第4話 アラスカ





テーブルの上に三十枚の一万円札が広げてあった。

薄暗い部屋で隆文はその金をじっと見つめていた。

涼子から金を受け取ったのは初めてで、それだけに目の前に広げてある金は重く感じられた。

隆文は溜息を吐くと、その金をかき集める様に束ね、トントンと揃えた。

そして二つに折り、ポケットに捻じ込んだ。


卑劣な事をやっているヤツら…。


しかも隆文より若いヤツらが集まり、身近な人に危害を加えている。

そんな事が自分の周囲で起こるなんて考えた事も無かった。

今朝の森野といい、アラスカの連中といい、一人では何も出来ない連中。


隆文はずっと一人だった。

社長と呼ばれる様になった瞬間からずっと一人だった気がした。

いつも傍に女たちは居たが、それとは違う、仲間と呼べる存在、それは居なかったのかもしれない。

だから何でも一人でやって来た。

一人だからこそ間違った選択をした事もあるが、隆文はそれを後悔した事は無い。


テーブルの上のタバコを取り、火を点けると、薄暗い部屋に紫色の煙が広がって行く。

煙を燻らせてはタバコを咥える。

無意識にそれを隆文は繰り返していた。


玄関にカギを差し込む音が聞こえ、隆文は玄関の方を見た。

さっき買い物に行くと言い、出て行ったリョウコが帰って来たのだろう。

少し変わった恋人の由紀子に頼まれ、隆文の部屋に押し掛けて来たリョウコ。

自分の働く店の先輩だからと言ってこんな事までするだろうか…。

逆も然りで、自分の店の後輩だからと言ってそんな事を頼むのだろうか。

この二人は肉体関係にある。

いわゆるバイセクシャルだった。

そしてその二人と隆文も肉体関係があり、考えてみると異様な関係だった。


部屋に入って来たリョウコは、ダイニングの隆文を見て驚いた様子だった。


「びっくりした…。電気が点いて無いから、有山さん出かけたのかと思いましたよ…」


リョウコは買って来たモノをテーブルの上に置いてそう言った。


「ああ…出かけるところだったんだよ」


隆文は灰皿でタバコを揉み消した。


「あ、そうだったんですね」


リョウコは袋の中から食材を出し、テーブルに並べていった。


「ああ…けどやめた」


隆文はリョウコにニッコリと笑いかけると、リョウコもその隆文の顔を見て微笑んだ。


「じゃあご飯作りましょうか」


リョウコは部屋の明かりを点けた。






平本は中華料理をクチャクチャと音を立てながら食べていた。

その円卓の向かいに紹興酒をチビチビと飲んでいる野村が座っていた。

高級中華料理店の個室に食べきれない程の料理が並んでいた。

野村はひたすら料理を食べる平本を、半分呆れながら眺めていた。


「野村君…食べないのか…」


平本は自分の皿に不器用に料理をよそいながら野村を見た。


「はい…。私はコレが有れば充分です」


野村は紹興酒のグラスを平本に見せる。


「で、どうだったんだ。有山の元社員たちは」


再びクチャクチャと音を立てて料理を喰らう。


「充分な働きをしてくれたのかね…」


平本が子供の様に顔を料理で汚しているのを見て、野村は苦笑した。


「どうですかね…。連絡が取れないのですよ」


「まさかヘマをやらかしてくれたんじゃないだろうな…」


平本は食べるのを止めずに、口の中のモノを飛ばしながら喋り続ける。


「わかりません。何度も電話してるのですが…」


「見るからに使えないヤツだったな…森野という男」


平本は箸を置き、今度はビールのジョッキを取りがぶ飲みした。


まさに餓鬼…飢えた餓鬼だな…。


野村は平本を見てそう思った。


「森野はある意味モンスターですよ。アイツを使いこなせるのは有山を置いて他にはいないでしょうな…」


隆文の能力を称える野村の言葉が平本は面白く無さそうだった。


「しかし、経営の才は無かったという訳だな」


「まあ、そうですな…」


野村はクチャクチャと音を立てて食う平本を見て気分が悪くなった。


「ちょっとトイレへ…」


そう言って席を立ち、部屋を出てトイレへと歩く。


これだけ連絡が取れないのはおかしい。

多分しくじったのだろう…。


野村はそう確信していた。


もしも傷害事件にでもなると野村も平本も危ない。


早目に手を打たなければ…。


野村が勢いよくトイレの重いドアを開けると、ドアの向こうに高そうなスーツ姿の紳士が立っていた。


「失礼…」


その紳士はそう言い野村の横をすり抜けて出て行った。

野村は何処かで見た、その顔を目で追ったが、思い出せずトイレの中に消えた。






杉本孝一郎はハンカチで手を拭きながら席に戻った。


「料理は決まったか…」


孝一郎は席に着くなり、妻の涼子に訊いた。


「コースにしたわ」


涼子は孝一郎の顔も見ずに携帯の画面を見ていた。

同じ様にその横の席で娘の涼香が携帯を触っていた。


「お前たちはパパより忙しそうに見えるな」


孝一郎は妻と娘を見て嫌味を言う。


「主婦は忙しいのよ…」


涼子は吐き捨てる様に言った。


「女子高生も忙しいのよ…」


涼香も同じ様に言う。


「はいはい」


孝一郎はそっくりな妻と娘に呆れていた。


孝一郎は建設会社を経営していた。

父親が築いた工務店を継ぎ、孝一郎はこの街の一流企業に成長させた。

父親は大工で職人気質だったが、孝一郎には経営の才覚が有ったのだろう。

父親から会社を受け継ぎ、昔ながらのやり方を一切辞めて会社を有名企業と呼ばれるところまで大きくした。

しかし、そんな孝一郎でも妻と娘には敵わなかった。

十歳程若い妻とその娘。

家に帰ると家政婦を含め女ばかり。

その環境で女に勝てる男など居ないだろう。

孝一郎は自分の方を向こうともしない妻と娘を尻目に自分も携帯を取り出すと、液晶画面に触れる。

数件のメッセージが来ていて、それを開く。


「パパ。昨日はありがとう。あおいはやっぱりパパじゃないとダメみたい…」


若い愛人のあおいからのメッセージで、孝一郎は無意識に携帯を隠す様に持ち替えた。


「あら…お仕事」


涼子はその行為を見逃さなかった。

孝一郎は一度咳払いをした。


「あ、ああ…。でも明日で良い。急ぎの用じゃない様だ…」


そう言って上着の内ポケットに携帯をしまった。


「今日は、仕事は無しだって約束だったな」


「別に良いわよ、私は。ママと二人でも」


涼香は相変わらず携帯で何かを入力しながら言う。


「私も良いわよ」


涼子もそう言うと再び孝一郎から目を逸らした。

二人に不要とされているのを孝一郎は感じ取ったが、そのままそそくさと出て行くのも癪だった。


「何を言ってるんだ。せっかく家族水入らずで食事に来てるのに…」


孝一郎は不服そうな表情を浮かべ、背もたれに寄り掛かった。


今日は家政婦の家族に不幸事があり、夕食を孝一郎が贔屓にしている高級中華料理店で食べる事になったのだった。


