7話『今後』
玄関の扉を開けると、警官が顔を覗かせた。
「こちらのご夫妻は、お爺様とお婆様でお間違いないですか?」
翔と優が警官の後ろを見ると、二人の祖父母――母方の祖父母が心配そうにこちらを見ていた。
「お爺ちゃん、お婆ちゃん!」
「優ちゃん!」
優が玄関から出て祖母に抱き着く。祖父は翔の前へと歩み出る。
「翔、二人とも無事か?」
「う、うん――でも……」
「それは中で話そう。二人が無事で何よりだ」
「来てくれてありがとう」
そう言って、祖父母と優を中へ入れると、翔は警官に話しかけた。
「もう一組、祖父母が来るかもしれないのでまた教えてください」
「分かりました」
短いやりとりを終えて、翔は居間へ行く。優が祖母に抱き着いて泣いていて、祖父がお茶を用意していた。
「二人とも、ごめん――僕、母さんと父さんを」
「それは翔が気にする事じゃあない。それよりもっと早く来てやれなくて悪かったな」
「ううん。来てくれてありがとう」
「いいんだ。それより、お茶ってこれで良いのか?」
僕がやると言って、翔は祖父の手伝いを始めた。
「キミお婆ちゃん、今日泊って行ってくれる?」
「もちろんよ、優ちゃん。今日はお婆ちゃんと一緒に寝ようね」
「うん、ありがとう」とお礼を言って優はさらに祖母へ抱き着いた。
「武爺、僕がしまっておくから、持って行って」
「分かった」
そう言って武爺がお茶を持って行く。翔は片づけをし終えると、ソファーへと向かった。
「翔、それで今後の事だが――」
「あなた、まだ来たばかりよ!」
「しかし、早くに話してやった方が安心するだろ」
「そうだけれど――」
翔は二人の様子に、貴美子婆へと「大丈夫」と言い、武爺へと話を促す。
二人は少しためらうように、しかし、武爺は話し始めた。
「二人ともよく聞いてくれ。今後についてだが、俺達が二人を育てようと思う。つまり、一緒に暮らすと言う事だ。明良君のところのご両親とも話し合ったんだが、俺達の所の方が近いという事もあってこの家に引っ越そうと思う。それで問題なければいいんだが、もし明良君側の方が良ければそちらを頼ってくれても構わない。翔と優次第なんだが、どうだ?」
武爺の話を聞き、翔は優へと尋ねる。
「優はどうだ? お爺ちゃんとお婆ちゃんと暮らす事になるんだけど」
「うん。いいよ」
「なら、僕もそれで構わない」
「そうか――良かった。今後の手続きは爺ちゃんと婆さんがやるから、そこのところは心配するな。学校も家も変わらない」
「うん。ありがとう」
翔はお礼を言って頭を下げた。武爺は数度頷き、貴美子婆は優を愛おしそうに撫でる。
「一先ず、これから暫く忙しくなる。それでも構わないか?」
「うん」
「二人とも少しばかり学校の勉強とかが遅れるが――まぁ、二人なら問題ないはずだ」
「分かった」
武爺の言葉に翔は頷いた。武爺がグラスに入ったお茶を飲み、貴美子婆が優へも勧める。翔はグラスのお茶を見つめて、ふと思う。
ここに足りない何か。ここに居ない何か。まるで中身のないグラスのように虚しい空虚感。
それは、一人の夕飯よりももっと悲しい事のように思えた。
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