第13話 結婚報告配信
会見から1日が経過した。
状況は神楽家の思惑通りに進んでいる。
女勇者や天女の件は勿論だが、世界的な問題となっている聖女巫女問題を性転換薬が解決したのが、直接的な利益となり神楽家には好意的な声が向けられている大きな理由となっている。
聖女巫女問題とは、聖女や巫女のなり手不足の事だ。
聖剣使いのように身体機能が上がる訳でもないのに、最前線ではないとはいえ、一般人よりもモンスターに近い危険な所でサポートをしなければならない聖女や巫女には、なり手が少ないという慢性的な問題があった。
聖女や巫女のなり手が少なければ、その皺寄せは当然、聖剣使いに跳ね返ってくる。
かといって、そんな危険な仕事を強要など独裁国家でもないと出来る訳もない。
この問題は長年解決できずに自由主義国家の各国が頭を抱えている問題だったのだ。
だが今回、性転換薬の新たな副次効果が発表された。
勇者は聖剣士自身が聖女や巫女の役割を自身で担えることになったのだ。
この効果は、聖剣使い達の生存率を大幅に引き上げる。
当事者やその家族は勿論、聖剣使い達にモンスターを処理して貰わなければ、自身の安全が脅かされる一般人たちにも多大な利益が発生する。
好意的に受け入れられない訳がない。
それに加えて多発した芸能人や政治家の
神楽家の小さな醜聞は、数多くの醜聞の波にのまれて、もはや話題に上げる者はいなくなった。
「それにしても、運がよかったな。
こうも芸能人や政治家のスキャンダルが多発するなんて……。
どれも取るに足らない内容だけど、こうも数があると世間の関心も分散して、神楽家の過去の醜聞もその一つに紛れ込んでしまう」"
「え、ええ、そうですね」
どこか愛歌の反応に違和感を覚えた。
だが、俺は特段の追及はしなかった。
そんな事よりも、これから愛歌のMyTubeチャンネルで俺と愛歌の結婚発表を行うので、その事で頭がいっぱいだったからだ。
今は別室で女中さん達が撮影の準備を整えている。
「旦那様、奥様。準備が整いました」
噂をすればなんとやらで、準備を整い女中さんが呼びに来た。
俺達は別室に移動する。
別室には様々な撮影器具が設置されていた。
個人でやるレベルとは思えないレベルの設備の充実度だ。
「では、まずはわたくし一人で配信を開始して結婚の報告。
その後、天成様を紹介と言う流れになります」
「あ、うん。分かった」
「わたくしの結婚を公表すれば、きっと一部の過激な者達が心無い発言をしてくると思いますが、羽虫の羽音と思い聞き流して下さい。最後通牒の後、これを機に一掃致しますので」
MyTube。
個人が動画などを投稿するサイトで、俺が拘置所に閉じ込められる前には無かったモノだ。
俺が拘置所に閉じ込められている間に世の中も色々と変わったものだ。
愛歌の言う心無い発言をしてくる者達は通称【ユニコーン】と呼ばれる者達らしい。
別名【ガチ恋勢】ともいうらしく、女性配信者に対して異常なまでに処女性を求める人たちの様で、今日は相手の返答次第では一掃をするらしい。
何故、そんな事をするかと言うと、今後二人で勇者活動等を配信するにあたって、確実にチャンネル運営の妨げになるからだそうだ。
元から過激な発言でファンと衝突したりと問題児集団だったらしいが、愛歌には従順だったのでなんとか飼い慣ら……ではなく、間に入って何とかやって来たらしいが、さすがに結婚を発表したら統制が取れなくなる確率が高く、そうなると健全なチャンネル運営の為には一掃する以外に道がないらしい。
「愛歌様。そろそろ配信の時刻になります」
「ええ、分かったわ」
愛歌はソファーに腰かけ、俺はカメラに映らない所に移動する。
「配信開始まで残り5秒、4、3、2、1、スタート!」
配信が始まった。
「皆さん、こんにちは。神楽愛歌です」
『愛歌様キターーーーーーーーーーーーーーーー』
『勇者就任おめでとうございます!!!!』
『さすが俺達の愛歌様!!!!!!!!』
『天女の愛歌。愛歌様に相応しい二つ名!!!!』
『天女勇者。唯一無二の存在!!!』
『会見お疲れ様です。
過去の醜聞をどうこう言うやつはいますが、あの時代の価値観を考えれば仕方がなかったと思いますし、何より子孫に罪はありません!
