お餅に包もう

大和滝

お疲れ様の味

 ペタン!ペタン!ペタン!

「英二さん!そろそろきね代わるよ」

「いーや大丈夫です。俺よりもあっちでついてる夏海と代わってやってください。あいつ見た目の割に体力ないんですよ」

「うっせえ!まだまだ、いけるわ……」


「うっめえ!謙夜食ってみろよきな粉餅めっちゃうめえ!」

「わかったから、勝手に皿に乗せるな……」

 もぐもぐもぐ……

「マジだ。うまい」

「だろ!?」

「悠人、同じのばっか食べないで色んなの食べようぜ?このよもぎもちもうまかったぞ」


「モモちゃん、お汁粉飲む?」

「はい!飲みます!」

「はいどうぞ。ちょっと熱いから気をつけてね?」

「ありがとう!えっと、この声は日菜さん?」

「正解だよ。楽しんでね」

「うん!」


 12月31日、1年が終わる日です。今日はとあるアリーナで餅つき会が行われている。色んな地方の人々が結託して開催された一大イベント。会場は大いに盛り上がっている。

 皆が今年を振り返ったり、来年のことを話したり、無邪気に選びながらお餅を食べている。



「陽介は今年を振り返ってどうだった?」

「今年か〜、夢に向かう第一歩を出せた年だよ。めっちゃくちゃ大股の第一歩がね」

 陽介はニコッと笑って語った。それをきいた由梨と純はご満悦そうな顔をした。

「2人はどうだった?音楽を始めた以外にもなんかあった?」

「音楽以外!?あんまり思いつかないなぁ」

「当たり前だな。まさか村のみんなで音楽をバンドを始めるなんて思いもしなかったからな」

「だよね〜」

 幼馴染の3人は砂糖醤油をつけたお餅を食べながら、一年を振り返っていた。

「ねえ由梨、純。音楽始めたことさ、後悔してない?俺のせいでみんな巻き込んでさ、無謀な活動をする羽目になっちゃって、急にみんな楽器の練習漬けの日々になっちゃって」

 純と由梨は顔を見合わせて、笑った。そして自分の紙皿からお餅を一個ずつとって陽介の紙皿に乗せた。

「前も言ったでしょ。陽介の無茶に振り回されるのはもう慣れたって。それに、あの田舎に新しい音を足したのは、紛れもない陽介だよ。お疲れ様。来年もよろしくね」

「音楽を始めたことで変わった奴らもいる。わかりやすいのは稑とかだろ。新しい趣味が見つかってさ、すげえみんな楽しそうだぜ。俺もさ、コントラバス気に入ってんだ。陽介、お疲れ。明日からもよろしくな」

 彼らにとっての一年は、きっとまだ序章に過ぎない。と彼らは思っておる。新しいことを始めるのは誰だって怖いことだと思う。始めることを躊躇して、怖気付いて、逃げてしまう。

 逃げることは恥ではないと私は思うが、一歩足を踏み入れると新しい景色が見えることを逃してしまうのは惜しいと思う。

 かじるだけでも構わない。少し触れて、怖くてももっと知りたい、触れたい、と思ったものに全力になればいい。きっとそれはあなたにとっての不可欠なものになるから。

by大和滝



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