幕間3『摩天楼』
そこは東京の街にある、一番の繁華街新宿。VRやARの広告などが飛び交う日本で屈指の街。
宵闇になっても人々の活気は衰える事はなく、むしろ、これからが宴の時だと言わんばかりに活気づく街。
特異的なこの街に聳える高層ビルの屋上。一人の人物がビルの縁に腰かけていた。
その人物は仮面を付け、片膝を立てて街を見下ろしている。黒いコートが風で靡き、どこか幻想的な、憂愁の美を思わせる。
その人物は街を見下ろしたまま独り言を言う。
「眠らぬ街――か」
新宿の代名詞を呟くと、仮面の人物はピクリと体を動かした。
「久しぶりだな。竜崎凛」
呼びかけるとと共に、仮面の人物は後ろを振り向く。そこには黒い鞘に収まった刀を持つ凛の姿があった。
「見つけたわよ。あんたでしょ? 一之瀬夫妻を殺したのは?」
「いかにも。あの夫妻とは取引をしたつもりだったが断られた。だから殺した。これで証言は満足か?」
仮面の人物の言葉に凛は舌打ちして鞘を握りしめる。
「可愛くないな。女ならもう少ししおらしくしたらどうだ?」
「古い時代の考えね。今は女でもタフでなきゃ生き残れないのよ? それに私――」
そう言って凛は駆け出す。仮面の人物はそれを見てビルの縁を手で押す。
「可愛げなんてとうの昔に捨てたわ!」
「それは残念だな」
凛が一瞬にしてビルの縁に移動し、鞘走りを終えた刀を真一文字に握り抜く。しかし、その刃は仮面の人物に届く事はない。なぜなら、その人物は宙に現れた黒い渦の中に消えていたからだ。
「くそ、逃した――」
悔しそうに言いながら、凛は刀を鞘に素早く納める。そして携帯端末を操作して、どこかへ連絡を取り始める。
「こちら竜崎」対象を取り逃がした。追跡は不可。捜索は明日以降再開する」
そう伝えて、凛は眼下を見下ろす。アレは、この特異な街を見下ろして何を思っていたのだろうか。それを知りたいと思いながらも、知りたくないと思う凛が居た。
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