「本当に久しぶりね。こんな高級なお店で外食するの…」


涼子が呟く様に言う。


「お前はちょくちょくホテルでメシ食ってるじゃないか。カードの請求書が来てるぞ」


「あら、主婦にも主婦同士の付き合いってモノが有るのよ」


涼子はそう言って携帯をバッグに入れた。

孝一郎は涼子にそう言われて口を尖らせた。

子供の様な癖だった。


涼子は主婦同士の付き合いなど、この数年ほとんどしていなかった。

ホテルのレストランで隆文と飯を食った請求だった。


それくらい堂々としている方がバレないのよ…。


涼子は口癖の様に隆文に言っていた。


個室のドアをノックする音が聞こえる。


「失礼します…」


店のスタッフが前菜の皿を運んで来た。







「どうぞ。召し上がれ」


リョウコは隆文の前にカレーライスの皿を置いた。


「おお…。美味そうだな」


隆文はリョウコの顔を見て言った。


「私の顔見て、美味そうって言わないで下さいよ…」


リョウコは笑いながら、隆文と自分のグラスに冷えたビールを注いだ。

テーブルの上にはサラダにカレーライス、ビールが並んでいた。


「頂きます」


隆文が手を合わせてカレーライスを食べ始めると、それをじっと見つめるリョウコ。


「うん…。美味い」


隆文の口から自然にこぼれた言葉にリョウコは手を叩いて喜んだ。


「やったあ」


そして自分も食べ始めた。

隆文はそんなリョウコを見て微笑んだ。


「料理得意なんだね」


「幼い頃から料理してたんで」


リョウコはニコニコと隆文に微笑みかけた。


「私の家、母子家庭で、母はいつも家には居なくて。私が食事作ってたんです」


「そうなんだ」


二人はリョウコの手料理を食べながら会話を弾ませた。


「はい。私、一番上だからいつも弟と妹、母の分も作ってました」


「そうか、それでこんなに美味いんだな」


隆文はカレーライスを綺麗に平らげていた。


「おかわり有りますよ」


リョウコは隆文の皿に手を伸ばした。


「ああ…ありがとう」


隆文はスプーンを皿から慌てて取った。

隆文の二杯目のカレーを準備するリョウコの後ろ姿を隆文はじっと見つめた。

少なくとも隆文はこのリョウコに恋愛感情は無い…筈だったが、こうやって一緒に食事をしていると、それに似たモノが芽生える。

そんな感覚に囚われていた。


「はい、どうぞ」


隆文の前に二杯目のカレーが置かれた。


「有山さん…」


その言葉に隆文は我に返った。


「あ、ああ…。頂きます」


隆文は早速その二杯目のカレーに取りかかった。


「今は一人で住んでるの」


「はい。母が亡くなって、しばらく姉弟だけで暮らしてたんですけど…。妹が高校を出たのをきっかけに…」


隆文は小さく何度も頷いていた。


「そうか。姉弟、仲良いんだね」


「そうですね」


「皆、近くに住んでるの」


「妹は大阪で看護士やってます。弟はすぐ近くに…。バーやってるんですよ。今度、一緒に行きませんか」


リョウコはニコニコ笑ったままだった。


「へえ…。バーか。良いね」


「是非、行きましょう。私、御馳走しちゃいますよ」


「じゃあ、これから行こうか。カレーのお礼に俺がおごるよ」


隆文もリョウコに微笑みかけた。


「何てバーなの」


「アラスカって言うんですよ。知ってます」


「え…」


その言葉に隆文は顔を上げてリョウコを見た。







「野村君。では頼んだよ」


平本は中華料理店の外でタクシーに乗り込んだ。


「はい。承知致しました」


野村は静かに頭を下げた。


「うん…」


タクシーのドアが閉まるとゆっくりとウィンドウが開いた。


「それから…」


平本は手招きし、野村を呼んだ。


「はい」


平本は野村の耳元で、


「有山の元社員の件。あれは、私は何も知らんかった事にする。後は適当に処理してくれ」


そう言った。

タクシーは静かに滑り出した。

そのタクシーを見送りながら野村はタバコを咥えた。


「まったく…。田舎もんはこれだから困る」


そう言うとタバコに火を点けた。

そしてニヤリと笑い、再び中華料理店の入口に立った。


「席を準備してくれ」


そう言うと店の中に入って行った。


「野村様…いつものお席でよろしいでしょうか」


店のスタッフは野村を先導した。


「あのオッサンと一緒に飯を食うなんて、気持ち悪くて無理だ」


野村のその言葉にスタッフは苦笑していた。


「あ、もちろん勘定はあのオッサンに付けておいてくれよ」


野村はスタッフに微笑んだ。


野村は料理を注文し、携帯を取り出すと森野に電話をかける。

数回のコールで森野が電話に出た。


「はい…」


「森野か」


やけに怯えた声に聞こえた。


「何かあったのか。何度も電話したんだぞ」


「野村さん…。俺…俺…」


何かあった事はその声でわかった。


「どうしたんだ」


野村は周囲を見回し、小さな声で苛立ちながらそう訊いた。


「今朝、言われた通りに有山社長を脅そうと古山と東田と一緒に待ち伏せして…」


森野は震える声で話す。


「高架下で捕まえて、果物ナイフで脅した…んですけど、変な男が割り込んで来て、その男に怪我させてしまって…」


野村は眉間に皺を寄せ溜息を吐いた。


「何でナイフなんて使ったんだ」


野村は絞り出す様に森野に言う。


「だって…有山社長を脅すって、言葉で勝てる気しなくて…」


最悪の事態だった。

これで警察にでも通報されていたら野村まではすぐに辿り付くだろう。


「今、何処なんだ」


「自宅にいます…」


森野の声は震えていた。

能力以上の事をやらせるとこうなってしまう事は野村にも十分承知の上だった。


「良いか、何があっても知らないで押し通すんだ。その男や有ちゃんに警察に垂れ込まれてたら、俺もお前も終わりだぞ…」


野村からすると森野の事などどうでも良かった。

自分を守る術をこれから考えなければいけない。


「お前が怪我させた相手は誰なんだ」


「わかりません。けど、作業着を着てました。何とかサイクルって名前が胸のところに…」


森野は今にも泣き出しそうな声だった。


「野村さん…どうしてくれるんですか。野村さんがあんな事言わなきゃ、こんな目に遭わずに済んだのに…」


野村は苦笑すると無言で電話を切った。


「人のせいにするんじゃないよ…」


そう呟いた。







「すまんな…」


隆文はベッドに横になっていた。


「いえ…やっぱり有山さん、疲れてるんですよ」


リョウコは隆文の額に濡れたタオルを乗せた。

リョウコの弟が「バーアラスカ」の経営者だという事を聞いた後に、またあの頭痛が隆文を襲った。

頭を押さえて苦しむ隆文をリョウコはベッドへ連れて行き寝かせてくれた。


「いや…もう大丈夫だよ」


そう言って起き上がろうとする隆文をリョウコは押さえつける。