むしろ先祖の生み出した闇を払った事を評価すべきです!』
『男の愛歌様も美しかった……』
『男の愛歌様が美し過ぎて性癖が破壊される所だったw』
『俺は、愛歌が男になれるという点がモヤるな~』
『そうだね。男になってまで勇者なんかやる必要ある?』
『そうそう、男の愛歌はなんか女の愛歌を穢してる気がする】
『愛歌様に戦闘は似合わない』
配信開始と同時にコメント欄に怒涛のコメント量が流れた。
速過ぎて、まるで読めない。
が、MyTubeにはAIが一部のコメントを拾って、コメント欄の流れを分かる様にしてくれるピックアップ機能があり、お陰で内容が掴めた。
同時にユニコーンと呼ばれる者達がどういう者か少し分かった。
「ふふ、皆さん、ありがとう。今日は皆さんに会見でも伝えなかった大事な報告があります」
『え、大事な報告?』
『なになに、気になります!』
『なんで、会見で伝えなかったの?』
『なんか嫌な予感』
『まさか、男とのコラボとかじゃないですよね?』
『男とのコラボ、絶対にダメ。そんな事をするのは愛歌様の解釈に合わない!』
『愛歌様は俺達を裏切らないよね?』
「会見で伝えなかったのは、それが私的な事であり、わたくしを応援して来て下さった皆さんに初めに伝えたかったからです」
『愛歌様……』
『さすが愛歌様だ』
『ファンファーストな愛歌様』
『私的……』
『マジで嫌な予感がする……』
『まさか、恋人が出来たとかないよな?』
「では、そろそろ発表しようと思います。わたくし、神楽愛歌は小林天成様と結婚を致しました事をここに報告します」
『……』
『……』
『……』
『……』
『……』
『……』
コメント欄が急に止まった。
先程まで、雪崩のようにコメントが流れ続けていたのに……。
フリーズでもしたのかと思ったが、すぐに違う事が分かった。
『愛歌様が結婚! おめでとうございます!!』
『誰だその裏山けしからん男は!w』
『愛歌様と結婚とか、世界一幸せ者だぞ、その男!』
『て、小林天成って、どこかで聞いたような……』
『スタンピードの英雄じゃん!!』
『凛音様を救った英雄!』
『スタンピード始まって以来の犠牲者を最小に収めて、最短で鎮めた男!』
『冤罪で死刑囚になって、勇者になって英雄になって、愛歌様の旦那様になって、怒涛の人生過ぎるわ!w』
『て事は、もう神楽愛歌ではなく、小林愛歌?』
コメント欄がフリーズしていたのではなく、視聴者がフリーズしていたようだ。
今はフリーズから解凍されて、再び雪崩のようなコメント欄に戻った。
「では、わたくしの愛しい旦那様に登場して頂きましょう。天成様」
愛歌に呼ばれて、俺はその隣に腰を下ろす。
同時にカメラも俺が映るように引いた。
「初めまして、神楽天成です」
『おおおおおおお英雄キターーーーーーーーー』
『スタンピードを鎮めてくれてありがとう!
俺の妹が巻き込まれてたんです!
モンスターに襲われる寸での所で、結界が張られて助かったって言ってました!!』
『私は巻き込まれた当事者です。
本当に救ってくれてありがとう!
あなたがいなかったら死んでいたかもしれない!』
『私も巻き込まれました!
怖くて怖くて、結界が張られて転移した時は安心から嬉ションするかと思ったよ』
『神楽天成と言う事は婿入りか!』
『俺も愛歌様に様付で呼ばれたい!! 裏山!!!』
「祝福と感謝のお言葉ありがとうござます。
スタンピードでは勇者に選ばれた者として、当たり前のことをしただけです。
多くの人の命を救えた事に安堵しております」
『いやいや、いきなり勇者に選ばれて、結界張って数百ものモンスターを一人で大立ち回りとは普通じゃないし当たり前でもないぞ!』
『同意。まさに英雄と言うのはああいうの言うと思った』
『勇者に選ばれた理由が集約されてるわ。これ以上あるか? 勇者の資質』
『聖剣さん「ワイの見る目をもっと褒めてもええんやで」』
『あれだけの事をやってのけたのに偉ぶらずに謙虚! まさに英雄』
「これからはこのチャンネルで、わたくしと天成様の二人で勇者としての活動を中心に配信していく予定です。
よろしければこれまで同様に応援して下さると、大変嬉しく思っております」
『する、する!』
『応援せん訳ないじゃ~ん』
『ファンなら応援は当然。社会の為に命を賭けようってんだから応援するしかない!』
『勿論、これからも応援します!』
『男性の愛歌様がこれからも見れるんですね!』
『や、やばいぞ。俺の性癖が破壊されずに耐えられるのか!? でも、見る! 応援する! 性癖を破壊されても!』
視聴者たちは俺と愛歌の結婚を祝福し、今後の二人でのチャンネル配信にも極めて好意的だ。
愛歌が一掃を宣言していたユニコーンと言う人達も大人しい。
愛歌が過剰に懸念をしていただけで、さすがに結婚やチャンネル運営にまで口出すような非常識な人達では無いのではないか……と俺がそう思った時、それがきた。
『は? 男と二人でチャンネル運営?
ありえないでしょう。こっちは結婚にも納得してねえよ』
『百歩譲って結婚は許してもさ、配信に男を出すのはどうよ?
それってなんか違うくない? ファンへの裏切りでしょう』
『散々応援して来てやったのに、この仕打ち。最低だな!』
『愛歌、発言を撤回しよう。
今ならまだ間に合うよ。僕らが本気で怒る前にね』
次々と愛歌への誹謗中傷のコメントが流れ始めたのだった。
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