24話『初日』
五月八日。3Dの看板やVRの広告が飛び交う新宿のオフィス街。ここには様々な新製品や新機能が満載だ。
警備ドローンや案内ドローンの他、警備ロボットやアンドロイドまで多数の機会が存在している。それ以外にも一般道を走る車両や空中に設置されている筒形のレールを走る車両もある。古今東西、新宿の街はいつでも最先端を行かねば気が済まないらしい事が伺える。
最近では、オフィスの屋上にジェットパックが設置された。まだ一般普及用に試験段階ではあるが、近未来の中ではそれが当たり前になるとの噂もある。
そんな街中を、翔は都庁前駅から徒歩数分進んだ。大きな高層ビルになっているその場所。新設された『警視庁特別捜査署』だ。そのビルのロビーで翔は凛と待ち合わせをしている。
翔は「よしっ」と意気込んで、中へと足を踏み入れる。金属探知機や熱の有無などを調べる探知機が一まとめになった入口の探知機を潜って、翔はロビーを見て驚いた。
二階か三階まで吹き抜けになっている中央部。その中央には球体をモチーフにしたモニュメント型の映写機が置かれている。
その周りを日本だけでなく、世界各国のニュースが翻訳されて土星の環のように回っている。ロビーの左右には高層階と低層階を表すUとLと記されたエレベーターが数基並んでいる。
受付はモニュメントの手前にあり、人ではなくアンドロイドが対応している。受付のカウンターの横、凛が腕輪型の携帯端末を操作しながら立っていた。
翔は凛に近づき挨拶すると、凛は端末から出ていた画面を消して挨拶を返す。
「早く来てくれて助かるわ」
「一応、これから社会人だからと思って」
「良い心がけね。見ての通り、ここがロビーよ」
翔は周りを見ながら「凄いな」と呟いた。凛は淡泊にこう言う。
「そう? 見慣れたからなのかその辺は分からないけど、ここには外部の人や一般の人も訪れるから礼節は弁えてね」
「分かった」
翔が頷くと、凛は安心したような満足したような笑みで頷き返す。
そして自身のポケットからある物を取り出す。
「それからこれ、入館証。手帳類とかは上で渡すから」
「分かった。ありがとう」
入館証には『一之瀬翔』という文字と顔写真やIDが記載されていた。それを首から下げるよう促されて、翔はすんなりと首に通す。
「各部屋や階にセキュリティ端末が置いてあるから、それを翳して入るように。まぁ、一部は権限が付与されていないから開かないもしくは入れない所もあるけれど、一通り必要な場所は入れるわ」
翔は了解を示した。続いて凛がついてくるように言った。凛が向かったのは高層階のエレベーターUの文字の方だ。その後に続いてエレベーターに乗り込み、翔は二十六階を記憶する。
二十六階に到着したエントランスには、正面の壁に端末が設置されていた。脇には凛の言った通り、セキュリティ端末が壁に掛けられた白い扉が設けられている。脇には大きな植木鉢が置かれてはいるが、それ以外何もない。
「ここが今日からあなたが配置された部署の階。他にも二十四階と二十五階は同じ部署だから入っても問題ないわ」
「分かった。でも、なんかアレだな……殺風景だ」
「まぁね。下の階と区別しているから、殺風景な階があなたの主に使う階よ」
なんかごめん、と謝って翔は凛にセキュリティ端末の説明を受けて早速扉の向こうへ入る。すると、右も左も扉が等間隔に並んでおり、通路が奥まで続いていた。
「一応扉の上に数字が記載されてる。それから扉にも分かりやすく絵が描かれてる」
そう言われながら歩いて行くと、確かに扉の上に数字が記載されており、扉にも動物の絵が描かれていた。
奥の方にある部屋まで行くと凛が立ち止まった。扉の上の数字には『2601』と記載され、扉の絵には鳥の絵が描かれていた。
「ここがあなたの執務室。セキュリティ端末に翳したら中に入って」
そう言われて、翔は大きく息を吸って吐いた。緊張の瞬間だ。気を引き締めて端末に入館証を翳して入る。
室内はしんとしていた。
「あれ、誰もいない――」
「ええ、当然よ。皆出払っているから。挨拶とかはまた今度。とりあえずだけど、今日は手続きと案内、それから今私達が持っている事件の概要を説明して終わり――――って書いたはずだけど?」
「すみません。良く見てませんでした」
「素直で宜しい。なら、まずは書類手続きを済ませましょうか」
よしっ、と意気込む翔はまだ知らない。この後二時間に及ぶ凛からの説明と書類の記入がある事を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます