#03 僕が... 凛side

琴音ちゃんと別れてから、自分の家に帰るまでの道のりはいつも以上に重く長く感じられた。


「ただいま...」

「おかえりー!お兄ちゃん!」

「おかえりなさい、夕飯もう少しで用意できるから先にお風呂に入っておいで」

「うん...わかった...」


うちは、お父さんもお母さんも働いていて、家に帰ってくるのは週末だけだから、家の家事は大体僕と妹ーー美玖みくとお姉ちゃんーー日和ひよりで分担してやっている。

と言っても、最近はは今中3で受験期だから、ほとんどお姉ちゃんがご飯とか掃除をしてくれている。


「あれ?お兄ちゃん元気ないけど、どうしたの?」

「え?ああ...うんちょっとね...」

「その話は気になりますけど、後でご飯の時に話してくれたら嬉しいですー」

「美玖...お姉ちゃん...うん、後で話すね...」


荷物を自分の部屋に置いた後、先にお風呂に入った。


「琴音ちゃんのことは好きなんだけど...はあ、この気持ちを素直に伝えられたらいんだけどなあ」


それに、琴音ちゃんは女の子が好きで僕のことを異性として見てくれない...

なら...うぅ...でも恥ずかしいけど後で二人にも相談してみよう...



♢♢♢



お風呂から上がったらすぐに、夕飯の時間になった。

さすがお姉ちゃん、時間を合わせるのがうまいなあ。


「「「いただきます」」」


今日の夕飯は、美玖の大好物の坦々麺だった。


「それで、凛ちゃん、今日帰ってきてから落ち込んでますけどどうかしたんですかー?」

「もしかして、琴音お姉ちゃんと何かあったの?」

「うん...それがね...」


二人には、僕の琴音ちゃんに対する気持ちと、今日あったことをそのまま話した。


「やっぱり、お兄ちゃん琴音姉のこと好きだったんだね」

「うん...」

「まあ、結構わかりやすかったけどねー、凛ちゃん、琴音ちゃんのことになると、いつも目を輝かせてましたし」

「えっ...そんなにわかりやすかった?」

「それはもう、恋する乙女のような顔でしたよー」

「うんうん!その時のお兄ちゃん可愛かったよ!」

「乙女とか可愛いって...僕は男だよ!」


全くもう、お姉ちゃんも美玖も僕のことを女の子扱いして...


あ...でもそれなら...

恥ずかしいけど...2人に頼んでやってみようかな...?


「あ...あのさ...2人に聞きたいんだけどさ...」

「何をですかー?」

「どうしたの?」

「うぅ...僕を可愛くすることって...できる...かな?」

「「...」」


恥ずかしさで僕自身自覚はなかったが、自然と上目遣いになって聞いていた。

もちろん、聞いている僕にその自覚はないけどね。

聞いた途端、2人が固まったと思ったら、持っていたお箸とレンゲを落とした。


「ど、どうしたの?急に固まって...」

「...なんでもありませんよー(我が弟ながら可愛すぎませんかー?)」

「...ついにお兄ちゃんも可愛いのに目覚めたの?!」

「う...うん、琴音ちゃんは可愛い子が好きだから...」

「なるほど、そういうことですかー」

「なら、決まりだね!お兄ちゃん!」

「え...えと、何が?」

「お兄ちゃん、明日学校終わったら一緒に買い物行くよ!」

「な...何を?」

「そりゃ...」

「「可愛いお兄ちゃん(/弟)のお洋服だ(/です)よ」」


そう言うわけで、明日放課後に僕の女性用の服を買いに行くことになった。

本当は恥ずかしいけど、琴音ちゃんに振り向いてもらえるなら...