「ダメです。ゆっくり休んで下さい」


確かに、まだ頭痛が少し残っていた。

隆文はこめかみを押さえ、少し頭を振った。


「わかりました。寝ます」


隆文はそう言うと、リョウコに背を向けてベッドに潜り込んだ。

しかし、本当に眠りに付く事は出来なかった。

リョウコの弟がバーアラスカのオーナーであると言う事。

考えてみればこれも皮肉な話だった。

涼子に頼まれて調べようとしている男が、もう一人のリョウコの弟だと言う。

隆文の皮肉な運命なのだろう。

隆文は静かに目を閉じた。


この頭痛は何だ…。

頭が割れそうだ。


隆文は目の前に広がる暗闇の中で考えた。

全てが一つに繋がった。

そんな気がした。


これからどうして行こうか…。


隆文がアラスカの事を調べ、涼子に伝える。

涼子は非合法なやり方で、アラスカのオーナー、リョウコの弟を殺してしまうかもしれない。

そうすればリョウコが悲しい想いをする。

しかしそのリョウコの弟に涼子の娘は既に酷い目に遭っているのだ。


俺はどうすれば良いのだ…。


隆文は強く閉じた視界の中でそう考えた。

気が付くと震えるほどに両手を強く握っていた。


「失礼します」


隆文の背中でそんな声がした。

隆文が目を開けて振り返ると、服を脱いだリョウコがベッドに入って来るところだった。

リョウコは隆文のベッドに入り、隆文に抱きついて来た。


「リョウコちゃん…」


「良いんです…」


リョウコは強く隆文に絡まるように抱きついて、


「私は少しでも有山さんの役に立てるなら…嬉しいんです」


そう言った。

隆文の隣で下着姿のリョウコは温かい呼吸を繰り返した。

今日はとてもリョウコを抱く気分にはなれなかった。

隆文はそっとリョウコの背中に手を回した。

そしてしっかりと抱き留めた。






高木はショウジから紙袋を受け取った。


「確かに二百枚受け取った」


そして上着のポケットから封筒を取り出し、ショウジに渡した。


「兄貴に話したんだが、値上げの件は少し待ってくれって事だった」


ショウジは手に持った封筒をカウンターの上に放り投げる様に置いた。


「そうですか…。俺たちがかなりリスキーな事をしているのわかってもらえないんですかね…」


ショウジはそう言うと高木に背を向けた。


「もうやめた方が良いのかもしれないですね…」


「おい、それは困る」


高木は焦る様に手をショウジに伸ばした。


「ちゃんともう一度、兄貴を説得するから。そんな事は言うな…」


高木はしっかりとした口調でショウジを説得した。


「いや…そろそろ限界ですよ。こんな事を繰り返していると何時か足が付く。俺たちは全員強姦でパクられます。今までもかなりやって来ましたんでね…」


高木は黙っていた。

高木からするとショウジたちがどうなろうが、切り捨てれば良い。

それだけの話だった。


「とにかく、もう一度兄貴に話すから、その返事は少しだけ待ってくれ」


高木は床に置いたDVDの入った紙袋を持った。


「良いな。また近い内に連絡する」


そう言うと店を出て行った。


「ちっ。あの野郎…。弱みにつけ込みやがって…」


高木はバーアラスカを出て歩きながら呟いた。

実はショウジたちへの報酬は今の倍の額が出ていた。

それをその都度、高木がピンハネしていたのだった。


「仕方ない。もう少し渡してやるか…」


高木は道に停めた車の後部座席に紙袋を放り込み、運転席に乗り込んだ。


ショウジは無造作に放り投げた封筒をカウンターの中の引き出しに入れた。


「ショウジ…。やめるのか」


ケンイチはショウジにカウンター越しに詰め寄った。


「脅しだよ、脅し。ああでも言わないと高木さんは動かない」


「上に話を通して無いって事か」


「そうだと思うよ…。それどころか、多分元々の俺たちへの報酬を高木さんはピンハネしてる筈だ」


ショウジはケンイチに微笑んだ。


「何でそんな事わかるんだよ…」


ケンイチはショウジを見つめたまま言った。


「簡単さ…。俺ならそうするってだけの話さ…」


ショウジはそう言うと微笑んだ。


ふざけやがって…。

今に見てろよ…。


ショウジは微笑みながら、そう心の中で呟いた。






隆文は暮れた街を歩いていた。

いつもの様に人の溢れ返る街だったが、その街に音は無かった。

いつもの様に線路沿いの道を歩き、高架下に入ると、隆文の靴音だけがその空間に静かに響いていた。

その闇を抜ける先はライトに照らされて、その光の中に人影が浮かび上がっている。

その人影は真っ直ぐに隆文を見ている様だった。


「社長…」


浮かび上がる人影は隆文に向かってそう言った。


「誰だ…」


隆文は立ち止り、その人影に言う。

その影はゆっくりと隆文の方へ歩き出した。

隆文は目を凝らし、その光に浮かび上がる男を見つめていた。

目が慣れて来たのか、その影がはっきりと見え始めた。

それは森野だった。


「森野か…」


その影は答えない。


「社長のせいで、俺の人生は滅茶苦茶です」


森野は手に持ったナイフの鞘を抜いて床に落とした。

その鞘がコンクリートの上で転がり、カランカランと渇いた音が響く。


「死んで下さい…」


森野は暗闇に光るナイフの先を隆文に向ける。

その鈍い光は見覚えのある光だった。


「森野…」


森野は徐々に足を速め、隆文は光に向かい両手を広げて立った。

次の瞬間、森野の持つナイフは隆文の腹に突き刺さり、隆文は両手を広げたまま、後ろに倒れた。

痛みは無かった。

森野は隆文に突き刺さったナイフを見ると、ニヤリと微笑み走り去った。

止めどなく隆文の腹部からは血が溢れ出していた。


「も…りの…」


隆文は走り去る森野に息絶え絶えにそう言う。


「森野」


森野の後ろ姿の影に今度は叫んだ。






隆文は目を覚ました。


夢だった…。


隆文はベッドに起き上がると、肩で息をしていた。

その様子にリョウコも目を覚まし、部屋の明かりを点けた。


「大丈夫ですか…」


隆文は妙にリアルな夢に動揺していた。


「ああ…変な夢を見た」


隆文は額に汗を浮かべていた。


「殺される夢だった…」


「殺される…。有山さんがですか…」


「ああ…刺された」


隆文はリョウコの方を見るでも無く、正面を向いたまま頭を掻き毟り、そう呟いた。


「そんな…」


リョウコはまだ息の荒い隆文に抱きついて、頬にキスをした。


「大丈夫ですよ…私が守りますから…」


しばらくリョウコは隆文に抱きついたままで、隆文の呼吸は徐々に治まって来た。


「何か、飲みモノでも…」


リョウコはそう言うと下着姿のままベッドを抜け出した。


嫌な夢だった。

刺された感覚まで隆文には残っていた。

腹を触り、掌を見たがそこには勿論、血の痕は無かった。


リョウコはミネラルウォーターのキャップを開けて隆文に渡す。


「どうぞ…」


