第11話 天女

「天女……」


 羽衣を見た俺はポツリとそう呟いた。


「ははは、天女か。巫女に聖女。

 さらにその上としたらそれが最適な言葉だな。

 まったく、驚かされる事ばかりだ。だが、神楽家にとっては吉報。

 後は会見のプランを考えんといかんな。

 マスコミにも根回しをして提灯記事を書かせんとな。

 さて、そこらの面倒な手配や調整はこちらでやるとして、天成達は聖女、いや、天女の力がどういったものか検証せよ。会見で使えるプラスの情報はあればあるほど良い」


「はい、分かりました当主様」

「承知いたしました、御爺様」


「直哉、公彦は、儂と今後の相談。それ以外は解散」


 その場は解散となり、俺達は別邸に戻った。


「ふう~。なんか朝から怒涛の展開だったね」

「はい、左様でございますね、天成様」


(いや、正確には昨日からか。結婚に初夜も俺達にとっては一大イベントだ)


「当主様が検証をと言っていたけど、まずは朝食を取ろうか。お腹が空いてきたよ」

「では、すぐに女中に用意させましょう」


 俺達は朝食を取った。

 時代劇に出てくるような一人用の膳が運ばれてきたのは少し驚いた。


 朝食を終え、俺達は別邸の中には中庭に出た。


「とりあえず、抜刀からしてみようか」

「はい。抜刀」


 聖剣の使い方は、言葉と行動がキーとなる。

 聖剣の力を発動し、身体機能を強化してステータスを付与するには、抜刀と言う言葉と共に同様の行動を取ると言う風な感じだ。


 そうすれば、聖剣の力が発動するのだが……。

 愛歌は聖剣が抜けなかった。


 どうやら、女の姿では無理なようだ。


「じゃあ、男に変身してみようか」

「は、はい……」


 はいと言いつつも、愛歌が魔法を使うそぶりがない。


「……。どうしたの? 愛歌」

「あ、すみません。

 あなた様の前で男になる心の準備ができていなくて……。

 まさか見せる日が来るなどとは、まるで想像していなかったものですから……」


(なるほど、確かに抵抗はあるかもしれない。

 俺も女装しろと言われて、その姿を愛歌に見られたくはないな。

 だが、愛歌の男の姿を少し見てみたい気持ちもある。

 この絶世の美女が男になるとどうなるのか、興味が湧かない訳がない)


「大丈夫だよ、愛歌。

 男になると言っても魔法の力での仮初の姿だ。

 俺は愛歌の本当の姿を知ってる」

「あなた様……。そうですね。

 勇者に選ばれてしまった以上は、いずれは見せなければいけない姿。あなた様のお陰で心の準備ができました」


 愛歌が魔法を使った。

 魔法は効果を発揮し、愛歌の姿を男へと変えた。


 その姿はまさに愛歌を男にした姿。

 絶世の美男子だ。


「い、如何ですか。あなた様……」


 声も男それに代わっている。

 だが、話し方は愛歌のままなので違和感がすさまじい。


(こ、これは俺の方も心の準備が必要だった!

 というか如何ですかと言われても、これってどう返せばいいの?

 イケメンだねって返せばいいのだろうか? いや、ここは正直に話そう)


「愛歌……」

「はい」


「俺は愛歌が女に生まれてきてくれて心から嬉しい」

「あ、はい。ありがとうございま……す?」


 俺は愛歌の肩に手を置いてそう言った。

 愛歌はどう反応すればいいのか分からないようだ。

 俺も分からない。

 だから、お互いにそれでいいじゃないか。


 それにしても、肩を触れてわかったが、身体はやはり男のそれだ。

 ガッチリとしている。


「それにしても、愛歌。良い体をしているな」

「え!? それは……昨夜すべて見せしたではありませんか」


 愛歌の頬が赤く染まる。


「あ、そういう意味では無くて、その男としても、いい体をしているなって意味で……」

「え、まさか、天成様は男性の事も?」


「違う、違う! そういう趣味はない! 単に鍛えられてるなって意味だよ」

「そうでしたか。安堵いたしました。実はそれには秘密があるのです」


「秘密?」

「はい、トランスチェンジで初めて異性に変身した時、自身が抱くその性別にとっての理想の身体になれるんです。

 勿論、変身後はその体形は自身で維持をする必要はございますが、瀧臣様の様に常時その姿でいる訳でないのであれば、その維持もさほど難しくございません」


(へえ、そうなのか。じゃあ、俺が女になったら巨乳で間違いないな)


