幕間7『凛と長谷川と長瀬』

 翔が去った後の面接室。異様な空気が漂っていた。


「被害者として警察官として犯人を追いたい……ですか」

「わたくしは賛成できません。kれの言った事が本当ならば、問題ですよ、コレは」


 落胆と憤慨する二人に挟まれた凛は、机の上に肘を着き両手を組んで答える。


「私は彼に同意します。合格と伝えた事も変わりません」

「ですが、我々からはちょっと。意志が薄弱なのか。それとも隠しているのか」

「そうですよ。虚偽の言葉を伝えるというのは警察官としてあるまじきです」


 二人が否定する中、凛は淡々と言葉を返す。


「人の心は見えません。その点で言えば、何を本音とし何を偽証と取るかはこちらのミスでは?」

「そ、そう言われるとそうですが」

「しかしながら」

「しかしもそう言われるともありません。今ここにあるのは彼が口にした事実であり、それを聞いたお二人です。何より思いがけずといえども確固たる決意と意思を見せた彼に対する侮辱を行う気は私にはありません。私は合格という言葉に異論なしです」


 う~ん、困ったとばかりに長谷川人事部長は頭を掻き、長瀬刑事は顔を突っ伏す。


「それにお二人はなぜ警察官を志したのですか? 私は大義名分で入るよりも私利私欲のための方がよっぽどやる気があって人間らしいと受け取りますが?」


 そう言われるとそうだがと顔をする長谷川人事部長が、はぁと溜息を零す。


「分かりました。僕も覚悟を決めて同意します」

「待ってください、長谷川人事部長!」

「二対一ですね、長瀬刑事」

「うっ……部長二人で賛同するなんて卑怯ですよ……」


 長瀬刑事が及び腰になったのを見逃さず、凛はこう言う。


「なら、もっと上を目指したらどうですか?」

「くっ…………分かりました。同意します」

「では、彼は合格という事で」


 はぁー、と両脇から深い溜息が零れるのも気にせず、凛は満足そうに口元を歪めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る