隆文はリョウコを見て、


「ありがとう…」


と、礼を言うとミネラルウォーターを受け取った。


「やっぱり、何かあったんですね…」


リョウコは再びゆっくりとベッドに入った。


「いや…何でも無い」


隆文はミネラルウォーターのボトルを握ったまま項垂れて静かに言う。


「かなり疲れてますよ…。ゆっくり寝て下さい」


リョウコは隆文の手からボトルを取ると、キャップを閉めて、ベッドの脇のテーブルの上に置いた。


隆文の脳裏で、さっきの夢がスローモーションで蘇り、それを振り払うかの様に頭を振った。


「大丈夫ですか」


リョウコの優しい声は今の隆文には一番の有難い安らぎの音だった。


「ああ…。大丈夫だ。朝まで眠れば復活するさ」


リョウコに微笑みかけて、ベッドに潜ると、リョウコもその隆文を見て、同じ様にベッドに身体を沈めた。






隆文は自分の携帯電話の音で目を覚ました。

辛そうな表情で瞼をこじ開け、ベッドの横のテーブルの上に置いた携帯を取った。


「はい…」


やっと発した声も、かすれて相手には聞こえているかどうかわからない程だった。


「隆文…。私」


電話の相手は由紀子だった。


「ユキか…」


ゆっくりと身体を起こし、昨夜から置いてあるミネラルウォーターのボトルを取り、一口飲んだ。


「亡くなったわ…。親父殿」


その一言で隆文は完全に目を覚まし、大きく息を吐いた。


「そうか…」


「うん」


涙ぐむ由紀子の姿が見える様だった。


「これからお通夜の準備」


「そうか」


こんな時、やはり他人事なのだと隆文は思った。

由紀子の痛みと同じモノを自分は感じる事が出来ないのだった。

それに気付くと、由紀子にかけてやる言葉など一行も出て来なかった。


「母が一人になっちゃうから、私しばらくこっちに居るかもしれない…」


由紀子は鼻をすすりながら言っていた。


「ああ…。親孝行してやれよ」


「うん」


隆文の言葉に由紀子の涙は再び溢れ出す。


「リョウコちゃん…。ご飯作ってくれてる…」


「ああ…。そんな事まで頼まなくてもいいのに…」


隆文はテーブルの上のタバコを取り、火を点けた。


「リョウコちゃんだって、都合有っただろうに…」


「あら…リョウコちゃんから言って来たのよ」


そう言うと電話の向こうで由紀子は笑っていた。


「若いのに、良い子でしょ」


隆文はタバコの煙を吹かしながら微笑んだ。


「そうだな…。惚れてしまいそうだ」


「馬鹿…。手出したら殺すからね…」


由紀子の声は力無く笑っていた。


「ユキ…」


「何…」


「ありがとう。大変な時に、俺の事なんか心配してくれて…」


隆文は心から由紀子に言った。


「ううん。隆文こそ、色々と心配ありがとう」


由紀子は照れ臭かったのか、そう言うとすぐに電話を切った。

隆文は切れた携帯電話をテーブルに置いて、タバコを灰皿に押し付けて消した。


「ユキさんですか…」


部屋の入口にリョウコが立っていた。


「ああ…。お父上が亡くなられたそうだ」


隆文はベッドから出た。


「そうですか…。じゃあユキさん、もうすぐ帰って来ますね…」


リョウコは少し寂しそうに言う。

それは死者への弔いの意味ではない事が隆文にははっきりとわかった。


「いや。しばらく実家に居るそうだよ。母上が一人になるからって言ってたな…」


その言葉でリョウコの顔に笑顔が戻った様に見えた。


「そうですか。…ご飯出来てますよ」


リョウコはキッチンへ戻って行った。

隆文のシャツをいつの間にかパジャマ代わりにリョウコは着ていた。

その姿を男が好む事を知っているのだろう。

隆文はリョウコが綺麗にたたんで置いていたジーンズを穿き、ダイニングテーブルに座った。

テーブルの上にはサンドイッチとサラダ、ウインナーとスクランブルエッグが並んでいた。


「すごいな…」


隆文はその料理を見て呟いた。

リョウコは冷蔵庫からヨーグルトとオレンジジュースを取り出し、隆文の前に置く。


「ホテルの朝食並みだな」


「ようこそ、ホテルリョウコへ」


リョウコはそう言うと外したエプロンを腕に掛け、頭を下げた。

隆文はそのリョウコを見て笑うと、リョウコは微笑みながら、カップにコーヒーを注いだ。


「毎日こんな食事だと太ってしまうな…」


隆文はそう言うと手を合わせた。


「あら…でしたらデザートの後にフィットネスのサービスもお付けする事が出来ますが…」


リョウコが大真面目に言ったその言葉に、隆文は目を丸くしていた。






野村は高架下を歩いていた。

昨日の酒がまだ残っているのか、足取りは重い。


この高架下の商店街は二キロ程続いている。

午前中には開店しない店、休日しか開けない店、夜だけの店など様々で、もちろん閉まっているシャッターも多かった。

幅一メートル程しかない店や、ガラクタを並べている店もあり、そんなモノを外国人が買って帰るだけの店も多くあった。

野村はそのノスタルジックな雰囲気の商店街を物珍しそうに見ながら、ゆっくりと歩いていた。


昼前に店を開店させるために荷物を運び込んでいる男を見つけた。


「あの…」


野村は今朝剃らなかった髭を気にしながら、その男に声をかけた。


「あ、はい…」


男は店の中に荷物を置くと振り返り、野村を見た。


「この辺に、バイク屋か自転車屋みたいな店有りましたよね…」


「あ、有りますよ。次の出口の辺りですね。トキワサイクルって店です」


男は高架下の先を指さした。


「ああ…そんな名前だったな。ありがとう」


野村は男に微笑みそう言った。


「腕の良いオヤジのバイク屋ですよ。俺もバイク見てもらってますから」


男は野村に頭を下げて店の中に入って行った。

野村はその男を見送り、再び歩き出した。


トキワサイクル…。

その店主を森野がナイフで切り付けたのだろう。


野村はゆっくりとトキワサイクルへと歩いて行く。

この高架下は独特の匂いが充満していた。

野村はその匂いが嫌いでは無かった。


平本はこの匂いに怪訝な顔をするだろうな…。


そう考えて野村は笑った。

所々に脇道が有り、そこから光が差す。

野村はコツコツと靴音を響かせながらトキワサイクルに向かって歩いた。


その時、脇道からゆっくりと人影が現れ、野村の前に立ちはだかる。

野村はその影をじっと見つめた。


「有ちゃん…」


野村はその影にそう呟いた。

隆文は野村の前に立ち、ただ野村を睨むように見つめていた。


「何だよ…。お前、元部下に襲われたんだってな…」


野村は裏返った声でそう言うが、隆文は答えず、ただじっと野村を睨み付ける。


「いい気味だ。借りた金は返す。これは社会のルールだ。倒産しようが破産しようが、それは法律の話だ。森野たちみたいに突然会社が無くなって、路頭に迷う者たちも居るんだ。お前は犯罪者以下だよ。有ちゃん…」


