頑張ろうの味

「渡!何食べてるの?」

「えっとね〜みたらしかけたやつ。甘くて美味しい。伊月と護は何それ?なんか緑のかかってるけど」

 2人の紙皿の上には、緑のペースト状のものがかかった白い餅が乗っていた。

「ずんだ餅!珍しかったからとってきたんだ」

「なかなかうまい」

「へえいいねえ。あとでとりにいこー。あれそう言えば悠人は?一緒じゃないの?」

「えっと、悠人くんはさっき友達見つけて、そっち行っちゃった。あ、でもちょっとしたら戻ってくるってさ」

「そっか。じゃあ久々に3人でたべてよう」

 3人はイスに腰掛けた。そしてこれからのことを話題にだした。悠人についてのことだ。

「実際男同士で付き合うことになったら、どんな感じなんだろうな?男女カップルと変わんねえのかな?」

「確かに〜、俺らBL漫画しか知らないから、どうなんだろう?」

「僕もわからない。仮に悠人くんと付き合うことができたとして、今とどう変わるのかが僕も全然わからないよ」

「そっかぁ。まあBL漫画でいくと……、順序的にはヤッてからお付き合いが定番だね」

「いや、現実リアルではあり得ないから!」

 3人は時間を忘れて団欒に興じた。好きな人の話、恋を応援する話。彼らは仲がいい親友だ。

「僕、2人みたいな親友がいて幸せだな」

「なんだよ急にしんみりして」

「だってさ、2人は、昔から僕がゲイってわかっても、変わらず親友でいてくれた。すごく嬉しいんだよ」

「そんなことかよ。そんなことでお前を嫌いになんてならないし、俺らはいつだって親友だ。だから来年も一緒だ。朝陽とお前を絶対にくっつかせる」

「ありがとう。相変わらず熱いね」

「俺もだよ……て言いたいけどさ……」

 渡は顔をうつむけ、弱々しい声をあげた。

「俺さ、昔伊月が俺らにゲイだってカミングアウトした時、本当は軽蔑したんだ」

「え」

 渡は泣きそうな声で話を続けた。

「あの時、俺伊月のことを気持ち悪いって思っちゃって、本当はもう関わらないでおこうと思って、次の日、伊月と距離をとったんだ」

「確かに、やけに渡がよそよそしくて、避けられていた日があったような?」

「でも、伊月を無視する度に、離れる度に、心が苦しくなって、結局一緒にいることにしたんだ。どうしだろうって考えたら、やっぱ2人といる時が1番楽しくって……うぅ……」

「もういいよ。泣かないで渡」

 渡の頭に優しく置かれたのは伊月の手だ。冬だというのに、暖かい、彼の親友の手だ。

「そんな一瞬のことに、苦しくならないでよ。僕はさ、今、渡が僕を認めてくれているだけで嬉しいんだよ。だからさ、これから僕が自分を見失っても、僕のことを認めて、僕に教えてよ。明日からも頑張ろう。親友」

「伊月の言う通りだ。それに渡、きっと苦しくなるのは、渡のことを伊月が認めているからだ。もちろん俺も渡を認めてるし、お前も俺のことを認めてくれている。俺らを負け犬と呼ぶ奴らもいるけど、それでも俺らは助け合ってきただろ。一瞬でも軽蔑したお前を俺らは軽蔑しない。来年も3人で一緒だ。頑張ろうぜ親友」

 渡の紙皿の上にはみたらしのかかったお餅は無くなっていたが、代わりに伊月と護のずんだ餅が一つずつ乗った。

 彼らはきっと来年も、その先もずっと、支え合って生きていく。全て許し合える親友だ。

 自分と違うものを認めることは難しい。突っぱねたくなるのが人の性というものだ。だけどどうだろう、自分の考えを認めてもらえたら心は晴れないだろうか。恐らく相手は自分と同じ考えを持っていなかったはずだ。

 そんな相手の考えは受け入れない。心が痛くならないだろうか。双方が認め合えば、新しい何かが生まれるかもしれない。もちろん認めるだけではダメなのはわかる。高みを目指す場合は厳しいことも必要だ。しかし、それは認めることから始まる高みだということを忘れないでほしい。

 どうか、疑いから入るのではなくて、信用から入る生き方の人がふえてほしい。ていう妄想をする私を認めてほしい。なんてね。

by大和滝

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