♢♢♢



次の日の朝、いつも通り家の前で、琴音ちゃんを待って一緒に学校に向かった。


「あ、琴音ちゃん、おはよう...」

「凛...おはよう...」

「...」

「...」


ただ、昨日のこともあって、お互い気まずい雰囲気がまだ抜けてなかった。

ずっと黙ったままもうすぐ校門が見えるところで僕から話しかけた。


「あのさ、今日の放課後、ちょっと一緒に勉強できない。ごめんね」

「えっ...」

「あっ、勘違いしないんで欲しいんだけど...」

「うん...やっぱり私...」

「そうじゃなくて、今日、美玖とお姉ちゃんと一緒に買い物に行かなきゃいけなくて...だから別に、琴音ちゃんのことが嫌いとかじゃなくてむしろ...」

「むしろ...?」

「やっぱなんでもない!...そういうわけだから、今日はごめんね。また明後日のお昼くらいから一緒にやろうね」

「...うん、いいよ」


ここで、琴音ちゃんのことが好きって言えればいいけど、どうしても今の状況じゃ言えないし、それで関係が拗れるのが怖い。


その後学校では、一緒にお昼を食べることはあってもしゃべることはほとんどなく、その日は家に帰った。



♢♢♢



「ただいまー」

「あ、お姉ちゃん!お兄ちゃん帰ってきたよー」

「わかったわー、すぐに準備していくわよー」


そういって、制服から私服に着替えて、学校とは反対側にあるショッピングモールに歩いていった。

ショッピングモールの女性服売り場では、僕が恥ずかしい思いしながらも、美玖とお姉ちゃんに服を選んでもらった。

...いや、どちらかと言えば、着せ替え人形にされたなぁ。


まあ、でもそのおかげで可愛い服は買えたから、明日琴音ちゃんにうちに来てもらうだけ。


琴音ちゃんに喜んでもらえるといいな...



♢♢♢



服を買いに行った次の日、今日は学校がないから、朝早めに起きて、お姉ちゃんと美玖に軽くメイクしてもらった上で、可愛くコーディネートして髪型をセットしてもらった。

鏡で見た自分は本当に自分なのかわからないほど可愛い美少女だった。


「可愛いけど...不安だなあ」

「大丈夫だって!お兄ちゃん可愛いから!」

「そうですねー。わたしたちから見ても悔しいくらい可愛いですよー」

「うぅ...恥ずかしい、可愛いって言われてもなんか複雑...」


一応これでも男だから、かっこいいって言われた方が嬉しいけどね。

準備もできたことだから、さっそく琴音ちゃんをうちに呼んでみようかな...?



♢♢♢



ーー美玖side


私はお兄ちゃんとお姉ちゃんの妹の美玖。

お兄ちゃんは、お兄ちゃんというだけあって、男子なんだけど、私よりも身長が15cmくらい低いし、なんか庇護欲が掻き立てるような存在なんだよね。

お姉ちゃんはおっとりとしているけど、私と同じ趣味を持っている。


それは、そう!

お兄ちゃんを可愛くしたい!

お兄ちゃんって、素材はめちゃくちゃいいんだよね。


本人は男らしくなりたいと思っているから、本人が嫌がってまでしたくないという思いがあって、なかなかできなかった。

まあ、お兄ちゃんが男らしくって、ちょっと無理があるような気が...


でも、ついに一昨日お兄ちゃんの方から可愛くなりたい!って相談を受けた。

理由は、まあ、前から薄々気付いていたけど、幼馴染の琴音お姉ちゃんのことだった。

お兄ちゃんに聞いた限り、女のことが好きらしいけど、理由はどうあれ、お兄ちゃんを可愛くできるなら琴音ちゃんに感謝している。


え?琴音ちゃんの性癖について?

うーん、別にそれは個人個人で違うわけだから、否定はしないよ?


まあ、そんなことは置いておいて、昨日急ピッチでお兄ちゃんに会うサイズの洋服を買いに行った。

...私とお姉ちゃんの服のサイズ大きすぎて、お兄ちゃんに合わないんだよね。


そして、今日!

お兄ちゃんがお昼から琴音ちゃんを呼ぶって言ってるから、それまでに、私とお姉ちゃんの力を合わせて、めちゃくちゃお兄ちゃんを可愛くしてみた。


...お兄ちゃん、もうどこからどう見ても女の子だよ。



ーーーーーーーーーー

あとがき



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