第23話 犯人捜し

 勇者選考会は一か月続いた。

 その間、毎日毎日、日本中から勇者を目指す者が東京ドームに集まる。


 同時に調査対象も日々増えている。


 調査も一社では処理しきれず、複数の探偵社を利用している。

 情報が洩れるリスクが増すが、仕方ない。


 今日も、追加の調査対象を探偵社に送付し、あちらから送られてきた調査結果を確認する。

 調査にはいくつか段階がある。


 まずは首の後ろの確認だ。

 調査対象の首の後ろを撮影し送らせる。


 蛇のタトゥーは今も鮮明に覚えている。

 あれば一発でその日、現場から逃走した奴に間違いない。


 だが、そんな明確な証拠をいつまでも残していない可能性が十分にある。

 しかし、完全に除去するにしても痕跡は残るはずだ。


 怪しい奴を見つけたら、そいつを深掘り調査させる。


 その怪しい奴を探すために、調査結果を確認していると――


「こいつ……」


 首の後ろに何らかの治療の痕跡がある30代の男がいた。

 名前は五月迅さつき じん


(五月? どこかで聞いたような……)


 どこだ、思い出せない。

 何か重要な所で聞いた名前の気がする。

 根拠はないが、こう胸の辺りがザワザワする。


「あっ!!!!」


 俺は思い出した。

 この苗字は法務大臣と同じだ。


 "(偶然か? いや、珍し目の名字だ。こんな偶然がある訳ない。

 ずっと気になっていた。心の隅で引っ掛かっていた。

 何故、法務大臣が俺の執行を見届けに来たのか。

 大臣が迅と言う男の殺人を俺に着せたのだとしたらどうだ?

 死ぬ瞬間を見届けたいという心理状態になっても不思議ではない)"


 俺は五月大臣についてネットで検索をかける。

 五月が法務大臣に就任したのは、俺が死刑執行されるすぐ前だ。


 五月は就任直後に俺の死刑執行命令を下している。

 しかも、五月は元官僚で法務省出身だ。


 警察に圧力をかける事も出来るはずだ。


 俺は家族関係も調べた。


(!)


 五月迅は五月法務大臣の息子であることが確定した。

 続けて五月迅について調べたが、大臣の息子とはいえ只の一般人の様で情報が出てこない。


 やはり、こういうのは素人ではダメだな。


 俺は各探偵社に向けてメールを送った。

 五月迅のSNS系のアカウントを調べろと……。

 もっともはやく見つけ出した所には追加報酬で1000万を提示して。


 返信は思いの外、早く来た。

 フェイスノート、シャウター、インスタヤードなど、各種SNSの五月迅のアカウントが見つかった。


 それらを片っ端から見る。

 そして、見つけた。

 あの蛇のタトゥーを……。


 投稿された写真の一枚のガラスに映り込んでいた。


「天成様……」

「そうか……、お前らがそうだったのか……」


 俺の中でずっと燻ぶっていた怒りが、真犯人を特定したことで大きく燃え上がった。


「天成様!」

「え!?」


 声を掛けられ、振り向くと愛歌がいた。

 風呂に入っていて、今まで部屋にはいなかったのだ。


「どうされたんですか? その様な怖い顔をされて……。呼び掛けても気付いていないようでしたし……」

「あ、そうなのか。ゴメン、ゴメン。あ、えっと、なんでもないよ。ちょっと胸糞悪い話をネットで見かけちゃってね……。ただ、それだけだから……」


「そうなのですか……。あ、そうだ。天成様、明日なのですが、わたくしは、びょ――」

「あ、悪い。今日はちょっと疲れてて、話は明日にしてくれないか……」


「あ、はい。ごめんなさい」

「はは、愛歌が謝る事は無いよ。話を聞けなくてごめんね」


 俺はそのまま寝室に向かった。

 今は愛歌の顔が見れない。

 五月への憎悪を抑えきれず、顔に出てしまいそうだからだ。


 俺は寝室に入ると、探偵社にメールを送る。

 内容は五月迅の徹底尾行だ。


 そして、もし奴がダンジョンに入るそぶりを見せたら報告しろと追記して……。

 そう、五月迅は勇者だ。


 今回の勇者選考会で選ばれた。

 その事実も余計に俺を苛立たせる。


 だが、同時にそれは俺にとってはチャンスでもあった。

 ダンジョンという密室と、俺のアブソリュート・スラッシュ。


 完全犯罪のカードが揃った。

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