第12話 会見

「来たか。天成、愛歌」


「はい、当主様」

「はい、御爺様」


「早速だが、天女の力について分かった事を報告してくれ」


 俺達は現在、分かっている事を伝える。


「なるほど、単純に聖女の上位互換と言う感じだな。

 会見では大きなネタにはならんか。引き続き検証を行ってくれ」

「「はい」」


「では、次はこちらの話だ。会見は明日開く事になった。

 本来なら、お前達の結婚会見になるはずだったものだが、申し訳ない」


「いえ、大丈夫です」

「御爺様、お気になさらず。

 結婚発表はわたくしのファンに向けてMyTubeで個人的に行うつもりです」


 昨日知らされたのだが、愛歌はモデルをしているらしい。

 特に和服に力を入れておりファンが多く、愛歌の影響を受けて和装の女性が増えたらしい。


 釈放後、やたら街中で和装の女性が多いなっと思っていたが、謎が解けた。


 同様にMyTubeでチャンネルを開設しており、登録者数は1000万人を超えている。


「すまんな。一生に一度の事なのに……」

「ふふ、それは結婚式に取っておきますわ」


 俺としても、結婚を世間に公表するということ自体が非日常なので問題はない。


 その後、会見の段取りが話された。

 まずは過去の戸籍操作の件を発表し、記者の質問を受け付ける。


 いくつか質問後に、仕込んでおいた記者にとある質問をさせることで、話題を変える。

 そして、愛歌が勇者になった事や天女、それに伴い新たに発覚した聖女に関する吉報を提示して、一気に流れを変えるという段取りだ。


「あの、聖女に関する吉報とは?」

「ふむ、その件だがあの後、会見の段取りと直哉や公彦と話し合っている時に、神楽家が独占生産している性転換薬を用いれば、勇者や聖剣士自身に聖女や巫女の力を宿らせる事が可能ではないかという案が上がってな。実際に神楽家の聖剣使いに試した所、可能であることが分かった」


 性転換薬。

 魔法薬の一種で、神楽家が所有する攻略済みダンジョンから採集される希少な薬草から作られている薬だ。


 世間ではそう説明されているが、実際には神楽家の血統魔法を込めた魔法薬だと当主が告げた。

 トランスチェンジの魔法から作られた薬なら、愛歌と同じ現象が起こっても不思議ではない。


「話を戻すが、以上が会見の大まかな段取りだ。

 愛歌には悪いが、途中からではあるが会見に出席してもらう事になる」

「かしこまりました」


「細かな部分は後で書面にして持って行かせる。話は以上だ」


 俺達は別邸の自宅に戻った。


「会見は明日か。愛歌、大丈夫かい? 君には何の罪もないけど、心無い人間はきっと君も標的にする」

「ふふ、大丈夫ですよ。そういうのには仕事柄慣れております。所詮は羽虫の羽音と思えばよいのです」


「はは、愛歌は強いな」

「天成様も、慣れて行かなければいけませんよ」

「ああ、そうだね」


「天成様……」

「ん? どうした?」

「今日は二人でゆったりと過ごしましょう」

「ああ、そうだね」


 愛歌は俺に体を寄せ、俺は肩に手を回して同意した。




 ◆◇◆




 翌日、会見の日となった。

 会見会場は神楽家の敷地内にある。


 その会場に続々と各メディアから派遣された者達が集まってくる。

 俺はその光景を会見会場の隣の部屋から映像越しで見ていた。


(うわ、かなり集まってるな)


 俺の釈放会見の時と同じくらい記者が集まっており、神楽家のネームバリューのすごさを改めて感じた。

 同時に、これからこれだけの記者の前に出なければいけない愛歌がやはり心配になる。



「愛歌、大丈夫か?」

「ふふ、心配し過ぎですよ。ライブ配信ではアレの百倍千倍は来るのですから」


「それは画面越しの数だろう」

「見られているという点では同じです。大差は有りません」


 そんなやり取りをしていると、会見が始まった。

 まずは当主様一人で始まる。


 理由は戸籍操作の隠蔽の事実は代々当主にのみ伝えられてきていた為、それを世間に強く印象付けるために当主一人での会見からスタートさせたのだ。

 戸籍操作の事実と神楽家の血統魔法が公表されると会場は紛糾した。


 勿論、記者たちが食いついたのは戸籍操作の方だ。


 とはいえ内容的に現神楽家の面々を罪には問えない為、道義的責任を主軸に置いた追求がなされている。

 だが、全ては想定問答の範囲の質問しかなく、それらを頭に叩き込んでいる当主は淡々と対処している。


 そして、神楽家の子飼いの記者の質問の番が来た。


「この会見ではいくつかの発表があると事前に知らされていましたが、他には何があるんですか?

 何故、全てを公表してから質疑応答に入らなかったのですか?

 もしかして戸籍操作などより、もっと拙い事実があるのではありませんか?

 だから、わざわざ全てを公表する前に質疑応答を開始したのでは?

