幕間5『水面の水と深海の水』

 宵も深まり、丑三つ時。眠る事のない街新宿の都庁屋上。その縁に、一人の人物が腰かけていた。片膝を立てて、片足を縁から投げ出すその人物。仮面を付けているためか表情は窺えない。


 その人物は都庁から煌めくネオンを見下ろしながら、ぽつりと呟く。


「一、十、百、千――か。一体、いくつあの研究所は貯めたのか」


 そう呟く人物の背後には膨大な量のアタッシュケースが置いてある。それは、百や千では数えたり程の量だ。


「さて、水面の水と消える物もあれば、深海の水となる物もある。見分けは未だ分からないが、それでもないよりはマシだ。一之瀬夫妻、お前達はこれを何に使う気だった?」


 そう問いかける言葉は虚空の闇に見える事なく消えていく。

 その人物はやがて立ち上がり言う。


「世界はいつも無情だ。そこに希望も絶望もない。それを作り上げたのは、お前達だ……」

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