死神天使

新一番搾り

第1話 天死迷宮


「ぼくの人生、こんなはずじゃ...」


 ぼくは、暗い部屋の隅で何度もそうつぶやいた。引きこもりになってからの毎日は、どれもが灰色の繰り返し。

 だけど、今日は違う。今日こそ、すべてを終わらせる日だ。


 ──死神天使。彼女に抱かれると優しさと温もりに包まれたまま、痛みも苦しみも感じず幸せな気持ちで死ねるらしい。


 天死迷宮と記された不気味な看板の前に立って、ぼくは緊張と期待で胸がいっぱいだった。建物は古く、不気味な雰囲気が漂っていた。

 

 ネットで見つけたこの場所に死神天使は居るらしい。

 本当なのかな?


「お客様、こちらへどうぞ」


 案内人の声に我に返り、ぼくは彼女に従った。彼女は静かで落ち着いた雰囲気を持つ女性で、その目はどこか悲しげだった。


「もちろん居ますよ。死神天使。ですが…」


「えっ、1万人待ち? 早くても3年後?」


 そんなには待てない。他に方法はないのかと尋ねると、案内人は「真・天死迷宮」という特別なコースを紹介してくれた。

 

 危険だけど、突破すれば死神天使にすぐに会える。

 その代わり失敗したら、痛くて苦しい死が待っている。

 

 過去の成功率はだいたい50%らしい。


「どっちにしろ死ぬんだ。じゃあ、チャレンジしてみます」


 その時、ぼくは生まれて初めての本当の決断を下した。

 通された部屋には二人の人影があった。

 一人は体格のいい若い男、もう一人は派手で美しい女だ。


 なんでこんなヤツらがこんなところにいるんだよ!

 叫びたくなる衝動を抑えて、僕は下を向いた。

 膨らんだお腹が邪魔で足元も見えない。

 

 男は舌打ちをし、女はため息をついた。


「ようこそ天死迷宮へ! 私は死神天使エメルです。あなたたち三人で協力して私に会いにきてください。お待ちしています」


「本当にいたんだな!」「すっご…」


 その声はまさに天使だった。全員の表情が変わった時に床が開いた。


 突然の落下でみんなの叫び声が響く。

 全身を温かい感覚が通り過ぎる。

 

 遠くで声がした。


「ステージ1。永久迷路スタート」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死神天使 新一番搾り @noritokome

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