女を返せ。」
優しい微笑は消え去り、邪魔されて腹が立ったのか、睨みながら近寄ってきた。
まずいまずいまずい!聖女様は心配そうな目で見ている。目を泳がせてはダメだ!
こうなったら、一か八かやってみるしかない。
「お断りします!」
私はそう言って両手を前に突出す。すると掌の前に無数の光が集まり幾筋もの線が出来上がる。線の先端は矢のように鋭い。その光の矢は男に照準を合わせていた。
「「えっ!?」」
驚く声が2つ。何で??
「ふざけるな!ウソだろ!?何で魔法が使える!?クソッ!!!覚えてろよ!」
男は捨て台詞を吐きながら飛び去って行った。
空間の雰囲気が変わった。私達は夜の草原に立っていた。夜空がきれいでとても清々しい所だった。集中が弛み掌の前にあった光の矢は泡のように消えて行った。
午前中に見つけて読んだ本に書いてあった魔法だ。『古典魔法:聖なる光の矢』しかし今回も打てなかっただろう。集中が足りないのか放つと同時に消えてしまう未習得の技だ。ハッタリが効いて良かった。ふぅと肩をなでおろす。
「助けてくれてありがとう。」
後ろから声が聞こえた。ハッとして振り返る。
彼女は優しい笑みを湛えていた。眠っていて見られなかった瞳は深い碧だ。妖精の女王のような儚げな美しさだ。眼福。
「いえ、ご無事でよかったです!あ!あの・・・勝手に夢に入ってしまい申し訳ございませんでした・・・。」
慌てて謝る。それを見て彼女は可笑しそうに笑った。
「サキュバスは夢に現れる妖精なのだから、謝らないで。大丈夫よ。彼からは何日も言い寄られて困っていたの。ずっと遠くから見ているだけだったのにね。でも、これでゆっくり眠れそうだわ。私はリーリ=ミナス。あなたは?」
「私はマヤです・・・」
リーリ様は笑顔のまま、横に倒れこんでしまった。
「ごめんなさいね・・・ちょっと限界みたいで・・・眠っちゃうかも・・・マヤはすごいわ・・・。外、大変だったでしょう・・・朝日が出ると外の魔獣たちの動きが鈍くなるから、日の出とともに脱出するといいわ・・・。」
そう言って彼女はすっと寝息を立てた。夢の中で眠るので相当疲れていたのだろう・・・
そして私は夢の外へと追いやられた。彼女は深い眠りに入ったようだ。
リーリ様はベッドですやすやと安心した顔で眠っていた。あのインキュバスが睡眠の邪魔をしていたのか。はた迷惑な奴だ。
表では魔獣がうろうろしていた。まだ私を狙っていたのか、塔の周りは数が多い。動きが鈍くなる朝日が出るまではまだ時間が有ったので、さっき不発に終わってしまった光の矢の練習をして時間を潰した。
本数は多く出せないが、聖女様の寝室から矢で魔獣を狙撃できた。魔獣の数も減ってきた頃、東の空が明るくなってきた。振り返ってリーリ様の様子を見る。ぐっすり眠れているようだ。良かった。
さて、もうそろそろ帰るかな。
大きく伸びをして立ち上がった。壁を潜り外の様子をうかがう。魔獣もまばらだ。
塔を出た途端、遠くから声が聞こえた。
「【部屋に戻ってこい】」
「ふぇ?」
情けない声を上げて私は引っ張られた。周りの景色が歪む。左角がちりちり熱い。
気が付くと私の部屋に居た。ベッドの横には先生が立っていた。門限に遅れてしまったみたいだ。先生はむすっとしているが、昨日より顔色は良い。よく眠れたかな。私はどうやら先生が服従魔法を使って呼び戻されたみたいだ。
「遅くなってしまい、すみませんでした。ただいま戻りました。」
「まったっく!こんな時間までふらつきやがt・・・」
先生の言葉が途中で止まった。私を見て驚いている。
―――しまった!忘れていた・・・
サキュバスに紛れ込めるよう露出多めの服を着ていたことを忘れていた。
「ごめんなさい!」
私は屈むように丸くなりそのまま自分の体に戻った。
やだ、今日はこのまま眠りたい・・・。
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