 会見での一人一問の慣習を逆手に取って、厄介な記者に質問権を戸籍操作と言う過去の醜聞に使わせるために!」

「いえ、その様な意図はありません。全てを公表せずに、質疑応答に入ったのは――」

「違うと言うのなら、今すぐ発表してくださいよ!! 皆さんもそう思いますよね!」


 子飼いの記者は当主の言葉を遮って、他の記者に同意を求める。

 すると、最初に数名の記者が賛同すると、次々と他の記者も賛同に回った。


「分かりました。まずは公表すべき事実を先に発表させて頂きます」


 会見は段取り通りに進んでいる。


「まずこれから発表する内容は、先程の様な戸籍操作の隠蔽の様な類の内容ではありません。

 これは日本を……いや、世界を変える程の吉報でございます。愛歌、入ってきなさい」


 当主から合図がかかった。

 俺は愛歌に視線を送る。


「愛歌……」

「行ってまいります。天成様」


 愛歌は席から立ち、会見場に入って行った。

 聖鎧を身に纏った男の姿で……。


「愛歌……、当主の孫娘か」

「噂では結婚をしたとかなんか言われているな」


「ん、おい。待て待て、あれはどういう事だ!」

「な、なんで女のはずの愛歌さんが聖鎧を身に纏っているんだ!」

「それにあれはなんだ。あんな羽衣見た事がないぞ!」

「おい、よく見れば、あれは愛歌さんか? 顔は似ているが男じゃないか?」


 男になった愛歌の登場に記者は困惑し、各々好き勝手に疑問を口にしている。


「紹介しよう。この者は神楽愛歌。正真正銘、我が孫娘の一人だ。そして、史上初の女勇者、いや天女の力も宿した天女勇者だ!」


 当主の発言に、会見場にいる記者達が驚きの声を上げる。


「お、女の勇者だと!」

「天女? 聖女ではなく? どういう事だ?」

「それより、あれは中性的な顔立ちだが、間違いなく男だ!

 つまらんハッタリで戸籍操作の事実をうやむやにしようとしているのではないか!」

「馬鹿か。神楽家の血統魔法の話をされたばかりだろう!」


「皆様、御静粛にお願い致します。質問には答えますので、どうか落ち着いて下さい」


 脳の情報処理の許容範囲を超えたのか、記者たちは大騒ぎだ。

 進行役が必死に宥めている。


 だが、計画通りに事は進んだ。


 記者達の関心は、もはや罪にも問えない何十年も前の戸籍操作の醜聞より、愛歌に移っている。


 しばらくして、ようやく記者達も落ち着いた。

 その長さは、ここが小学校だったら、校長先生に「皆さんが静かになるまで○○分かかりました」と言われるレベルだ。


 まあ、ここは小学校じゃないので、そんな事を言われる事なく質疑応答に入って行った。

 それらの質問も全て想定問答内で当主様も愛歌も淀みなく答えて行っている。


 会見が思惑通りに進んでいき、俺はホッとしていた。

 のだが、一人の記者が想定問答外の質問をしてきた。


 それはこの場でトランスチェンジして愛歌であることを証明して欲しいと言うのだ。

 それに対して愛歌は――


「お断りします。その要求はこの場で女性に生着替えをしろと言っている等しい行為です」

「それではあなたが神楽愛歌本人であると証明できませんがよろしいですか?」


「証明であれば既になされています。

 わたくしが愛歌であると名乗り、御爺様もそれを支持している。

 そして血統魔法の存在。

 これだけで充分、わたくしが神楽愛歌本人である事は十分に担保されています。

 あなたの個人的な好奇心に付き合う義理はございません」

「推定ではなく事実を提示して欲しいんですよ。

 それにここにいる記者達もそう思っていますよ」


「では、決を取りましょう」

「え!?」

「わたくしが神楽愛歌ではないと疑っている方は挙手を……」


 誰からも手が上がらなかった。


「これであなたの個人的な好奇心と言う事が証明されました。

 あなた以外はわたくしたちが提示した内容で、わたくしが神楽愛歌本人であると確信をして下さっている様です」

「クッ……」


 勝負あったなっと思ったが――


「し、視聴者」


 記者は思いの外、往生際が悪かった。


「視聴者はきっと疑義を持っているはずです!」

「視聴者ですか。それは決を採り様がありませんね」


「そうでしょう。なら疑惑の証明を――」

「それはそちらも同じですよ?」


「え?」

「決を採れない以上は、視聴者もそう思っているというのは、あなたの仮定の範疇を出ない。

 個人的な好奇心と同様に、仮定に基づいた質問にも付き合うつもりはありません。

 これ以上の引き下がらないと言うのであれば、質問の意図は会見の進行を故意に妨げる事であると判断し、退席して頂く事になります」


「そ、それこそそっちの妄想じゃないか!」

「では、平等に決を採りましょう。

 この人物の質問の意図が会見の進行を妨げる事が目的と思う方は挙手を……」


 記者全員が手を挙げた。

 その顔には、いい加減にしろと言う感情がありありと浮かんでいる。


「では、満場一致で妨害の意図ありと決まり、退席と決定されました」


 黒服達が動きだし、記者を連れ出す。

 記者はドナドナされていった。


 その後は、特段のトラブルもなく会見は進み、終えた。

 おおむね神楽家の計画通りに事は進んで、世間では天女や女性初の勇者の話題で持ち切りになり、醜聞の方は何故か時を同じくして芸能人や政治家のスキャンダルが多発し、それらに飲まれて話題に上がらなくなったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る