第15話 雑談配信
先程までユニコーンのブロック作業をしていたのに、いつの間にやら雰囲気が変化し困惑する。
「ブロック作業も終わりましたし、流れでそのまま雑談に移行しました」
「え、いつの間に……」
「さ、そんな事よりも戦いの秘訣を伝授して下さいませ」
「伝授って言われてもな。相手の動きを見て攻撃の軌道とタイミングを予測し、それに合わせて最小限の動きで避けるってだけだし」
『……』
『……』
『……』
『……』
『当たり前すぎて草』
『いや、そこは分かってるのよ』
『どうやったら、それが出来るのかって事をですね』
『言うは易し、行うは恐怖心で無理!』
「恐怖心……。ああ、言い忘れていましたが恐怖心を殺す事が大事です」
『うんうん、で、どうやったらその恐怖心を殺せるの!』
「えっと、それは分かりません……」
『ズコーーーーーーー』
『分からんって、なら天成様はどうやって恐怖心を殺してるの!?』
「私の場合は、殺しているのかと言うより、失ったという方が正しいですね」
『失った?』
『え、恐怖心って失えるものなの?』
『それ、教えて下さい! 恐怖心を失うとかガチで欲しい!』
『聖剣使いじゃないけど、俺も知りたい』
「あ~、それは無理かな。言ったら、絶対に引かれそうなんで……」
『大丈夫!』
『ならないから教えて』
『聖剣使いとして是が非でも知りたい!』
「じゃあ、教えますけど、引かないで下さいね」
『任せろ!』
『大丈夫、大丈夫』
『ありがとう!』
「では、教えます。俺の様に死んで蘇って下さい。そうすれば恐怖心が亡くなります」
『……』
『……』
『……』
『……』
コメント欄が停止した。
『そういや、一度殺されたんだっけ、この人……』
『無理だ。そんなの無理だよ……』
『ごめん、ドン引きw』
『改めて思ったは、世界一の不幸と世界一の幸運を一度の人生で味わった男なのだと……』
『そう考えると真似しようと言うのが、そもそも愚かだと気付かされた』
「引かないでって言ったじゃないですか……」
『怒らないから言いなさいを真に受けてはいけない。俺はそれで怒らない奴を見た事がない』
『せやな。真に受けてしまった。天成様が悪いわ』
『そうだ、そうだ。真に受けた天成様が悪い(ォィ』
『すみません。天成様が悪いでFA出ちゃいました』
酷い、なんて奴らだ。
『話が変わるけど、勇者活動ってダンジョンに挑むんですか? 挑むとしたどのダンジョン?』
「勿論、ダンジョンにも挑戦をしたいですが、勇者活動についてはまだ何も決まっておりません。これから天成様と夫婦で話し合って決める予定です」
『夫婦!』
『甘美!』
『なんだろう。何故かエロティックに感じてしまったw』
『夫婦会議か。見てみたいですな~』
「なんだったら、ここでやってみるかい?」
「え?」
「いや、勇者活動の話なら別にプレイベートなモノじゃないし、いいかなって」
「天成様がよろしいのであれば、わたくしは問題ございませんわ」
『おおおお、ありがたい!』
『お前ら調子に乗るなよ。あくまで俺達は傍観者だ』
『自重大事。ユニコーンみたいになりたくないだろう』
『せやな。節度を持ってアドバイスが限度かな』
『了解!』
「早速、俺から提案と言うか、挑んでみたいダンジョンがあります」
「そうなのですか? 初めて聞きました」
「うん、言う機会もなかったしね。実は【落命の森】のダンジョンに挑みたいなって思ってる」
『……』
『……』
『……』
『……』
俺の発言でコメント欄が止まった。
『いやいや、そこは拙いって!』
『そこは【落命の森】の名の通り、ダンジョンマスターに挑んで生きて帰ったやつがいない所だよ!』
ダンジョンマスターとは、ダンジョンに存在する所謂ボスと呼ばれるモンスターだ。
そいつを倒せば、ダンジョン攻略となる。
『そこのダンマスは間違いなく初見殺しの技を持つヤバい奴だよ』
『そうそう、何人もの聖剣使いが挑んだけど、生きて帰ってきた奴はいない』
『対策するために情報を得ようにも、ダンマスの呪いで映像系は動画にも記憶にも完全に残ってないし、あるのは音声のみ』
『初見殺しは対策しようにも、情報そのものがほとんどない』
『本当に初見殺しは質が悪い。情報すら残せないんだから……』
視聴者たちはその危険性から、【落命の森】のダンジョン攻略には反対の様だ。
ま、それも仕方ないだろう。
