第19話 天成VS落命の森の主

「ピギーーーーーーーーーーー」


 先手はマンティスパイダーだ。

 糸を吐き、俺の拘束を狙う。

 蜘蛛らしいセオリー通りの戦いだ。


 だが――


「そんな直線的な攻撃で捉えられると思うな!」


 俺はそれを見切り、全て回避する。

 が、足に何かが当たった。


 みると、足には蜘蛛の巣状の糸が貼り付いている。


(糸に紛れ込ませて、放ったのか。だが、ここは草原だ。こんなもの意味はない)


 俺は右足を上げようとしたが上がらなかった。

 糸が雑草も巻き込んでおり、それが原因のようだ。


 勿論、本来なら雑草に絡まろうが関係ない

 だが、ダンジョンに生える雑草は、地面に張り付く力も雑草自身の頑丈さも地上のそれとは違う様だ。


 糸に軽くてこずっていると、好機と見てマンティスパイダーが糸を吐く。


(チッ、糸に捕まるのは拙い。早く、雑草と引き千切らないと――、いや、待て。ふふ、良い事を思いついた!)


 妙案が浮かび、俺は足に最大級の力を込めて振り上げた。


 すると――


「おおおおお!」


 畳み返しのように地面が捲れ上がりそれが糸を防ぐ盾となった。

 簡単には千切れない程、頑丈で且つ、地面をガッシリと張り付き他の雑草とも絡み合った根は、土もろとも捲れ上がったのだ。


 マンティスパイダーの糸はその土の壁によって防がれた。


 俺は足に絡まった糸をむしり取る。


(さて、逃げてばかりはつまらないので、そろそろこっちも攻勢に回りますか!)


 俺は駆け出し、マンティスパイダーに接近する。

 マンティスパイダーも糸を吐き出して対抗するが、俺はそれを躱し逆に足場として利用した。


 この糸の粘着性は先端のみだ。


 俺は勢いよく糸に飛び乗ると、糸は大きく沈み込み限界まで達すると、今度は逆に作用に俺は天高く跳躍する。

 そして、聖剣を鞘ごと腰から外し――


「はああああああああああああああああ!!」


 マンティスパイダーの脳天に、それを叩き付けた。


「ピギィイイイイイイ!」


 バーストチャージ中は聖剣を抜く事は出来ない。

 だからと言って、使えない訳じゃない。


 鞘に入ったままでも鈍器としては十分に役に立つし、生命力を削る事も出来る!


 俺は脳天に聖剣を叩きつけた後、そのままマンティスパイダーの上に陣取る。

 肉体構造上、こいつは自身の背中への攻撃は出来ない。

 所謂、安全地帯という奴だ。


 ちなみに体の下はダメだ。

 圧し掛かりをされれば、避けるのが難しい。


 このままここで、バーストチャージの時間をやり過ごそう。

 と、思ったのだが、さすがにそれは甘かったようだ。


 マンティスパイダーが巨大な糸の玉を吐き出すと、そこから無数の蜂が出現した。


 雄蜂蜘蛛スレッドローン


 バスケットボール大の蜂のようなモンスターで、見た目的には蜘蛛要素がない。

 生命力ゲージが表示された事から、モンスターだ。

 恐らく、あれはマンティスパイダーの進化前の姿。


 モンスターは進化する。

 進化するとその姿が大きく変わる種もいれば、ただ大きくなるだけの種もある。

 そして、中には進化前の種族を使役するモンスターもいる。


 マンティスパイダーもそういったモンスターの一種なのだろう。


 スレッドローンが俺を包囲する。

 この陣形と、名前からして確実に糸を吐き出す。

 そう予測すると、答え合わせでもしてくれるかのように、一斉に尻から毒針ではなく糸を吐き出した。


 一糸乱れぬ連携。


 だが、躱すのは容易だ。

 上へ逃げればいい。


 だが、俺は敢えて糸を受けた。

 糸の先端が俺に着弾すると、スレッドローンたちは俺を中心に時計回りに移動しだす。

 俺を糸で簀巻きにする算段なのだろう。


 だが、そうはいくか。


 俺もスレッドローンと同じ様に体を回転させる

 ただし、俺の速度は蜂共より早くだ。


 そのせいで蜂達は身体が引っ張られる形となり、そうなると俺は回転を維持したまま跳躍。

 そして身体をマンティスパイダーに対して水平にして、そのまま回転を続けると、蜂達が次々とマンティスパイダーの身体に叩き付けられた。


 だが、これだけでは倒せない。

 理由はステータスの力が乗った攻撃ではないからだ。


 ステータスの力が乗るのは聖剣に由来する攻撃のみ。

 なので、俺はスレッドローンに近付き、一匹ずつ聖剣で叩き潰して始末した。


 蜂が消滅すると、そいつらが出した糸もまた消えて行く。


「ピギギイイイイイイイイ!」

「おっとと……」


 眷属を殺された事を察したマンティスパイダーは地団駄を踏み体を震わせる。


「ハハハハハ、どうだ。自分の攻撃がなす術もなく攻略されていくのは! こんな経験は一度も味わった事がないだろう!」


 次の攻撃はなんだ?

 これで打ち止めかと思った時、不意に体に加重がかかった。


(なんだ!? 重力を操ることが出来るのか?)


 そう考えると、次は体を浮遊感が襲い、俺はマンティスパイダーの身体から離れそうになり、羽衣で甲殻の節を掴み阻止する。

 何が起こったか。

 冷静に周囲を見て、景色が上下した事に気付き俺はマンティスパイダーの行動を察した。


 マンティスパイダーはその巨体に似合わず、大ジャンプをしたのだ。

 それが加重と浮遊感の正体。


 そうやって俺を振り落とそうとしているのだ。

 着地時に強烈な衝撃が予想される。


 それを耐える事は十分に可能だが、俺はもっと楽な方法を選んだ。

 俺は羽衣を甲殻の節から外すと空中に放り出されるが、羽衣を足元で円を描き障壁を作り出し、それを足場にした。


 これは天女の力だ。


 障壁は結界と違って、ガラスのように透明の物理的な障壁だ。

 なので、こうして足場にする事ができる。


 こうして落下の衝撃を回避した俺は眼下を見る。

 背中から俺が消えた事を理解したマンティスパイダーはキョロキョロと地面を見渡している。


 背中から落ちた……と思っている俺を探しているのだろう。

 だが、残念。

 俺は上空におり、そして――


〈バーストチャージ完了〉


 タイムアップとなった。


「これで終わりか……」


(アブソリュート・スラッシュは素晴らしかった。だが、それだけだ。初見殺しはその特性故に戦闘経験が薄い。困難な状況になる事もないので、それに対する適応力が低い)


「50年、最古の初見殺しとして君臨したダンジョンマスターも、死ぬ時は随分とあっけないモノだ」


 聖剣を抜く。

 チャージされたエネルギーが刀身を光り輝かせている。


「だが、いい教訓になった」


 俺は聖剣を口に咥えて中腰になると、手で羽衣を掴む。

 そして、羽衣を180度反転させて上下を逆さまにする。


 結果、先程まで眼下にいたマンティスパイダーが、今度は見上げる形になった。


「切り札に依存する事の恐ろしさを教えてくれてありがとう」


 俺は感謝の言葉を述べて、手を放し障壁を蹴る。

 俺の身体は勢いよく落下し、マンティスパイダーの背に聖剣を突き刺した。


「バーストインパクト・フルムーン」


 聖剣にチャージされたエネルギーは刀身からマンティスパイダーの体内に入り、その生命力を全て削りきった。

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