第6話 死の告白
「ほら、世の中にはさ、強い猫と弱い猫がいるだろう。強いのはいいよな。ほら、どんなことがあっても積極的で、なんとかなんとか自分を変えていけるんだもん。でも弱いのはさ、信じられないんだよな全てを。ほら、自分もそんな猫の代表でさ、もうどうしようもなかったんだ。だって死のうとして失敗しちゃうくらいだよ。もうね、どんぞこのクズ猫なんだよ。
あれはさ、あるお正月の二日目だったよ。今でも覚えている。もうわしね、どうしようもなく落ち込んでさ、だってほら、何にもいいことないんだもん。もうただ餌を食べて、おいしくも感じなくなってさ、何者かになりたかったんだろうなわしは、でも何でもない自分が嫌になっちゃってさ、その二日目に死のうとしたんだもん。いやあの年は、正月の元旦だってのにでっかい地震があって、人間達もやんや騒いでるし、よく覚えているんだ、あの年の事。
そんでさ、気づいちゃったんだよね。もう、嫌なことは嫌だって。嫌なら終わりにしようって。で、ずうっと川を見てるの、橋の上から。正月の真冬でさ、たぶん飛び込めば全て終わるだろうなって、ぼうっとしてるの。身体も寒い中にいるもんだからさ、もう感覚なくなってきて、もう本当どうでもいいやって、これでなんか楽になれるのかなあ、なんて思ってさ。そこでそのまま凍死するか、バランス崩して川に落ちて死ぬか。そんなときだったんだよね。
にゃごっと、何かがぶつかってきて、川の反対道路のほうに吹っ飛ばされたんだ。ニャゴニャゴいいながら、ぐるんぐるん転がされてさ。もういきなりだったから、訳も分からず本能で戦いモード入って、ゴロゴロそいつと回ってたんだけど、あれ、これ兄貴のミャクだって気づいたんだよね、そのうち。
あいつさ、普段なんにも関わってこないくせに、何だったのかな。いつも家の中にいて、こたつの上でゴロゴロしてるような怠け猫なのにさ。あの日だけ外にいるワシのところまできて、じゃれてきたんだよね。
でもさ、うすうす感じてたんだ。あいつがわしのこと心配して、外に探しに来てくれたこと。きっと地震のニュースで人間達はわしの失踪なんか気にもしないし、気づいてもいなかったから、ミャクのやつ、外をみにきて探してたんじゃないかなってわしのこと。勝手に思っているんだ。
でもさ、全然あいつとはしゃべらなかったし、そのあとも、ワンニャアとか気取って意味の分からないことしかいわないし、ずうっとゴロゴロして、わしなんか構いやしなかったんだよあの猫。なんかわしも、あのときは助けられたか何かしらないけど、もう別に話すこともないやと思ってたんだ。そしたらね、春先にしれっといなくなっちゃったんだよミャクのやつ。元来自由なやつだったから、きっともっと居心地の良い場所でも見つかったのかなって、人間達もそのうち帰ってくるだろうなんて呑気なこと言ってたけど、結局それからずっと会ってないの。あのあと何回も冬を越したからさ。どれくらいたったか分からない。でも思い出すんだよな、冬が寒くてああまた死んでもいいかなって思ったときに、なぜかまた兄貴来ないかなって思って、でも現れなくて、アイツにまた会うまでは生きてやろうって思ってたんだあのとき。
そして、ミャクのこと思い出したら、あいつってグルメでさ。真似してでてくるご飯をきれいに爪できったり、他の食べ物混ぜたりして遊んでたの。あいつよく、缶詰に生の魚とかお惣菜とかお味噌汁とか混ぜ混ぜして、旨そうに食ってたな、なんて思い出しながら。
そしたらたまたまそれが、住んでる家で面白いってなって、人間の主人がさ、キャルキャンって缶詰のアイデアにしたんだね。それがほら、さっき一緒に食べたこのキャルキャンだよ。なんかウチの家では、この缶詰はいつもスポンサーっていうのから送られてくるみたい。」
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