第20話 迷宮皇の王笏

「ピギャアーーーーーーーーーーー」


 マンティスパイダーの断末魔が響く。

 約50年、多くの聖剣使い達を葬った落命の森の主が、ついにその命を落とす時が来た。


 マンティスパイダーの身体は粒子と化して、その粒子は光の塊となりその場に止まる。

 普通のモンスターなら粒子は飛散するが、ダンジョンマスターは収束し、その場に止まるのだ。


「天成様!」

「愛歌!」


 聖剣を納刀し、女の姿に戻った愛歌が駆け付け、そして俺の胸に跳び込んできた。


「やりましたね。天成様」

「ああ、愛歌のお陰だ。一人だったら危なかったよ」


「いえ、天成様が初見殺しのカラクリを見破ったおかげです。わたくしはただ必死にサポートをしただけ」

「そのサポートあっての結果だ。これは俺たち二人で成し遂げた偉業だ」


 互いに健闘をたたえ合っていると、ミラージュ・ディスプレイが表示された。


『キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』

『マジで落命の森のダンマスを討伐しやがった!!!!!!!!』

『ヤバすぎ、ヤバすぎ。最古の初見殺しのダンマスとして、約50年君臨し続けた悪魔だぞ!』

『ああ、記憶が蘇る! そうだよ、落命のダンマスはこんな姿をしてたんだよ!!!!!』

『落命の悪魔が落命した!!!』

『最強夫婦!』


 そのディスプレイには、コメント欄が表示されていた。

 ダンジョンマスターのエリアではコメントが表示できなかったが、マンティスパイダーが倒された事で制限が取れた様だ。


 コメント欄は俺達を称賛する声と、落命のダンジョンの攻略を喜ぶ声で溢れている。

 俺は勝利の余韻に浸り、コメント欄を読んでいると――


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 ダンジョンから地鳴りがしだし、俺と愛歌は光の玉に包まれ宙に浮かぶ。

 すると、ダンジョンマスターのエリアに変化が起こった。


 草原だった場所が姿を変え、謁見の間とも呼ぶべき場所になった。

 何故、俺がそう表現をしたのか。

 それは部屋の奥に玉座があるからだ。


 玉座には主の代わりにマンティスパイダーの粒子の塊があった。

 いや、ここはダンジョンであるのだからマンティスパイダーは、あの玉座の正当な主なのだろう。


 だが、その主は死んだ。

 俺達が始末した。


 そう、俺達がこのダンジョンの新たな主だ。


 そう考えた次の瞬間、マンティスパイダーの粒子の塊に変化が起こった。

 うねうねと蠢き形を変え、一本の杖に様な形になると、強い光を発した。


 俺達は腕で目を覆う。

 そして光が収まると、玉座には一本の杖、いや王笏おうしゃくが安置されていた。


 また、玉座の周りには無造作に数十本もの聖剣が放置されている。

 マンティスパイダーに挑み、破れた聖剣使い達の聖剣だ。


 俺達は玉座に向かって伸びている赤絨毯の上を歩き、玉座の前まで行く。

 そこにある王笏は【迷宮皇の王笏セプター・オブ・ダンジョンマスター】と呼ばれ、そのダンジョンの支配権が付与された特別な杖だ。


「天成様。王笏を……」

「ああ」


 代表して俺が王笏を掴む。


〈マンティスパイダーの死亡を確認。あなたを新たなマスターと認めます〉


 王笏に触れると頭にアナウンスが流れた。

 天使と違って抑揚のない声だ。


 だが、これで俺はこのダンジョンの主となった。

 もっとも、正確には愛歌も共同支配者だ。


 まずはダンジョンから聖剣使い達を排出する。


「コール・ルーラーコンソール」


 目の前にミラージュ・ディスプレイが出現し、それでダンジョンの様々な操作が可能となっている。

 俺はコンソールを操作して、聖剣使い達をダンジョン外に転移させ、ダンジョンへの出入りを出来ない様にゲートの扉を閉めた。


 続けて、ダンジョン内のモンスターを隔離エリアである【魔物園マムー】に転送し、休眠状態にする。

 これでダンジョン内からモンスターが消えた。


 俺は直近でやるべき措置を終えた。


「それにしても、すごい数の聖剣だな……」


 俺は玉座の周りに無造作に放置されている聖剣の数を見て思わずつぶやいた。


「犠牲者が増えるにしたがって、各国の政府は中の聖剣を回収する為に【落命の森】のダンジョンに高額の懸賞金を掛けましたからね。それ目当てで挑んだ者が犠牲になり、その度に懸賞金は増えて行きと、負のスパイラルです」

「今って懸賞金はいくらになっているだったか?」


「はい、53億円です。聖剣一本1億換算です」

「と言う事は、ここには53本の聖剣がある訳か」


『すげえ数だな。これ全部日本所有の聖剣になるんだよな?』

『国際法的には、どの国にも聖剣を所有する権利はない』

『所有ではなく預かりと言う体裁で、預かってる国には勇者を探す義務がある』

『所有権を主張できるのは聖剣に認められた勇者のみ』

『そこらへんは宗教関連がうるさいからな。事実上は所有だが建前は預かり』

『そこを突いて、元は我が国が預かっていたからって理由で返還は求めてくるだろうな』

『弱腰政府に護りきれるのか……』


『てか、日本の保有してる聖剣は既に偽物にすり替えられているって話もあるしな』

『さすがにそれは都市伝説だよw』

『神楽家が選考会を開いてくれれば、ワンチャン政府に引き渡す必要がないかも』

『え? それマジ?』

『政府に認められているのは、次の勇者を探すために必要な一時保管権だけ』

『神楽家が選考会をやると言えば、一時保管権を行使する法的根拠を失う』

『それに選考会は各都道府県で実施しないといけないから、金が掛かる掛かる』

『でも、それって選考会を開く為に軽く億超えの莫大な資金を神楽家が負担する必要あるじゃん』

『神楽家にメリット無くて草』

『それに警備や国籍や前科の確認など行政の協力も不可欠。政府が協力の拒否すれば実行不可能』


『でも、これを護りきれれば、日本は聖剣保持数世界一になるな』

『今や、聖剣の数が他国からの侵略への抑止力に直結するからな』

『普通の人間の軍隊じゃ、聖剣使い一人に蹂躙されるだけだからな』

『聖剣使いを排除しないと侵略もままならん』

『昔でいう所の核の役割を、今は聖剣使いが担ってる』


(なるほどね~。色んな人が集まると、いろんな知識が集まるな)


「愛歌、そろそろ出ようか」

「はい。あ、天成様、聖剣の回収を……」


「ん、ああ、そうだね」


 俺達は聖剣を回収してポーチに収納し、支配者の王笏を使い俺達はダンジョンの外に転移した。

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