野村は自分を正当化するために、想いの全てを吐き出す様に喋るが、隆文はじっと野村を睨むだけだった。


「何だよ。破産したら余裕か…。もう借金に追われる事も無いモンな…」


野村はしゃくり上げる様に笑った。


「アンタが指示したのか…」


隆文は笑う野村に静かに口を開いた。


「俺を襲えとアンタが指示したのか…」


野村は笑うのをやめた。

そしてその表情から笑顔が消えた。


「だったらどうなんだ…」


野村は吐き捨てる様に言った。


「お前の元部下は馬鹿で使えないからな…。関係無いオッサンまで切り付けてくれて…。めんどくさいからそのオッサンの息の根、俺が止めてやろうと思って…」


野村はその先の言葉を口にする事は出来なかった。

隆文の素早い蹴りが野村の腹に食い込んでいた。

野村は隆文の蹴りで数メートル後ろに吹っ飛んだ。

そして咳込みながらゆっくりと立ち上がった。


「何をするんだ…有山…貴様…」


しかし野村が立ち上がったところを隆文は再び蹴り上げた。

野村は脇に積まれた段ボールの山に倒れ込み、声にならない声を上げていた。


「有山…。お前…こんなに暴力的だったか…」


野村は壁に手を突いて起き上がろうとするが、今度はその顔面に蹴りが入り、唾液の飛沫を飛ばしながら冷たいコンクリートの床に転がった。

隆文に表情は無かった。

その隆文の顔を見上げて、野村は恐怖を覚え、身体を震わせた。

床に転がった野村を更に隆文は蹴り上げた。


「うっ…」


蹴りが入る度に、野村はそう小さく呻き、顔を歪める。


「まっ、待ってくれ…。悪かった。俺が悪かった…有ちゃん…」


野村は声を震わせながら床に膝を突き、隆文に頭を下げた。


「確かに俺だ…。俺が平本のオヤジの命令で森野に声を掛けた。だけど、ナイフ使えなんて言って無いんだよ。そんな事させる気も更々無かった。本当だ。信じてくれ…」


野村はそう言うと額を床に擦り付ける様に何度も何度も頭を下げた。

隆文はその野村を見てニヤリと笑った。


「野村さん…アンタのそれで、実際に血を流した人間が居るんだよ…。その責任は取ってもらえるのかな…」


隆文のその言葉に野村はピクリと動いた。

そして野村はゆっくりと顔を上げた。


「それは…」


野村の声は震えていた。

今、野村の中で朧げな恐怖と現実がしっかりと繋がったのだった。

野村は隆文を見上げたまま、意識とは別に体の震えを感じた。


「か、勘弁してくれ…」


野村は両目から涙を流し、再び土下座したが、隆文はその野村の頭を容赦なく蹴り上げた。

その蹴りは力の加減を知らない、憎しみに満ちた蹴りだった。

野村は後ろに仰け反る様に倒れ、荒い息のまま高架下の薄汚れた天井を見ていた。

その視界に隆文の顔が入って来ると野村は恐ろしくて経験した事の無い様な震えを全身に感じた。


「ひぃ…」


怯えるその声は、既に隆文に反抗しようなどという気持ちは微塵も無い様だった。


「良いか…。今度、俺以外の人間に手出したら、俺はアンタを殺す…。覚えておけ…」


隆文は野村の胸元を掴み、持ち上げた。

されるがままに野村は隆文に引きつけられ、その野村の頭に頭突きを入れた。

その薄暗い空間に、骨のぶつかる鈍い音が響く。

その頭突きで野村は脳震盪を起こし、気を失った。

隆文はその高架下に野村を捨てる様に放り出し、ゆっくりと歩いて暗がりに消えて行った。






孝一郎は社長室の椅子に座り、山と積まれた書類に目を通していた。

最近、老眼がかなりきつくなって来ている様子で、小さな文字の書類を跳ね除け、目頭を押さえる事が多くなった。


机の上の電話を取り、内線を入れる。


「はい…」


「済まんがコーヒーを持って来てくれ…」


孝一郎はそう言うと電話を切った。

すぐに社長室のドアがノックされる。


「どうぞ…」


孝一郎は書類を見ながら返事をすると、秘書の女性がコーヒーと郵便物を抱えて入って来た。


「コーヒーと今日の郵便です」


そう言うと机の上にカップとその郵便の束を置いた。


「ありがとう」


孝一郎は頭を上げて、その秘書に礼を言うと、秘書は微笑み、頭を下げて部屋を出て行く。

机の上に置かれたコーヒーを孝一郎はすする様に飲み、郵便の束を自分の前に置いて一つ一つ差出人を確認する。

ダイレクトメールの類は読まずにゴミ箱に捨てるモノも多かった。

大きめの封筒を手に取り裏を見るが、差出人の名前が無かった。


「何だ、これは…」


孝一郎はその封筒にペーパーナイフを入れ、中を開けると透明なケースに入ったDVDが入っていた。


「DVDか…何だろう…」


孝一郎はそのケースを開け、中のDVDを取り出し、パソコンのトレイを開けてそれを中に入れた。

画面がブラックアウトしてしばらくの時間があった。


素人が作ったタイトルが浮かび上がる。


孝一郎はコーヒーカップを持って窓の外を見ていて、タイトルが表示された事にも気が付かない様子だった。


街を見下ろせる場所に建つ孝一郎の会社の本社ビル。

その最上階に社長室はあり、そこからの眺めは孝一郎の自慢で、この街で一番の眺めだと自負していた。

その窓から街を眺めていると、一種の征服感に似たモノを感じる事が出来る。

妻や娘以外の人間は皆、孝一郎を敬い平伏す。

そんな感覚を覚えるのだ。


孝一郎は振り返り、机の上にカップを置くと、タバコを取り咥えた。

ふとパソコンの画面に目をやると、制服姿の女子高生が数人の男に押さえつけられ、嫌がる少女をいたぶる映像が流れていた。


「なんだよ…ポルノか…」


孝一郎はタバコに火を点けて、椅子に座った。

音を消しているパソコンからは無音の映像が流れていた。


「性質の悪い悪戯だな…。こんなモノ俺に送りつけてどうしろと…」


その映像に孝一郎の言葉は止まった。


「涼香…」


孝一郎はそう呟いた。

孝一郎はパソコンのボリュームを上げた。


「いやぁ。助けて。やめてよ…」


涼香のそんな声が孝一郎の部屋に響いた。

孝一郎は娘の涼香が男たちに輪姦される映像を瞬きも忘れて見つめていた。

そして大きく見開かれたその両目からは涙が溢れていた。


「涼香…」


孝一郎は何度も何度も嗚咽と共に娘の名前を呟いた。






平本はイラついていた。

約束の時間になっても野村が来ない事が原因だった。

何度も携帯と机の上の電話を交互に見る。


「まったく…あの男は。どうせ昨日、飲み過ぎたんだろう…」


平本はコーヒーカップを取り、下品な音を立ててすする。

平本の会社の女子社員はいつも噂している。


「社長は高い服着て、良いモノばかり身に付けているけど、食べ方や行動で不潔に感じる。一緒にご飯を食べるのも嫌」


同じ事を野村も感じていて、それを知らないのは平本本人だけだった。


平本はカップをテーブルに置いた。

その時、携帯が鳴った。

平本はその携帯を慌てて取る。


