15話『考察の果て』

 深夜。翔は皆が眠った後で、自室の机に向かっていた。


 机に付属しているライトを点けて、机の上でUパッドを操作して画面を見つめる。Uパッドの画面には、相関図と事件の概要が記述されている。


 昼間に記述した内容を見つめながら、翔は一人考察を繰り広げていた。翔が事件を整理する限り、概要はこうだ。


 両親はMAB関連の研究所で働いていた。父親は所長、母親は部長として。

 その両親の研究所からは窃盗被害も出ており、窃盗の物品は全てMAB関連の薬品という事らしい。関連して機密書類なども盗まれている。


 四月一日、両親は優の入学式が終わった帰りの直後に殺されている。犯人は殺害後、MAB関連の試験管を探して優の部屋にまで足を踏み入れた。

 しかし、翔が帰宅した事により試験管を探す事を断念して窓から逃走。結果、優は命拾いした形となる。


 その後、警察が介入し、凛が犯人と思しき存在に接触するも、異能力の中でも特異な能力を使われて瞬間移動のように逃走。行方は完全に不明となっている。

 そして今日、犯人の仲間と思しき男に翔は襲われ、凛によって命を救われた。


 ここまでの流れからするに、犯人達はMAB関連の試験管や書類を集めて何かをする気だ。MABの人間を仲間に入れる気なのか、増やす気なのかもしれない。翔はそう読んだ。


 でなければ、犯人はMABの研究所を襲い、MABの研究をしていた両親を殺害するはずがない。ましてや、他人の家でもMAB関連の物を探すはずがない。


 そうなると、主犯はMABの中でも特異な能力を持っている瞬間移動の人物に違いない。そして今日接触した男は犯人の仲間だろう。


 そうでなければ辻褄が合わない。主犯の人物は、両親を殺して逃走。その時に異能力を使った。でないと、誰にも見られずに住宅街から脱出する事は不可能だ。

 そう考えると、この事件はグループ犯という事も分かる。


 そこまでを整理し終えて、翔は椅子の背もたれに寄りかかって天井を見上げる。


 今回の事件は、間違いなく犯人グループの勝手な犯罪だ。逆恨みを買ったとかそういう動機のある事件ではない。


 犯人達がMAB関連の物を用いて、異能力者を使った犯罪グループを作ろうとしているなども考えられる、凶悪な事件だ。


 故に、同情の余地はこれっぽっちもないし、同情する気もさらさらない。


 翔はグッと歯と拳を握りしめて、考えても埒が明かないような気がして、Uパッドの電源を消そうとしたその時だった。


「ん――?」


 翔はある事に気が付いた。それは、事件の概要ではなく、事件の状況だ。それに気が付いて、翔は再びUパッドにペンを走らせる。


 そして――――一つの真実に辿り着いた。

 それは――この事件の犯人は、別に居るという事だった。

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