第3話

「昨日の今日でしょ? 本当に大丈夫なの?」

「大丈夫」

「さーちゃんの大丈夫は全然信用できないよ」


 今日は学校がお休みです。日帰りですが、電車で一駅の実家へ帰省します。歩く距離はたいしたことないし、今日は調子がいいのです。

 おっと、愛夢あむお姉ちゃんから電話です。


「もしもし?」

『さーちゃんっ!』『さらちゃん!』


 音夢ねむお姉ちゃんも一緒にいるみたい。


「どうしたの? 今寮を出るとこだけど……」


 夕方には帰るので必要なものはほんの少し。自作のポシェットを肩からさげて、準備は万端です。


『うん、今お姉ちゃんたちニアマートにいるからね!』

『待ってるね~』

「え、なんで」


 ……切れちゃいました。わざわざお迎えなんて、相変わらず過保護なお姉ちゃんです。

 スマホを持ったまま思考停止していると、隣に来たみぃになんて言ってた? と問われます。


「ニアマートで待ってるって」

「それなら安心だわ。行ってらっしゃい」

「行ってきます」


 皆心配しすぎだよ、と思いながら学校を出て数分。


「愛夢お姉ちゃん、音夢お姉ちゃん、ただいま」

「「さーちゃん(さらちゃん)おかえり!」」


 ライトグリーンの軽乗用車で2人は待ってくれていた。黒髪ロングの髪をおさげにしているのが愛夢お姉ちゃん。同じく黒髪ロングだけど天然パーマでふわふわな髪をしているのが音夢お姉ちゃん。今日の運転手は音夢お姉ちゃんみたい。


「なんでお迎え来たの?」

「昨日みもりんからさーちゃん調子が悪いみたいって聞いたからー」


 そういえばみぃと連絡先交換してるんだっけ。


「音夢ちゃんが迎えに行くって言い出したの。私は軽いから分かんないけど、音夢ちゃんは昔から重たいのよね。さらちゃんもきっと歩いてられないからって」


 知らなかったな。音夢お姉ちゃんが元気無いの、見たことないような気がするけど。そういうふうに振舞ってくれてたのかな。


「さーちゃんもお薬飲んだら? すっごく楽になるよ」

「さら、病院もお薬も嫌い」

「でも、今の方が辛いと思うよ?」

「嫌なの」

「もー、さらちゃんは頑固なんだから。我慢できなくなったら、お姉ちゃん病院について行ってあげるからね」


 愛夢お姉ちゃんが助手席から手を伸ばして頭をポンポンしてくれる。これで嬉しいと思うあたり、まだお姉ちゃんたちに甘えてるんだなと感じる。こんなんじゃダメなのに。


「勉強は大事だけど、結構なんとかなるものよ。肩の力抜いていいんだからね」

「そーよ。体調崩される方が、こっちは心配になるからね。なんならお姉ちゃんたちで養ってあげるし」

「そーそー」


 お姉ちゃんたちなら本当にそうするんだろうと思う。そうならない為に、今寮生活でいっぱい勉強してるんだけど。


「……うん。ありがとう」


 そうして家に着き、ママたちに迎えられる。

「桜来、おかえり〜」とぽやんとした顔でギュッと抱きしめられた。あれ、ママすごく髪がはねてる……。


「さーちゃん! おかえりなさい。もうちょっと待ってね〜。叶香ママったら今起きたばっかりなのよ」


 そうやって叶香(きょうか)ママを引き離して洗面台へ引っ張っていくのは和奏(わかな)ママ。和奏ママはもう着替えもお化粧も終えて、料理でもしてたのかエプロン姿だった。


「ゆっくりで大丈夫だよ。ママたちへのプレゼント、もう少しで出来るの」

「まあ! 楽しみにしてるわ!」


 テーブルに着いて、編み物を始める。

 さらのお家は、他のお家とちょっと変わっています。パパはさらが小さい時に事故で死んでしまいました。さらを産んでくれたのが叶香ママ。和奏ママは元々中学からの後輩で、パパの死後よりを戻したママの恋人です。同じお家に住んでずっとさらたちを可愛がってくれてて、お世話もしてくれています。だからさらもお姉ちゃんも、和奏ママと呼んでるの。


「叶香ママねー、さーちゃんが帰ってくるのが楽しみで寝れなかったみたい」

「今日は和奏ママが朝ごはんを作ってくれたのよ。お昼も昨日から仕込んでたみたいで」


 さらはあんまりたくさん食べれないんだけど、帰ってくるといつも気合いの入った料理で迎えられる。すごく美味しいんだけどお腹がパンパンになっちゃうんだ。


「和奏ママも楽しみだったみたい。もちろん音夢たちもだよ」


 そう言いながら2人にギュッと抱きしめられます。

 たった一週間ぶりなのに大袈裟だよ。そう思いながらも、やっぱり家族といられる時間は大好きです。

 パパはいないけど、みんなさらを大事にしてくれるから、寂しくないしとっても幸せ。


「それで、今週は何かあった?」


 そんなに毎週毎週話すことなんか……といつもなら答えに困るところですが、今週は紫咲さんとの出会いがありました。昨日のことは、いつものことを考えたら少しだけイレギュラーだったかも。

 みぃはたくさんお話ししたらしいけど、さらは送ってもらった後寝ちゃってたし、まだお友達ではないかもしれない。もう少しでそうなれるかな。なれると、いいんだけど。


「あらまあ! ついにさらちゃんからそんなお話が!」

「よし、じゃあ来週はその子連れてきなさいな。お礼もしなくちゃね」


 そんなつもりじゃなかったんだけど。ママたち、途端にやる気になっちゃった。


「お礼はしなくちゃと思ってたけど、家に呼ぶなんて大袈裟じゃない?」

「いいじゃない! だって、桜来が実守ちゃん以外の子のお話するなんて珍しいし」

「面白そうだから連れておいでよ! お姉ちゃんたちも楽しみにしてるね!」


 多分、愛夢お姉ちゃんが言ったことがみんなの本心なんだと思う。でも紫咲さん、部活やってるみたいだったし。週末は忙しいんじゃないかな。連絡先を交換したわけでもないから次いつ会えるか分からないし。


「今度会った時にお誘いだけしてみるよ。よし、出来た。長さこれで足りるんじゃないかな」


 ママたちはとっても仲良しで、よく二人でお出かけしてるから。


「あら、マフラーを作ったのね! 叶香ママと一緒に?」

「うん。2人一緒だったらもっとあったかいでしょ?」


 2人一緒に巻けるマフラー。巻いてあげるとちょうどいい長さだった。


「うふふ、さすが桜来ね」


 ギュッと抱き合って自然とキスする2人。さらもお姉ちゃんたちも、仲のいいママたちを見るのが大好き。とっても安心する。


「さっそく今日から使いましょ! お昼ご飯を食べたらショッピングにでも行こうかって話してたのよ。ね?」


 ショッピング。何か欲しいものあったかな。

 週に一回会うことも周りによくびっくりされるけれど、やっぱりさらには必要な時間なんだなって思う。だってなんだかんだ言ってても、楽しみなんだもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る