「野村君。何をやってるんだ。私は朝から君を待っている。何故来ない」


平本は怒鳴る様に言った。

自分の思い通りにならなければ気に食わない典型的なタイプだった。


「私です。有山です」


「あ、有山…」


平本は携帯を握り直し、ソファの背もたれに身体を付けた。


「何の用ですか」


「あなたが、本当に用が有るのは私でしょう」


隆文はクスクスと笑い、静かにそう言った。


「そうでしたね」


平本も平然を装っていた。


「あなたの命令で動いた男たちですが…」


「私の命令…。はて、何の事でしょうか」


「そろそろ警察へ行くんじゃないでしょうか…」


その隆文は平本の知っている隆文と違い、淡々と話していた。

その言葉に平本は青ざめた。


「な、何を…」


「詳しくは野村さんに聞いて下さい」


隆文はそう言うと電話を切った。

平本は隆文に馬鹿にされた気になり、それが許せずに苛立った。


「野村は何をしているんだ…」


そう叫ぶと手に持った携帯電話を壁に投げ付けた。

壁にぶつかった平本の携帯はバッテリーパックが外れ、社長室の床に飛び散った。


「有山…」


平本は奥歯をギシギシと鳴らしながら呟いた。






トキワサイクルのオヤジは隆文の原付を触っていた。

昨日切られた腕を吊り、片手で部品に付着したオイルをワイヤーブラシで擦っていた。

時折、痛そうに顔を歪め、動きを止める。

そんな光景を隆文は店の外から見つめていた。

ふと顔を上げたオヤジは其処に立つ隆文を見つけた。


「よお、兄ちゃん。入りなよ」


そう言って手招きすると、隆文は頭を下げてガラスのドアを開けた。


「あれから大丈夫だったかい」


オヤジは手をウエスで拭きながら息を吐いた。

隆文は無言で頷いた。


「そうか…。心配してたんだよ」


オヤジは冷蔵庫を開けて缶コーヒーを二本取り出すと、一度冷蔵庫の上に缶を置いて、一本を隆文に渡した。

隆文はそれを受け取り小さく頭を下げた。


「ありがとうございます」


オヤジは、手を左右に振った。


「遠慮するな。こんなモンしか無いけど」


そう言うと椅子に座った。


「もう少しで直るよ。来週部品が届いたらそれで完璧だ」


目の前にある隆文の原付を顎で差した。

隆文はその言葉に頬を緩める。

そして、オヤジにメモを渡した。

オヤジはそのメモを受け取ると開いた。


「何だい、これは…」


「そこに行けばちゃんと治療してもらえます。もちろん警察への通報もありません」


オヤジが手にしたメモには病院の名前と電話番号が書いてあった。


「モグリの治療って事か」


オヤジはそのメモを机の上に置いた。


「病院には話を付けてあります。これから行って下さい」


隆文は椅子に座ったまま深々と頭を下げた。


「ありがとう」


オヤジは隆文を見て礼を言った。


「思ったより傷が深いんでな…。後で行かせてもらうよ…」


オヤジは机に置いた缶コーヒーを飲むと、隆文は無表情のまま立ち上がった。


「じゃあ、また来ます」


そう言うと頭を下げて店のドアを開けた。


「おい、兄ちゃん。兄ちゃんの方は大丈夫なのか…」


隆文は振り返りもせず、


「大丈夫ですよ…」


そう言ってドアを閉めた。

オヤジは少し様子の違う隆文が気になり、直ぐに後を追って店を飛び出したが、何処を見ても隆文の姿は見当たらなかった。






どれくらい眠ったのだろうか。

隆文はゆっくりと目を開けた。

リョウコの言う「食後のフィットネス」の後、そのまま眠ってしまったらしい。

隆文はリョウコを起こさない様にベッドを抜け出し、バスルームに入ると少し熱めのシャワーを出して、頭から一気に浴びた。

そのシャワーで完璧に目を覚ました。

隆文はバスタオルを腰に巻いて、髭を剃った。

リョウコの肌には伸び始めた髭は痛かったらしい。

もちろんそんな理由で剃っている訳では無いのだが…。


鏡越しに隆文のワイシャツをパジャマ代わりに着たリョウコの姿が見えた。


「起しちゃったかな…」


隆文は顔に付いた泡を洗い流しながら、リョウコに言った。


「いえ…もう起きなくちゃ…」


リョウコは隆文の後ろに立って微笑んだ。


「今から一旦家に帰って来ますね」


隆文は顔をタオルで拭きながら振り返った。


「そうか。気を付けてな」


「はい。今日は私も夜、仕事なので…」


リョウコは由紀子の店で働いていた。


「うん。俺も今日は夜バイトだから」


「仕事の前に戻りますね。夕飯作りますから」


リョウコはそう言うと隆文のワイシャツを脱いで、胸を露わにした。


「私もシャワー浴びますね」


リョウコは隆文の脇を通り抜け、バスルームへ入って行った。


「あ、お湯熱めにしてあるから…」


隆文は外からリョウコに声を掛ける。


「私も熱めが好きなんで、大丈夫です」


リョウコの声がバスルームに響いた。

隆文は微笑み、寝室へ入りベッドに座った。

服を着ていると携帯が鳴り、隆文は着替えながら携帯の液晶画面を見た。

その画面には森野の名前が浮き出ていた。

その名前の表示を見るのは久しぶりだった。

隆文は通話ボタンを押して、携帯を耳に当てる。


「もしもし…社長ですか…」


間違い無く森野の声だった。


「ああ…」


隆文は短く返事をした。


「今朝はすみませんでした。俺、本当にどうかしてました…」


森野の声は震えていた。


「野村さんに言われて…俺…」


隆文は無言のまま、森野の声を聞いた。

たとえどんな理由があっても、許される事じゃない。

トキワサイクルのオヤジは腕に傷を負ったのだ。

隆文自身ならいざ知らず、まったく関係無い人に傷を負わせたのだ。

隆文は森野の声を冷静に聞きながら、腹の中は煮えくり返っていた。


「野村に頼まれたんだな…」


隆文は吐き出す様に言った。


「はい…。新会社の役員にしてやるから、社長を脅せって…」


森野は今にも泣き出しそうな声だった。


野村の考えそうな事だ。

多分その話も嘘だろう。

そんな餌に食いつく森野の単純さを利用したのだ。


「良かったじゃないか…晴れて新会社の役員だな…」


隆文は苦笑しながらそう言った。

今度は森野が無言のままだった。

森野も野村と平本に騙された事は薄々感づいているのだろう。


「あの…」


「何だ」


「俺が怪我させた人…。警察に行ったんですかね」


トキワサイクルのオヤジの事だった。

オヤジは隆文の知り合いを警察に行かせたくないと言って、病院にも行かなかった。

それを考えると隆文は鼻の奥がツンとなった。


「警察に行かなくても、あの傷じゃ病院から通報が行くだろうな…」


隆文は森野にそう答えた。


「そうですか…。じゃあ今頃は警察も俺たちを探してますよね…」


傷付けた相手への心配ではなく、自分の心配をする森野に隆文はまた怒りを覚えた。


「森野…」


「はい」


