11 偵察(⁠後編)

 体感30分くらい飛んだ。今のところ体に異変が無いので、契約の逃亡には抵触せずに済んだのだろう。そして、やっと王都が見えた。街を囲むように淡く光る白い壁が見える。


 これ軽く考えていると痛い目に合う。そんな気がした。果たして私は許されるのか・・・恐る恐る、光の壁を指先で触れる。すっと何事もなく指が光の壁に入った。


 ―――痛くもない、良かった!許された!!


 何に許されたのかは分からないが、私は光の壁を通り抜け街へと入る。


 皆、寝静まる時間なので町は暗く静かだ。人の姿も見えない。時々、蛍の様に魔法の明かりが家の窓から漏れている。街が荒れている様子は無い。まだ混乱は広がっていないようだ。


 城の周りには堀が有り、更にぐるりと城壁に囲まれている。城壁の上にも先ほど見た淡い白い壁があった。壁の外から中を観察してみる。

 敷地内にはいくつかの建物が有った。細々としたものもあるが目立つのは3つ。メインとなる石レンガ作りの背が高い建物、それに廊下でつながった離れの塔。城とはつながっていないが石づくりの低い重厚な建物。もっと近づいて中の様子を確認したい。


 目立たない位置から光の壁に触れるとやはり入れた。敷地内はうっすら黒い霧が漂い、中には異様な音が響いた。


 ドン・・・ドン・・・


 一か所じゃない、離れたところからも聞こえる。何かにぶつかる様な・・・無機質ではない有機質の音・・・肉がぶつかる音。


 目を凝らして音の発生源を見る。黒い影が光の壁に向かい体当たりしていた。出られないのか、黒い影ははじかれて落ちるがまた飛び上がりぶつかる。それを繰り返していた。


 あれが、魔獣だろうか?中から出られないんだ・・・


 一瞬嫌なことが頭を過った。この光の壁、入れても出られないとか無いよね?

 慌ててまた光の壁に触れる。何事もなくすっと通った。胸をなでおろし、再び周囲を観察する。


 先ほど見た場内のメインとなる建物3棟もそれぞれも光の壁で守られていた。

 魔獣は低い建物と、離れの塔にも体当たりをしているようだった。メインの城からはぶつかる音が聞こえない。


 一番近くにある重厚な低い建物へと近づいた。その建物には魔法の明かりが灯っており、人の気配がした。近くの木の中に入り中の様子をうかがう。武装した兵士が多い。他にも白いローブを着た魔法使いも居た。大きな机が有り10人ほどで囲んで会議をしている。みんな疲弊ひへいしているようだった。


 別の部屋を覗くと、怪我をしている兵を手当てしている姿も見られた。ここは最前線の基地のようだ。しかしこの基地も魔獣に襲われている。なかなか動こうにも難しそうだ。魔法使いが居たので私はこれ以上近づくのを諦めた。次の建物を見に行こう。


 メインとなる城に向かった。


 魔獣に見つからないよう。物陰に隠れながら近づく。城は中央棟の上層を中心に白い光に囲まれている。しかし先ほどの建物の光の壁と様子が違った。建物自体というより、特定の部屋、特定のフロアを囲っているようだった。


 光で囲まれた一室に青くぼんやり光が見えた。人がいるのだろうか?

 光の壁に一番近い棟の屋根から観察する。


 ―――ひぇ・・・・。恐怖で思わず声が漏れた。


 光の壁にみっちりと魔獣が張り付いて蠢いていた。魔獣の目が爛々と赤く光る。

 結構な数がいて、集合恐怖症には堪える絵面だった。


 光の壁は所々ガラスの様に小さく割れていた。割れ目から表に出ようと魔獣が蠢いている。割れた個所は少しずつ傷を埋めようとしているが、間に合っていなさそうだ。この城が魔獣の発生源のようだ。


 青い光が見えた窓を凝視する。人影が二つ。・・・男が二人。黒い髪の男と赤い髪の男だった。黒髪は生気がなく虚ろな目で外を見つめている。対象に赤髪はきょろきょろと外を警戒していた。参ったな。肝心の国王の外見聞いてくるのを忘れた。服装は黒髪の方が良いものを着ている。黒髪が国王陛下かな?


 虚ろにまっすぐを見ていた黒髪の男の視線が急に変わり、私がいる方角を見た、彼と目があった。感情が無い、何を考えているか分からない目だった。


 まずった。見つかった。


 黒髪の男の視線に気づいたのか赤髪もこちらに気づきなんか叫んでいるようだった。瞬間、壁の中で魔獣が私に向かって集まってきた。


「!!!ひぇ・・・気持ち悪・・・。」


逃げようと、動いた同時だった。


バリッ!!!


壁の一部が割れ、黒い生き物が数匹飛び出して向かってきた。


「やっばっ!!!」


 空を飛べるのか一直線に向かってくる。しかも早い。街へと逃げようとしても間に合いそうにない。慌てて狭まる視界に入ったのは、城の離れの塔だった。


 そちらも白く光に覆われていたのでそちらに向かって飛んだ。


 魔獣が迫ってくる。唸り声がだんだん大きく聞こえてくる。視界の端で鋭い牙が有る赤い口を大きく開けているのが見えた。


 咬まれる!いや喰われる!絶対子ミミックより痛い。


 半泣きになりながら必死でスピードを上げる。その時後ろでドン!とぶつかる音が3つ聞こえた。私は寸前で塔の中に飛び込めたらしい。光の壁にはじかれて魔獣が地面へと落ちていった。


 私も気が抜けてへなへなと塔の中に落ちて行った。

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