「短編」クラス1の銀髪美少女ほてぷちゃんの陰謀とか知らない俺。

@M-Dogwood

え。それ知らなかったの俺だけ?

「わたしは君を見つけたぜ、アリナシヒトシキ君。」


 中学校からの帰り道。

 いつもの一日の終わりをいつものもので亡くしたのは、銀髪美少女からの因縁だった。


「えっと、どちらさま?」


 ・ ・


「先生さようなら!」

「みなさんさようなら!」


 そんな当たり前の一日の終わり。

 ぼくはどっすんばったんと騒がしい教室を後にした。


 中学生とは大変なもので、持ちづらい鞄に、教科書と、それから読書用の本をあるだけ詰め込んで登下校を重ねなければならない。

 いや、後者は完全にぼく有無人式の趣味であり、まさに背負いし業の重さでもある。


 ぼくが負うのはぼっちの業だ。

 基本的にみんなというやつはぼくのことを必要としておらず、それと同様にぼくもみんなというやつを必要としていない。いてもいなくても同じ。

 だからそんなぼくに話しかけてくる奴なんていない、はずだった。


「私は君を見つけたよ、アリナシヒトシキ君。」


 どうやら見つかってしまったようだ。

 目の前で仁王立ちをしていたのは、セーラー服が異様に似合わない、銀髪の美少女だった。釣り目でありながら温和な表情は、どこか妖艶さを感じさせる。

 名前を呼ばれたが、ぼくはこの女の子に自己紹介をした覚えはない。

 そもそもどちらかだけが名前を知っているっていうのは均等じゃない。


「えっと、どちらさま?」

「嘘だろお前!私のこと、名前さえ知らないって?」

 切り返しは音速マッハだった。

「それは自意識過剰ってもんだよ。知ってもらいたいなら、名前を名乗るところから始めるべきだろ?」

「……私はアリナシ君に自己紹介をしたことがあるよ。」

「マジで?」

「クラスメイトだろ。私とお前。」

「……マジで?」

 衝撃の展開に冷や汗が止まらないぼく。

 まぁ確かにぼくの記憶力は薄弱で、クラスメイトの名前と言われてもパッと出てこない。

 汗をだらだらとかいて硬直しているぼくを前に、彼女は大げさにため息をついて見せた。

「はぁ……。まじかぁ。こんなやつかぁ。でもまぁ納得か。こんなやつだから、今ここに居るんだもんな。」 

 と一通りごちた後で。


「無有ほてぷ。私の名前は無有ほてぷだよ。こんな屈辱は初めてかも。君とは長い付き合いをしていきたいね。」


 どうやら触れちゃダメな琴線に触れちゃった気がした。

 屈辱って何さとか、長い付き合いとはうれしいね(うれしくない)とか、いろいろ突っ込みどころはあるけれど、まぁぼくはぼくらしくしかできないから、その通りにしようと思った。


「そっか、ナイアルさんか。それじゃあまたね。ナイアルさん。」

「ほてぷちゃんって呼んでくれてもいいんだぜ。アリナシ君。」


クラスのみんなが全員自殺していたことを知ったのは、その日の朝になってからだった。

 ・ ・


「先生さようなら!」

「みなさんさようなら!」


 その声と同時に、みんなは思い思いの自殺をした。

 あるものは袋をかぶって窒息、あるものは窓や屋上から身を投げ、あるものはどこからか持ってきたナイフでのどを掻っ切った。

 そして先生はネクタイで首をくくって、クラス一つは完全に壊滅した。

 すべては愉快犯である私、無有ほてぷの教唆によるものだ。


 人には死にたいと思う瞬間がある。

 人は死に向かう動機がある。

 人は死を選べるようにできている。

 私がやったのは、それをほんの少し後押しすることだけだ。


 いじめられていた側には悲壮感をあおり。

 いじめていた側には罪悪感をあおった。

 先生には無力感をあおり。

そして死への恐怖感をゆっくりと削いでいった。

クラスで読み上げる作文や、クラス壁新聞の内容でみんなを徐々に徐々に洗脳していったのだ。


 そしてこの日、私の愉快な計画は実を結び、私以外のクラスメイトの全滅という華々しい終わりを迎えられるはずだった。

 だが、絶叫と衝撃音の響くこの華々しい地獄の惨状の中、がらりと扉を開けて帰ったやつがいた。

その帰宅はあまりに自然で、音が聞こえた数秒後まで、私がそれが異常であると気が付けなかったほどだった。


え、嘘!誰!?マジ!?

なんというか台無しだ。トロフィーを逃した気分。遊びとしては最悪だ。

皆が席に座って死んでいないから確認は大変だったけれど、丁寧に探していくと、彼が「有無人式」という名前なことだけが分かった。

顔は思い出せる、けれど印象に残らない奴だった。

でも、だからって私の作ったクラスの空気に耐えられるはずがない。

彼にはきっと何かある。


私は死んだ高橋さんの自転車の鍵を借り、校庭を走り抜けて校門を少し出たところで彼に追いついた。


「私は君を見つけたよ、アリナシヒトシキ君!」


・・


私が彼と話してみてわかったことは、彼にとって全てはあってもなくても同じものだってこと。

ずいぶん見事な異常者だった。こんなおもしろい異常者を見逃しているなんて、私の目は腐っていたのかな。

いいね。いいぜ。最高だ。

お前がこっちを無視するなら、私は全力でお前に絡んでやる!

お前にちょっかいを出し続けてやる!


私、ほてぷちゃんの高校生活の目標を決めたぜ。

それは、彼「有無人式」を謀略に巻き込んで、愉快な大事件を起こすことだ!

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