第14話 ユニコーン大征伐
俺には理解できなかった。
このユニコーンと呼ばれる人種の言葉がまるで理解できない。
一体、どの立場で発言をしているのだろうか?
ただのファンだろう?
結婚を許す?
何故、君達の許しがいるのだ?
ファンへの裏切り?
何故、結婚する事が裏切りになるのだ?
発言が異次元過ぎる。
人間と会話をしているのか分からなくなる。
ユニコーンと例えられるのは、獣なので話が通じないという意味もあるのか?
彼らの発言は一ファンの領域を超えている。
どうやら俺のユニコーンたちへの認識が間違っていたようだ。
愛歌が排除を決意した理由もよく分かった。
こいつらは排除すべきだ。
モンスターが問答無用で排除されるべき存在であるように……。
「わたくしの結婚を祝福して頂けなかった事、チャンネルの今後の方向性についてご理解いただけなかった事、とても残念です」
『納得できるわけないでしょう』
『どういう思考回路していたら、納得されると思ったの?』
『結婚は個人の問題ではない。周囲も納得させる必要がある』
『そうだね、影響力のある人間にはその義務がある』
『愛歌だって俺らに祝福して欲しいでしょう』
『祝福されない結婚って不幸だよな』
『元死刑囚の疑惑の人は愛歌に相応しくないね』
『そうそう、ネットじゃアリバイ証明された一件だけは模倣犯説でFA出てるし』
『連続婦女暴行殺人犯が野放しとか警察は無能すぎる』
『そのアリバイ証言だって、金で買ったんじゃない?』
『確かに。神楽家には戸籍操作の前科があるからな』
『愛歌との結婚で、その説の信憑性がアホほど高まったわ』
『愛歌さ、誰のおかげでこのチャンネルが、ここまで盛り上がってると思ってるの?』
『そうそう、俺らが懸命に応援したからこその今でしょう』
『人気が出ると増長しちゃうものだけど、初心を忘れてはいけないな』
『君の事を想って言ってるんだよ、俺らは』
次から次へと投稿される異次元の発言に俺は頭がおかしくなる思いがした。
愛歌はこんなのを相手にしていたかと思うと、俺が守らなければという思いが強くなった。
そうだ、俺がこいつらから守らなければ――
「いい加減に――」
「今までも何度も、他の視聴者やチャンネル運営に支障をきたすので、発言は他者への配慮を持ってして欲しいとお願いしたしてきましたが、あなた方はこれからも、そのスタンスを変えるつもりはありませんか?」
そう思って口を開いた時、愛歌も同時に言葉を発した。
俺は黙った。
愛歌は自らケリを付けようとしている。
ならば、それを見守ろう。
『正しい事してるのに、変える必要どこにあるの?』
『なになに、ブロックしちゃうつもり? だったら、今まで送ったスパチャ返せよ』
『そうだな。まさか、神楽家のお嬢様がスパチャ詐欺なんかしないよな?』
『愛歌、謝るなら今の内だよ』
『そうそう、俺達を敵に回したらどうなるかくらい分かるでしょう?』
『今謝って撤回すれば、寛大な心で許してあげるよ』
「分かりました」
『おおおお、さすが愛歌だ』
『うんうん、死刑囚は君に相応しくないって分かってくれたんだね』
『愛歌に戸籍に×が付いたのは悲しいけど、まあ勉強代と思うか……』
『あ~良かった。これでこれまで通りの愛歌のチャンネルを楽しめるよ』
「スパチャ返金をお求めの方は、神楽家までその証拠とアカウント名・銀行口座を書いたメモを送付して下さい。
今までのスパチャの履歴はこちらでも記録しておりますので、それと照らし合わせて間違いがなければ返金致します。
勿論、MyTubeが取った手数料も含めてお返ししますのでご安心下さい。
それでは、これよりチャンネル運営に支障をきたすアカウントのブロック作業を執り行わさせて頂きます」"
愛歌の発言と同時に、女中さん達がブロック作業を開始する。
リストアップしたユニコーンの数は万を超えている為、配信中の愛歌が一人では処理するのは無理な上に、視聴者を放置してブロック作業をする訳にもいかないので、女中さんにさせている。
『え?』
『は??』
『いやいや、なに言ってるの愛歌?』
ユニコーン達が次々と状況を理解できていないというコメントを書き込む。
だが、それらは次々と消え、代わりに【このアカウントはブロックされました】と言う一文に置き換わっていく。
『じょ、冗談だよね!?』
『いやいや、これは脅し脅し、どうせすぐにブロック解くよw』
『だな、今までのスパチャを返金なんか無理だよ。どれだけ送ったと思ってるんだって話w』
『そうそう、総額で軽く億を超えるしw』
『俺達はこんな脅しには屈しない』
『最後に勝つのは俺達だ』
ブロック作業が開始されても、ユニコーン達は強気の姿勢を崩さない。
『大征伐キターーーーーーーーーーーーーーーー』
『遂に愛歌様も大征伐を決心したか』
『説明しよう。大征伐とは、ユニコーン共を一挙にブロックするザマア案件の事だ!』
『愛歌様は寛大だから、今まではユニコーンとも上手く付き合おうと努力をしてくれていたのに……』
『ユニコーン。調子に乗って最大の癒しの場を失う』
