19話『決意』

 凛が病室から出て行って暫くすると、今度は優達が部屋に入ってきた。


 優は泣き出しそうな顔で、心配と不安の入り混じった表情で翔の元へと駆け寄ってきた。


 それは当然の事と言えば当然だ。両親を亡くして不安と恐怖の中で、兄である翔にまで何かあったのだから。


 武爺と貴美子婆も優と同じような顔をしていた。心配と不安の混じった表情で、しかし、翔を心配させまいとしてか気丈に振る舞っているのが分かった。


「翔ちゃん、大丈夫そう?」

「うん。なんとか」


 そう、と貴美子婆は安堵したように頷く。武爺が椅子に座りながら言う。


「翔、聞いたぞ。警察に入るのか?」

「え?」

「先ほど、竜崎さんが話してくれたの。彼を私の班に預けさせてくださいって」


 貴美子婆の言葉に、翔は驚いた。凛は既に腹を決めている。そのために頭を下げた。


「お兄ちゃんは入るの?」


 優の言葉に、翔は言葉を詰まらせる。どうしたら良いのか。どうした方が優達のためになるのか。自分の一存では決められない。その事に翔は情けなさと悔しさを感じた。


「俺と婆さんと優は、翔の好きなようにさせたいと思ってる。お前はどうしたいんだ?」


 尋ねられて、翔は一拍の間を置く。


「僕は、犯人を、あいつを許したくない」

「うん」

「だから、あいつを追いたい」

「そうなのね」

「それで、必ず捕まえる」

「そうか――なら、もう決まってるんだな」


 武爺の言葉に、翔はゆっくりと頷いた。そうだ。翔の中ではもう決まっているのだ。


 犯人を、あの男を追いかけて、捕まえると。そうしてあの男に全ての真実を話してもらう。そう決めていたのだ。MAB薬を飲んだ時には――。


「僕は、あいつから真実を聞きたい。なんで両親が殺されたのか。なんでMAB薬を集めているのか。あいつから今回の事件の真実を聞きたい――だから」


 翔はそこで言葉を切って、覚悟を決めたように優達の方を向いた。


「僕は警察に入る。そのために、優や武爺や貴美子婆に迷惑を掛けるかもしれないけれど、それでも、僕は警察に入る」


 翔の確固たる決意を聞いて、三人が「分かった」と頷いた。

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