幕間1『その電話』

 その電話が凛の元に届いたのは、凛が入学式を終えてから暫くした後の事だった。場所はお昼がてらの近くのチェーンレストラン。サバの味噌煮定食を食していた時の事だ。


 電話の相手は明石と記されていた。前に一度だけ事件で会った女性だ。まだまだ男社会が目立つ古臭い警察で、女性ながら警部補というその女性とは意気投合した仲だ。


 事件以降も、明石からの相談や凛からの相談、二人で買い物やオフの日に会う仲だ。今度のお出かけのお誘いだろうかと思いつつ、凛は暢気に電話に出た。


「竜崎です。明石さんですか?」

「凛ちゃん、今大丈夫?」

「はい、大丈夫ですけどどうされましたか?」

「事件よ」


 その言葉に凛の表情が一瞬にして、険しいものへと変わる。それはただの少女の顔からまさに刑事のような鋭い眼光を帯びたものへと変貌する。


「事件の場所は?」

「この後メールするけど、文京区――」


 凛は言われた住所を置いてあったナプキンへ咄嗟にメモする。


「分かりました。事件内容は?」

「殺人よ」

「了解しました」


 凛はその場で腕輪型の端末での支払いを済ませて外へ向かう。


「四人家族のうち両親が殺害。残る二名の子供については無事。玄関から押し入ってそのまま殺害したように思われる。争った痕跡はなし。子供達については、怪我はないけれど現場を見て動揺しているみたい。カウンセラーと祖父母に来てもらうように頼んだ」


 それを聞きながら外に出て、凛は通りがかったタクシーを停めた。それに乗り込み先ほどメモした場所に行くよう運転手にナプキンを手渡す。


「了解しました。私は今向かっています。到着は――十分程度で着きます」

「悪いわね。折角の日なのに」

「いいえ。私にとって学校の方が副業みたいなものなので。それより現状を詳しく教えてください」


 そう言って凛は現場へ、一之瀬家へと向かう。

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