『何故、ユニコーン共は間違いから何かを学ばないのか……』
『色んな所で調子に乗って迷惑をかけて、その度に敗北して居場所を失っているのに……』
『てか、自分達のスパチャが愛歌様の最大の収入源と本気で思ってるの笑えるww』
『まじで、愛歌様にとっては小遣い程度の額でしかないわ』
『モデルと和服のデザイナーでアホほど稼いでるっての』
『あああ、これでスッキリするわw』
大征伐が開始され、一般視聴者たちが声をあげだした。
ユニコーンが騒ぎ出してから、なんとなくこうなる空気を感じ取ったのかコメントがピタリと止まっていたのだ。
再び投稿され出した一般視聴者のコメントの内容は当然、大征伐を支持する者ばかりだ。
ブロックされると、コメントは当然だが動画や配信を見る事ができなくなる。
一昔前のオールドネット――インターネットの事――なら複垢でどうとでもなったが、スマートリングの登場で誕生したハイパーネットでは、オールドネットでの教訓を生かし、匿名性を維持しつつも、すぐにその正体が分かる様に、あらゆるアカウントがスマートリングと紐づけされている為、複垢を作ってもスマートリングのアカウント自体をブロックすれば意味が無くなる。
今やっているブロック作業もブロック対象はMyTubeのアカウントだけでなく紐づけられているスマートリングのアカウント毎だ。
ま、スマートリングを購入すればすり抜けられるのだが、1つ十数万する物をおいそれと買えないだろう。
仮に余裕で買うだけの財力があれば、再び舞い戻ってくる事も出来るが、悪さをすれば再びブロックすればいい。
一見すると鼬ごっこになりそうだが、こちらはブロックするだけと言う超軽作業に対して、相手はスマートリングを買ってアカウントを作ってと、こちらとは比べ物にならない作業をする必要がある。
圧倒的にこちらが有利な鼬ごっこだ。
根競べすればどちらが勝つかなど、火を見るよりも明らかだ。
そうこうしている間にも次々とユニコーンたちはブロックされていく。
最初は余裕ぶっていたユニコーン達も、次第に愛歌の本気が理解できて来たようだ。
『じょ、冗談だよね? 愛歌。ちょっと俺らを懲らしめる為の脅しで、少ししたらブロック解除してくれるよね?』
「わたくしは冗談でブロックなど致しません。一度ブロックしたアカウントは永久にブロックしたままです」
『ご、ごめんなさい! 謝ったんだから許してよ!』
『スパチャなんか返さなくていいから、ブロックだけは勘弁して!!』
『愛歌のチャンネルが見れなくなるなんて嫌だよーーーー』
『酷い! いくら何でも対応が酷すぎる! 何の通告もなくいきなりブロックは不誠実だ!』
『そうだ! こんなの酷い罠だ!』
『一発アウトは酷すぎる!』
「今までも何度も何度も、他の視聴者を不快にするコメントは控える様に忠告を致しておりましたし、つい先ほども最後通牒を致しました」
『そうそう、今まで寛大な対応してくれていた』
『そこで自らの過ちに気付かなかった君らの自業自得』
『いきなり? 一発アウト? 何を言ってんだユニコーン共は』
『↑本当これ。今までどれだけ愛歌様が寛大な対応をしてくれていた』
『てか、呼び捨てにすんなよ。人妻で隣に旦那さんがいるんだぞ!』
『ブロックされるなんて聞いてない!』
『そうだ。知ってれば、俺らだって……』
『ブロックするなら自殺する! 俺をブロックしたら愛歌は人殺しだ!』
『暴論過ぎて草』
『お前の人生だ、好きにすればいい。
推奨はしないが、止める努力もしない。義務が無いからw』
『お前の命なんか何の脅しにもならんぞ』
ユニコーンたちが次々とブロックされ、その様子に一般視聴者は喜んでいる。
一体、どれだけヘイトを他の視聴者に与えてきたのだろうか……。
誰一人として、ユニコーンを擁護する声はなく、そうこうしている内にブロック作業が完了した。
「さて、これで一応はリスト化した方々のブロックは終了しました。
ただ、今後も目に余る視聴者には同じ対応をさせて頂きます」
『OKです。愛歌様』
『うんうん、チャンネル運営に支障をきたす視聴者は視聴者に非ず』
『でも、これからはチャンネルの様相はかなり変わりそうだね』
「そうですね。先程もお伝えしましたが、これからは雑談に加えて、夫婦での勇者活動の配信などを行っていく予定です」
『雑談自体は継続でありがたい』
『愛歌様の実力は未知数だが、天成様の実力は既に証明済み、アレをライブ配信で見られるのは楽しみだわ』
『動画見たけど、あのスタンピードでの戦いは神バトル。どうしたらあんな戦い方出来るんだ?』
『他の聖剣使いも同じことしようと思えばできるのかな?』
『現役の聖剣使いだけど、あんなの真似しろって言われても無理。どうやったらできるのか教えて欲しいわ』
「との事ですが、どうすれば出来るのですか? 天成様」
「え?」
突然、話を振られて俺は困惑した。
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