落命の森のダンジョンと言えば約50年前に出現し、今までに数多くの聖剣使いの命を奪った恐ろしいダンジョンマスターが住まうダンジョンだ。
とはいえ、俺も何の考えもなく口にしたわけじゃない。
様々な、情報を集めて考えた結果、【落命の森】に限らず、全初見殺しのダンジョンマスター戦における必須要素を割り出し、いけると判断したのだ。
ダンジョンマスター戦における必須要素は二つ。
一つはダンジョンマスターの特殊攻撃のカラクリを解明し、対応策を考える適応力。
もう一つは、冷静さだ。
敗戦したダンジョンマスター戦の音声動画を見て、共通していたのがパニックだ。
聖剣使い達は皆パニックに陥り、その後、型に嵌められて殺された事が動画の音声からわかる。
冷静さを欠けば、ダンジョンマスターの思う壺。
術中に嵌り、何もできずに殺される。
常に冷静さを保ち、観察し情報を集めてカラクリを見破り、攻略法を確立する。
これは初見殺しのダンジョンマスターと戦う上で共通した必須要素であり、冷静さに置いて俺の右に出る者はいないという自負がある。
それに数こそ少ないが、初見殺しのダンジョンマスターは討伐された実績もある。
ここからも大事な事が一つ分かる。
初見殺しのダンジョンマスターは初見攻略が可能と言う事だ。
初見殺しと言われると、まるで初見では攻略できないかのような印象を受けるが、その異名は人々の恐怖が生み出した幻惑に過ぎない。
【落命の森】のダンジョンのダンジョンマスターも必ず初見攻略が可能なはずだ。
それに【落命の森】のダンジョン自体は、初見殺しのダンジョンマスターが原因で難易度は最上位のSランク認定をされているが、出現するモンスターのランクはナイト上級で、ナイト級の勇者ならソロで聖剣士なら2人以上が推奨される程度のレベルだ。
ちなみに難易度はS・A・B・C・D・E・F・Gと続き、モンスターランクはカイザー・キング・ルーク・ナイト・ビショップ・ポーンに加え上級と中級と下級が加わり、勇者なら同ランクならどれもソロで対応可能で、聖剣士は上級のみ複数人が推奨される。
さて、話を戻そう。
それに加えて、初見殺しの様な搦め手系のモンスターは、同ランクのモンスターと比べれば、身体機能やステータスの攻撃力などのガチンコ性能は低い傾向がある。
以上の事を視聴者に説明した。
「勿論、戦闘経験のない愛歌は参加させるつもりはありません」
「え? わたくしは参加できないのですか?」
俺の発言に愛歌はびっくりしたようにそう口にした。
「そりゃ、相手が相手だかね。愛歌は戦闘経験もないし、冷静さを保つのは難しいだろう」
「戦闘経験に関しては天成様もまだまだ乏しいではありませんか」
「そりゃ、そうだけど。初見殺し戦で重要なのは、それ以上に冷静さを保つ事だ。俺はその条件をクリアしている」
「では、稽古をつけて下さいませ」
「え?」
"「天成様がわたくしに稽古をつけて、恐怖心を克服すればよいだけです。
それにここは夫婦二人のチャンネルです。
天成様がお一人で挑むのはチャンネルの趣旨に反しますし、100%の勝機がある訳でもないのに、一人で挑むのは危険です。
一人より二人の方が不測の事態にも対処しやすいはず。
初見殺しが相手であれば尚更、不測の事態が大前提ではありませんか。
それに、もし、天成様が死んでしまわれたら、わたくしは結婚早々に未亡人になってしまいます。あなた様は愛する妻を一人にするおつもりですか?」"
最後は若干、目を潤ませて愛歌は抗議をしてきた。
これには、俺は何の反論も出来なかった。
「分かったよ、愛歌。なら明日から特訓をしよう」
「はい、天成様」
と、夫婦での話し合いが終了し結論が出た。
だが、俺達は配信中であるという事を失念しており――
『いや~、暑い暑い~』
『お暑いですな~』
『あれ、今って夏でしたっけ?』
『政略結婚とは思えないアツアツぶり』
『そりゃ、奥様。お二人はもう一夜を終えているんですから、それに旦那様の方は政略結婚でも俺との結婚を運命と思わせるって豪語なさった方でしてよ』
『ウホッ。なんだ、その臭い台詞は!』
視聴者から冷やかされ、顔を真っ赤にして配信を終えたのだった。
てか、最後当たりのコメント、神楽家の人間もこのチャンネルを見てるのか!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます