06 私の能力
何も知らない状態で転移してきたこの世界。私を召喚した男、エスタこと『先生』と、互いの情報をすり合わせて、この状況を整理していた。
何故、私に課せられたミッションが、『人探し』から『王救出』になっているか。何故、人間がサキュバスになっているのだろう。いかんせん情報が足りない。私は頭を抱える。
頭を抱える左手首にきらりと輝くものが見えた。異界の王ことラプラス
そうだ!本も貰っていたんだ!それに何か書いてあるかもしれない。
「そうだ!あの時の『本』」
つぶやくと、空中から本が一冊、ストンと落ちてきた。βさんから渡された本だった。私はそれがテーブルに激突する前に慌ててキャッチする。テーブルに置いて二人で観察する。
本はA5サイズくらいの大きさで3cm位の厚みが有る。深い青の革張りの本で手触りがいい。
背表紙と表紙に「真夜の君」と刻印されている。契約書に記載があった名前と同じだ。
ゆっくりと表紙を開き、ページをめくる。ステータスと書かれたページが出てきた。そこには名前などRPGゲームで見るような情報が書かれていた。そして『種族:サキュバス』とも書かれていた。
名前 真夜の君
種族 妖精 サキュバス Lv.63
【特性】
『夢幻』
夢の中では自在に自身や環境を操ることが出来る。
『眠り姫』
この特性を持つことでアビリティーレベルが初期化される。特定条件を達成すると以後アビリティーの威力は2倍になる。
【アビリティー】
『誘惑』
対象者が望む姿になり誘惑する。成功確率は30%。
『夢渡り』
他者の夢の中を自在に移動することが可能。
『ドレインI』
対象者の生気を経口で吸い取ることが出来る。生気を吸うと体力と魔力が回復する。
『チャージI』
自分の生気を対象に経口で注ぎ込む。自身の体力が減る。対象は体力と魔力が回復する。
レベルを見て嬉しくなったが、特性の『眠り姫』によりアビリティーの初期化がかかっている。1からスタートって事!?
そして使える技を見て、顔を引きつらせた。ガチでサキュバスのアレだ。しかも経口って・・・。技を見る限り回復と状態異常をかけられるサポート系キャラのようだ。弱そう・・・もっと強そうな技ほしい。しゅんと視線と尻尾をさらに下に落とした。すると、まだ何か書いてあった。
【付与能力】
「自動言語翻訳」
視覚聴覚で得た情報の言語の翻訳が自動で行われる。話す言葉も自動的に通訳され発声される。筆記は対象外
「魔法」
魔力生成器官の習得
自身の生気を用いて魔力を練り、魔法を使うことが出来る。
βさんが言っていた、付与してくれた能力か。確かに生活には困らなそう。魔法が使えるのは収穫だ。
他に何か書いてないのか。パラパラと頁を捲るが、何も書かれていなかった。マニュアルと呼ぶにはお粗末すぎる。
私は深くため息を吐き、先生に本を寄せて私のステータスを見せる。
「やっぱり私、サキュバスみたいです。使えるアビリティーも書いてあります・・・。」
先生は本を覗く。そして静かにページをめくる。長い前髪と眼鏡の奥で、本を見つめるオレンジ色の瞳が綺麗だなと不覚にも思ってしまった。
彼は読み終わったのか、彼は優しく本を閉じ、私の元へ返した。あまり嬉しそうな顔ではない。彼曰く、レベルは高いが、特性がネックなのと、アビリティーの内容が一般的なサキュバス達と同じだった。
「マヤはこれらの技を使ったことは有るか?」
先生の問いに私は静かに首を横に振る。サキュバス歴、半日です。尻尾も私の気持ちを表すように項垂れる。使い方も分からないし。使ったこともない。普通の人間元彼氏ですら誘惑できなかったのに・・・自信がない。
朝食を摂りながら話し合った私たちは2つの仮説を立てた。
1、異界の王の手違いで私は先生の所に来てしまったのではないか。
2、私のサキュバス化は異世界転移による影響ではないか
確信は無い。どちらかというと、二人がそうだと信じたい内容だと言ったほうがいい。
先生も凄く困っているのに私は役に立てそうにない・・・このまま、ここに居続けるのは申し訳ない。右も左も分からない世界だけど、出て行った方がいいのかもしれない。
「先生。あの・・・私お役に立てそうにないし、ここを出て行きます・・・」
先生は自身の手を机の上で組み、額を載せて暫く考えていた。そして言葉を紡ぐ。
「それはやめた方がいい。契約書の逃亡に抵触する可能性がある。しばらくは、ここで暮らすといい。部屋が空いている。こちらの世界に来たばかりで行くところも無いだろう。嫌ではなければ俺の助手として魔法屋を手伝ってほしい」
そうだ・・・『逃亡』の項目を忘れていた。お互いが逃亡と見なしたらまた契約書に制裁される。
それもあるが、役に立たない人間寄りのサキュバスをここに・・・居場所が無い私にとって、彼からの提案は嬉しかった。非力な私のせめてものお詫びとしても、この世界に慣れるに機会としても丁度良いのかもかもしれない。それに魔法屋のお手伝いに魅力を感じた。
私は彼の提案をありがたく受けることにした。できる事からやってみよう。
「先生、ありがとうございます。一生懸命お手伝いします!今日からよろしくお願いいたします。」
「ああ、俺は契約についてもう少し調べる。解除する方法があればそれに越したことはない。」
先生はそう言ってカップと皿を持ってキッチンへと行ってしまった。私も慌てて食べてカップと皿を持ってキッチンへと彼追いかけた。まずは使った食器を洗わせてもらいたい。
その時、リ―ンと金属の心地よい音が鳴る。
「こんにちは!先生いるかしら?」
おっとりとした、明るい女性の声が聞こえた。
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