「ふふ、天成様も変身なさってみますか?」

「え?」


「いやいや、俺はいいよ。遠慮しておく」

「そうですか? 残念。

 わたくしは是非、女性になられた天成様を見て見たかったですわ。

 ですが、気が変わりましたら、いつでもおっしゃって下さいませ。

 昼でも、夜……でも、いつでも変身させて差し上げますからね」


 若干、夜が強調されていたような気がするが、気のせいと言う事にしておこう。


「それより、早く抜刀をしてみなさい」

「ふふ、はい、天成様。抜刀」


 今度は成功し、愛歌の身体をサーコートと羽衣が纏う。


(え、羽衣? これはさっきの聖女のロッドが変化して生まれた羽衣だよ)


 ちなみに、巫女に授けられるのはロザリオだ。


「それに聖女の力が宿っているのか?」

「はい、その様です」


「羽衣と言う形状から、自身にその力が向かう感じかな?

 だとしら、俺の聖女としての愛歌の力はどうなるんだ?」

「天成様。抜刀なさって下さい」


 愛歌に言われ、俺は抜刀する。

 すると、愛歌同様に俺にも羽衣が追加された。

 なるほど、そういえば羽衣は二枚出来ていたな。


 同時に羽衣の使い方が頭に流れ込んでくた。


(ほお、これが羽衣の力か。素晴らしい)


 まずは癒しの力。

 羽衣を身に纏った者の傷と【生命力】を回復する。


 生命力とは聖剣から付与されるステータスの一種で、この生命力が尽きない限りステータスを付与された者は死なない。

 他にもステータスには攻撃力と防御力があり、これが生命力への被・与ダメージが決定する。

 具体的な数値はこうなっている。


 ●神楽天成

 ・生命力:1,000

 ・攻撃力:3,000

 ・防御力:1,000


 ●神楽愛歌

 ・生命力:1,300

 ・攻撃力:1,700

 ・防御力:2,000


 ステータスの合計数値は互いに5,000で、ルークの聖剣共通の数値だ。

 だが、配分には個性が出る。

 俺が攻撃的なのに対して、愛歌は防御寄りのバランス型だ。


 モンスターが聖剣使いでないと倒せないのは、モンスターにも同じステータスの力が宿っているからだ。


 次は結界。

 結界内にはモンスターが侵入できない為、ダンジョン攻略に必須な力だ。


 ダンジョンとはモンスターの住まう異空間の領域で、スタンピードがモンスターの侵略なら、ダンジョン攻略は人間からモンスターへの侵略となる。

 ダンジョンも、スタンピードの発生を時を同じくして、世界各地に生まれた。


 最後は障壁。

 所謂バリアで、聖女にはなかった力。

 羽衣で円を作る事で、その内側が物理障壁となる。


 あと、能力と言う訳ではないが、羽衣は自在に動かす事ができる。

 すぐに思いつくだけでも、複数の活用方法がある。


 以上の能力を評価すると、一言で言えば最高だ。

 特に癒しの力だ。


 巫女も聖女も戦闘能力が低いため、戦闘中はその癒しの恩恵を受けられないデメリットがあった。

 だが、羽衣となって身に纏う事で、その恩恵を常に受けられる。


 それがもたらすメリットは計り知れない。

 戦闘における生存率は確実に上昇する。


 あとは、どれだけの回復量があるのか、どうかだ。

 正確な回復量を測っておかないと、安心して使えない。


 逆にそれが分かれば、モンスターの攻撃を何発までなら許容できるかの分かる。

 敢えて攻撃を食らうという戦法も取れるのは大きい。


 まあ、こればかりは検証して数値を割り出すしかないな。


 検証方法は簡単だ。

 自分で生命力を削って回復すればいい。


 生命力を削る。

 それは自身を傷つける行為で、一見すると苦痛が伴う狂気な行為だ。


 だが、これは無痛で出来る方法がある。

 ステータスの力に痛覚設定ペインコントローラーいうモノがあり、そのレベルを0にすれば無痛になる。

 その分、攻撃力が上がり、防御力が落ちるという副次効果がある為、戦闘では使いどころが難しいが検証にもってこいの力だ。


 俺は慎重に自傷して生命力を削り、回復量を検証した。

 愛歌は自分がやると言ったが、こういうのは恐怖心を失った俺の方が適任だと納得させた。

 ま、それが無くても愛歌にさせるつもりは毛頭ない。


 検証の結果は、生命力の数値×5倍分回復する事が分かった。


 十分すぎる回復量。

 聖女だと3倍と記憶している。


 その後も、俺達は思いつく疑問を検証し、結果を導き出した。

 その日は検証で一日が潰れてしまった。


 翌日、当主様から呼び出しがかかった。

 会見の段取りが纏まったようだ。











◆◇◆あとがき◆◇◆


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