「お前、変わって無いな」


隆文は首と肩で携帯を挟み、ジーンズを穿くと、テーブルの上のタバコを取った。


「え…」


「そこはあのオヤジさんの心配を先にするべきだろう…」


隆文は煙を吐きながら言った。

森野は黙ったまま何も答えなかった。


「古山と東田はどうした」


隆文は立ち上がって窓から外を見た。


「あのまま逃げてしまって、連絡も付きません」


再び森野の声は震え始めた。


「だろうな…」


隆文はまたベッドに座り、タバコを灰皿でもみ消した。


「アイツらはお前の事を本気で心配する様なヤツらじゃ無い」


典型的な今どきの若いヤツ。

野村が古山と東田を見て隆文に言った事があった。

その時はそんなモノだろうかと隆文は思ったが、その野村の言葉はある意味当たっていたのかもしれない。

到底、森野に使いこなせるヤツらじゃ無かった。


今回も護身の為に既に警察に掛け込んでいる可能性もあるだろう。


「人を信じるって大変なんだよ…森野」


隆文は微笑んだ。


「俺…俺が怪我させた人に謝りたいんですけど…」


森野は蚊の鳴く様な声で言った。

隆文は目を閉じた。

少し森野のその気持ちが嬉しかった。


「その時は、俺が一緒に行ってやるよ」


隆文は微笑みながらそう言った。


「ありがとうございます…」


森野は多分、電話の向こうで頭を下げていただろう。

それを感じ取る事が出来た。


「とりあえず、今日のところは俺が行って来る。また連絡して来い…」


隆文に何度も礼を言って、森野は電話を切った。

電話を聞いていたのだろう、寝室の入口にバスタオルを体に巻いたリョウコが立っていた。


「やっぱり何かあったんですね…」


リョウコは隆文の横に座り、隆文の顔を覗き込む様に見た。

隆文はそのリョウコから逃げる様に顔を引いた。


「ああ…ちょっとな…」


「そうですか…」


隆文の困った顔を見て、リョウコはそれ以上何も訊かなかった。


「あ、着替えますから、少しの間、向こう見てて下さい」


そう言うとリョウコはたたんで置いてあった下着を取った。

裸は見られても着替えるのを見られるのは嫌。

リョウコはそう言っていた。

それを思い出して隆文は口元を歪めた。


「あのシャツ…借りてても良いですか」


パジャマ代わりに着ていたワイシャツの事だろう。


「ああ。良いよ」


隆文は窓ガラスに映るリョウコの姿を見ていた。






隆文はリョウコと一緒に部屋を出た。

自分の部屋へ帰るリョウコを見送り、隆文はトキワサイクルへ向かった。

オヤジに借りた真新しい原付にキーを差し込み、エンジンをかけると一気に坂を下りた。

線路沿いの道に出て、隆文は軽快に走り出す。

トキワサイクルまでは五分とかからない。

トキワサイクルの一つ手前の信号が赤に変わりブレーキをかけた。

隆文が店の方を見ると、ちょうど軽トラックを店の前に停めて、オヤジが店の中に入ろうとしていたところだった。

切られた腕を時折痛そうに押さえるオヤジ。

自分を庇おうとして森野に切られた腕だった。

あの傷では仕事もろくに出来ないかもしれない。

隆文はオヤジに申し訳ない想いでいっぱいだった。


後ろの車がクラクションを鳴らした。

信号は青に変わっていて、隆文は原付を走らせ、トキワサイクルの前に滑り込ませた。

隆文はヘルメットを脱いでシートの上に置く。


「こんにちは…」


店のドアを開けるとオヤジの背中に声をかけた。


「おう、兄ちゃん。ありがとうな。紹介してもらった医者に行って来たよ。おかげで早く治りそうだ」


オヤジはそう言うと笑った。


「紹介…医者…」


隆文は腑に落ちない顔でそう呟く。


「何だ…午前中に紹介してくれたじゃないか…。忘れたのか」


オヤジも不思議そうに隆文の顔を見た。

その表情に隆文は気付いた。


「ああ…、そうだった、そうだった。寝不足でどうも記憶が曖昧になるんですよね…」


そう言って頭を掻いた。

オヤジはそんな隆文を見て口元を歪めた。


「まあ、いいや…。あの医者、腕の良い医者だな…。あっと言う間に傷口縫ってたぞ」


オヤジはいつもの様に冷蔵庫から缶コーヒーを二本出し、その一本を隆文の胸先に押し付ける様に渡した。


「おかげで、缶コーヒーも自分で開けれる様に…なったよ」


オヤジは顔を顰めながら缶コーヒーを開け、隆文に缶を掲げ飲んだ。

隆文は微笑んで、自分も缶コーヒーを開けた。


俺は医者など紹介していない。

午前中にオヤジと会ってないし、話もしていない。

一体どうなってるんだ…。

ドッペルゲンガーの仕業なのか…。


隆文はそう考えながら、店の中のパイプ椅子に座った。


「そう言えば、昼間…何処行ったんだよ。すぐに追いかけたのに、居なかったな。相当急いでたんだな」


隆文はゆっくりと顔を上げ、オヤジを見た。


「何だ…どうしたんだよ。怖い顔して…」


隆文は無意識に眉間に皺を寄せていた。


「俺、何処の病院、紹介しましたか…」


その言葉にオヤジは口をあんぐりと開けていた。


「あ、いや…間違わずに紹介したかなって思って…」


隆文は少し慌てて、手を頻繁に動かし話した。


「砂田医院…」


オヤジは不思議そうに答えた。


「大丈夫か…。兄ちゃん」


「ん…ああ。大丈夫です。砂田医院なら間違いない。ほら、一睡もせずだったんで、間違ってたんじゃないかなって思ってしまって」


隆文は少し焦る様に言い訳をした。

オヤジは隆文の顔をじっと見つめていた。

そして、ニッコリと笑った。


「そう言う事か。大丈夫だよ。先生も兄ちゃんから事情は聞いてるって言ってたし」


砂田医院。

隆文の会社の客で、砂田医院なら内緒で処置してくれるだろうと考えていたところだった。

しかし、勿論、隆文は砂田医院に連絡などしていなかった。


一体どうなってるんだ…。


隆文はしばらく無言で缶コーヒーを飲んでいた。

その隆文の前にオヤジは椅子を引き寄せて座った。


「ところで、兄ちゃん襲ったヤツら…大丈夫だったか」


「はい…後悔してましたよ。やっぱり誰かに命令されてやったみたいで…。一度、ここに謝りに来たいって言ってましたけど」


隆文は目を細めてそう言った。


「ここには来なくていいよ。スパナで殴られたくなかったら来るなって言っといてくれ」


微笑むオヤジを見て一緒に隆文も微笑んでいだ。






夕方、隆文は部屋に戻った。

原付を階段の下に停めて、いつもの様に軋む階段を駆け上がると、部屋の明かりが窓から漏れていた。

リョウコが先に帰って来ているのだろう。

隆文が部屋のドアを開けるとリョウコが立っていた。


「おかえりなさい」


キッチンに立つリョウコは隆文にニコニコと微笑んでいた。


「ただいま。何か良い匂いしてるな…」


隆文は靴を脱いで、ダイニングテーブルに座った。


「もう少し待ってて下さいね」


リョウコは嬉しそうに料理を作っていた。


「何か嬉しそうだな」


「やっぱり料理って、誰かの為に作るモノですからね…」


リョウコは振り向いて隆文に微笑みかけた。


「そうか…。そうだよな。一人じゃつまんないもんな」


隆文は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して飲んだ。


「何時帰って来たの」


隆文は何気なくそう訊いた。


「え…」


不思議そうな顔をしてリョウコが振り向いた。


「いや、俺もあのままずっと外出してたからさ…」


リョウコは眉を寄せた。


「私が戻った時、有山さんいらっしゃったじゃないですか…」


隆文はその言葉に口に当てたペットボトルを止めた。


「何言ってるの…」


隆文は苦笑しながらリョウコに言った。


「何って…」


「俺はリョウコちゃんが帰る時に一緒に出たきり…」


そこまで言って、喋るのを止め、目を閉じて頭を振った。


「ごめん…そう…だったね…」


隆文は俯いたまま静かに言った。

リョウコは心配そうに隆文をじっと見つめていた。


隆文の携帯が鳴り、上着のポケットを探り携帯を取り出した。

由紀子だった。


「はい。もしもし…」


隆文は小さな声で電話に出る。


「あ、隆文…。花輪ありがとう」


由紀子はそう言った。


「花輪…」


「うん、準備してくれたんでしょ」


隆文は記憶に無かった。

由紀子の居る場所さえ知らないのに、贈れる筈も無かった。


またか…。


隆文は自分の知らない自分が色々な場所に現れて、自分の代わりに動いている事を悟った。


「ああ…。それくらいしか出来ないけどな…」


隆文は吐き出す様に言った。


「でも、何で私の実家わかったの…。」


由紀子は不思議そうに隆文に訊いた。


そうなのだ…。

由紀子とそんな話をした事が無く、隆文の中にそんな記憶は微塵も無かったのだった。


「前に話してくれたじゃないか…。それを覚えていたんだよ…」


隆文はキッチンに立つリョウコを見ながら微笑んだ。


「そっか…」


由紀子は電話の向こうで納得した様だった。


「今からお通夜なの…。今晩も眠れないわ」


そう言うと溜息を吐く。


「体壊すなよ…」


「うん。ありがと」


隆文はもう訳がわからなくなっていた。

自分の中でどんな説明も出来ない。

もう一人、自分が居るとしか考えられなかった。


「じゃあ、行くわね。リョウコちゃんによろしくね」


由紀子はそう言うと電話を切った。

隆文はしばらく切れた電話を見ていた。


「ユキさんですか…」


リョウコは隆文の向かいに座った。


「ああ…。今からお通夜らしい…」


隆文は表情の無い顔でそう言うと立ち上がった。


「ちょっとタバコ買って来る」


そう言うと玄関へ向かった。


「すぐ戻るから…」


リョウコに微笑むと玄関のドアを開けた。


「ドッペルゲンガー…」


隆文はドアを閉めるとそう呟いた。


「一体どこに居るんだ…」


軋む階段を降りながら隆文は周囲を見渡した。

周囲から音が消えて、風景がモノクロに見え始めた。

すると今度は酷い目眩に襲われる。

錆びた手摺を握り、その目眩が通り過ぎるのを待った。

しばらくすると目眩は治まり、風景に色が戻った。


「何なんだ…」


息を荒くしながら隆文は呟き、ゆっくりと階段を降りて行った。


トキワサイクルのオヤジ。

リョウコ。

ユキ。

三人が口裏を合わせて俺を陥れようとしているのか…。

そんな筈は無い…。

そんな事をして何になる…。


隆文はタバコの自動販売機まで歩きながら考えた。

ほとんど無意識に金を入れてタバコを買い、取り出し口からそれを取り、顔を上げた。

その時、少し先の角を曲がる自分の姿を見た。

隆文は驚き、周囲を見渡した。

夕方、この辺りの人影は疎らだった。

隆文は走り出し、その角を曲がった男を追った。


すぐに追い付き走るのを止めると、その男の後ろに立つ。

手を伸ばし、隆文はその男の肩に手を掛ける。


隆文はゆっくりと振り返った。

隆文は睨む様にその男を見ていた。


「な、何ですか…」


振り向いた男は隆文の形相に怯えながらそう言った。


別人だった…。


隆文は安堵して息を吐き、


「すみません…人違いでした…」


と、頭を下げた。男は慌ててその場を去り、隆文だけがその場に立ち尽くしていた。


そうだよな…。

そんな馬鹿な話…有る筈が無い…。


隆文は自分の部屋に向かってゆっくりと歩き出した。






ショウジは酔い潰れた女の前に乱暴に酒を出した。


「なによお…。それが客に対する態度なの」


女は呂律が回らない程に酔っていた。


「お前は飲み過ぎなんだよ。それ飲んだら帰れ」


表情の無い顔でショウジは言い、女の前で酒を作り出した。


「ケンイチ」


「はい」


ケンイチはショウジの作った酒をテーブルへ運んだ。


「お待たせしました」


ケンイチはショウジとは対照的で常にニコニコ微笑んでいた。

バーアラスカは毎夜、店が終わった後に集まるホステスや、そのホステスがアフターで連れて来る客で、ある程度賑わっていた。

ショウジは窓の外を見つめた。

特に何が見える訳でも無い。

隣の古びたビルとその前を通り過ぎる酔いどれた人々。

それだけが見えるいつもの窓だった。


「ショウジー」


酔ったカウンターの女はショウジを呼んだ。

その声にショウジは店の中を見回した。

アラスカの中はタバコの煙と酒の臭いが充満していて、ショウジは息苦しささえ感じていた。

ショウジはゆっくりとカウンターの客の女の前に歩み寄った。


「ショウジー。帰るわ。いくら」


女はフラフラと立ち上がり、隣の椅子に置いたバッグを開けた。


「ああ…ちょうど三千円」


ショウジはそう言うとタバコを咥えた。

女はブランド物の財布から千円札を三枚出して、カウンターの上に叩きつける様に置いた。


「御馳走様。また明日ね…」


女はおぼつかない足取りで歩き出した。

ショウジはタバコに火を点けて、ケンイチを呼んだ。

ケンイチは預かったコートを取って女に渡し、入口のドアを開けた。


「ありがとうございました」


ケンイチは頭を下げて女を見送った。

女がフラフラと出て行くと、ケンイチは慌ててショウジの元に走った。


「あの女、帰しちまって良いのかよ…。俺はてっきり、あの女撮るのかと思ってたのによ」


ケンイチは小声で言った。

ショウジはケンイチの顔を見て、


「慌てる事はないさ…。あの女はまた来る」


ショウジはそう言うとタバコを消した。


「さあ、閉めるぞ。ラストオーダー聞いてくれ」


ケンイチは腑に落ちない表情でテーブルに座る客の所へ歩いて行った。







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