9話『警察署にて』

 翔達は明石の指定した警察署――明石の所属している警察署に到着した。


 受付で名前と用件を伝えると、明石がすぐにやってきた。明石の先導で、小さな会議室に案内された。


 明石が必要な物と三橋、凛も呼んでくると言って暫く、三人が部屋に入ってきた。


「お待たせして申し訳ございません」

「いえ、こちらこそお手数お掛けしています」


 貴美子婆と明石が社交辞令を交わす。優は不安を表すように、翔の手をずっと握っていた。翔はそれを当然だと感じた。


 両親が殺され、自分も危ない目に遭った事を話さなくてはならないのだ。小学一年生に成ったばかりの優にはあまりにも荷が重い事でもある。それでも事件解決のために話そうとしてくれた勇気を翔は無駄にしたくないと感じていた。


「一之瀬優さんにお話しを聞きたいという事で、まず、こちらの竜崎、三橋、そして私こと明石がお話を伺います。もし、翔さんの方からも何か補足があればお伝えいただけると幸いです」

「分かりました」

「それではまずご説明しますね」


 その後、聴取に関する事項についての説明や手続きを行った。そうして漸く凛と優が話し始める。


「優ちゃん、私は竜崎凛って言います。もし、優ちゃんが話したくない、これは言いたくないって事があったらその時は無理に言わなくていいからね」

「うん……」


 翔は凛の話し方に、そういう話し方も出来るのだなと少しだけ感心した。


「それじゃあまず、優ちゃんがどうやってお家に帰ったのかから教えてもらってもいいかな?」

「うん……お母さんとお父さんと歩いてお家に帰った」

「その時、周りに変な人やこの人おかしいなって人は居なかったかな?」

「ううん、いなかった」


 優が小さく首を横に振る。翔は小さく頷きながら、優の手を固く握る。


「優ちゃんはお家に入った後、どうしたのかな?」

「お部屋に行って、ランドセルを置いてお出かけするために着替えてた。そしたら、そしたら、チャイムが鳴ってお母さんが『優、隠れて!』って叫んだの」

「そっか……それはとても怖かったよね」

「いつものお母さんの声じゃなかったから、それで隠れてた。暫くしたら、知らない人が入ってきて――お兄ちゃんが帰ってきた音がした」


 事件は優達が帰ってからほとんど時間が空いていない頃だったのかと、翔は優の話しから感じた。しかし、すぐに思い返す。あの時、自分が帰るまでの間、誰も電話に出なかった。今の優の話しとは、少し食い違う。


 しかし、優が言っているのだからと思った直後、凛はこう尋ねた。


「それは時間にしてどれくらいか分かるかな?」

「三十分ぐらい」

「隠れていたのが三十分? それとも家に帰ってからが三十分?」

「お家に帰ってから」

「その間、優ちゃんはお着替えしていたの?」

「うん……お父さんとお母さんは誰かと電話してたよ」


 その証言異、翔はどういう事かと考える。二人揃って電話をしていた。一体誰に――。


 電話した後に殺害されたとなると、その電話の相手が犯人――。それはつまり、発信履歴の相手が――。

 そう考える翔の前で、凛は優に向かって頭を下げた。


「そっか……ありがとう。ごめんね。こんな辛い事話させて」

「ううん……お姉ちゃん達が悪い人を捕まえてくれるんだよね?」

「うん。必ず捕まえる。絶対に捕まえるから」


 そう言って、凛は以上ですと翔や武爺達の方を向いて言った。


 次に三橋、最後に明石がそれぞれ優へ質問をした。


 それが終わると、明石達はもう一度「犯人は必ず捕まえる」と言った。その言葉を信じ、翔達は会議室を後にした。


 そうして帰ろうとした時だ。警察署に見覚えのある老夫婦が居た。父方の祖父母、雪子婆と良夫爺だ。


「翔、優、無事だったか!」


 良夫爺と雪子婆が二人の方へ駆け寄ってきた。事情や今聴取を終えた事を話し、六人で車に乗り自宅を目指す事になった。

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