18話『誘い』
白い天井。それが翔の目に映り、体を起こした。パサッと乾いた布団の音がする。。
「おはよう」
声の主は凛だった。凛は翔の横、椅子へと座っていて、翔は気付いたらベッドの上だった。
「ここは……」
「警察病院の特別室」
「病院……?」
「ええ。絶叫していたのすら覚えてないわよね?」
「え――ああ。薬を飲んで、その後から……」
凛は「そうでしょうね」と淡泊に答える。翔は下半身に掛かっている布団を見つめ、次に自分の両手を見つめる。
自分が何をしてしまったのか。翔は上手く状況が飲み込めない。
そんな翔へ、凛は何の気なしに尋ねる。
「あなたはこれからどうするつもり?」
「どうって――」
呆れたように凛は溜息を一つ零す。
「敵が最重要と踏んでいたMABを取り込んで、あえてターゲットを自分に絞ったつもりなのかもしれないけれど、正直危険性が払拭出来たわけではない。逆にあなたがいつどこで狙われるのか分からなくなった。そんな状況下に自身を置いて、これからどうするつもりなの?」
「僕は――――」
凛の正論に、翔は何と言って返したら良いか分からなかった。
あの状況下でああしたのは突発的だった。狙われるなら体に取り込んでも変わらないと思ったからで、しかし、それで状況が打開出来たわけではない。
むしろ、今度は命を狙われるのか、はたまた拉致される可能性もある。状況は悪化したと言っても過言ではない。
「僕は――どうしたらいい?」
はぁ、と凛が再び溜息を零す。まるで叱られている子供みたく翔は項垂れる。
「あなたさえ良ければ、私のチームに入る?」
「え、それって……」
渋々といった様子で凛が話し始める。
「私やチームの監視下には置かれるけど、身の保障が出来る可能性は増す。命が狙われる可能性が完全には拭えないけれど、あなた自身が異能力者になったのであれば、それなりの護身術とかを身に着ける事も考えないとね。それに、家族を危ない目に合わせたくないでしょう?」
その言葉に翔は目を見開いて、直後顔を下に向ける。
優。武爺。貴美子婆。残った家族を危険に晒すわけにはいかない。そう考えると、翔に選択肢など端からなかった。
「一応私が受け持っている部署は、学校やらなんやら許可を免じてもらってる。だから、生活をそのままにする事も出来なくない。ただし、そんじょそこらのバイトみたいなものじゃないから。嫌な物も嫌な事も見聞きする。それに試験があるから入職が絶対とも言えない。でも、あなたが今後どうするべきかはよく考えておきなさい。これ、願書」
そう言って凛は翔の布団の上に封筒を置く。
「この部署は特別だから古臭いかもしれないけど願書でしか応募できないわ。それから生半端な気持ちで来る事は許されない。もちろん、家族にはちゃんと自分で話す事。それが出来ないなら、今まで通り怯えながら暮らすしかない。私は提案したから。あとはあなたが決めなさい」
言い終えると、凛は立ち上がり廊下の方へと去って行った。
残された封筒を見つめて、翔は一人考える。
家族に害を及ぼさないため。自分の身を守るため。その代わりに、今の日常を捨てる。
両親の仇を打つためなんて甘い事は言えないだろう。それだけのために入る事は、恐らく警察という組織から許されないはずだ。
だとしたら、自分は何のために警察と言う組織に、凛のチームに入るのか。
考えて考えても、その答えは出そうになかった。
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