第6話

「桜来?」

「……おはようございます」

「大丈夫か?」


 かろうじて顔を出して応えます。動けません。昨日1日はなんともなかったはずなのに。


「顔色が悪い。どこか痛むか?」

「お腹と、腰が……」

「まだ、本調子じゃなかったんだな」


 弘美ちゃんが腰をさすってくれます。心地よくてすぐに目蓋が重くなってくる。


「あたし薬持ってるわよ。あげましょうか?」


 弘美ちゃんのルームメイトの萌香ちゃん。夜中にトイレへ行くのに着いてきてくれたとっても優しい人です。ベッドのそばまで来てくれて、初めて暗くて見えなかったその顔を見ました。弘美ちゃんとは違った大人っぽさ。華やかで色香ただようとっても綺麗な人。お友達になれたなんてびっくりです


「お薬は苦手なんです」

「じゃあ何か体があったまるもの買ってくるよ。待ってて」


 そのまま財布だけをとって部屋を出ようとする背中をなんとか呼び止める。


「も、萌香ちゃん、大丈夫です……」


 今日は日曜日で、いつもの事だから寝てればそのうち落ち着くはずです。


「いいのいいの。あたしも約束まで時間あるから」


 何故か弘美ちゃんを見てにこりと笑った後、萌香ちゃんは部屋を出ていった。


「知り合いだったか?」

「えっと、夜中トイレに、連れていってくれて」


 トイレに1人で行くのが怖いなんて恥ずかしいです。子供だって笑うかな……?


「次からはわたくしを起こしていいから。萌香が起きてても。今日は気分がよくなるまで横になっているといい。お腹は空いてないか?」


 次、か。お泊まり楽しかったから、また出来たら嬉しいかもです。


「はい。あの、いつも朝は食べないので……」

「そうか。そういえば、横山先輩にはここに泊まることを言った?」

「いえ。ちょうど、みぃもお友達と遊ぶことになったみたいで。その連絡に分かったとだけ」


 みぃがお泊まりするのは結構珍しいかも。いつもさらを心配するから、自分のお友達と遊ぶことを我慢してるんじゃないかって、ちょっとだけ心配してたり。


「ただいま。行く前に聞けば良かったけど、ココアは飲める?」


 弘美ちゃんが体を起こすのを手伝ってくれて、萌香ちゃんからあったかいココアを受け取る。


「ありがとうございます」

「いいのよ。友達だもの。それで体をあっためてリラックスして、また横になってるといいわ」


 普段は飲まないけど、たまに飲むココアは美味しくて好きです。手に力が入らなくて、蓋を弘美ちゃんが開けてくれました。


「本当に、弘美ちゃんも萌香ちゃんもありがとうございます。助かります」


 温かくて甘い。体がポカポカしてきます。新しいお友達も隣にいて、心もポカポカです。

 半分ほど飲んだところで、眠気が限界に。気づいた弘美ちゃんがしっかりと布団を掛けてくれました。


「おやすみ。桜来」


 一昨日のように、あの温かい手が恋しくなって。ベッドに置かれた弘美ちゃんの左手に、自分の右手を重ねる。避けられなかったことにホッとして目を閉じる。意識を手放す前、弘美ちゃんが手を握ってくれるのが分かった。ポカポカだ。月経痛なんて厄介でしかない。でも、弘美ちゃんと出会えたことを思えば、ほんの少しくらいは感謝してもいいのかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る