第5話 その猫は死のうとしていた
食べてしまった。腹いっぱい。
もういい、このもの好きな老猫が聞いてほしい話とは何だろうか。
「すまんね。急いでいると言っていたのにね。」
「いえ、いいんです。ついつい気持ちが高ぶってああ言ってしまいましたが、時間の約束があるわけではなく、勝手になんとなくああ言ってしまっただけですから。で、なんですか、聞いてほしい話っていうのは。」
「いやぁ、ダリア。君に聞いてほしいことはね。本当は、気楽に聞いてもらえることではなかったのかもしれない。」
「なんなんですか、急に。」
「いや、突然君に出会うことができてよかった。じつは、今日わしは、死のうと思っていたんだ。」
突然の告白、話の展開にきょとんとしてしまった。返す言葉がなかった。この老猫は何を言いたいんだ。気軽に引き留めておいて、何を言い出すかと思えば、突然死ぬだと。訳がわからない。
「いや、ダリア。わしは勝手に君を友達だと思っていてね。ほら、君ずっとまえにきれいな飛躍を見せてくれたじゃないか。そのあとも、丁寧に飛び方とか教えてくれてさ。」
「はぁ。」
なんと返せばいいの分からなかった。ガロンは何を言いたいんだ。
「わしは、とてもだらしのない猫でね。ほら、隣に誰かいても、なにもしゃべらないことってたまにあるだろ。いつも近くに居る猫なのに、ついいつも何も語らなくなって挨拶とかもしなくなってしまって。おかしいよね。ほんとは近くに居るはずなのに。」
「そんな猫達、僕の周りにもいますよ。僕が住んでいるハウスでも9匹も猫がいるんですが。話したりするのは半分もいません。なんですかね。近くに居るのに他猫になってしまうんですよね。」
「そう、わしもそんな猫達が何匹かいてね。でもほら、突然わしいなくなったり、死んだらさ、その猫たちに何があったかしっかり伝えてくれる猫がいないと。彼ら困っちゃうだろ。」
「困っちゃうって、知り猫が突然死んだり失踪したら、困るというか。なんというか。」
「だから君に本当の気持ちを伝えておきたくてさ。」
猫生とは奇妙なものだ、自分が生死を感じたときに、こんな話を聞かされるなんて。いや、もしかしたら何か自分の想いを悟られてしまったのか。まあいい。ガロンの話を聞こう。こんな話、おもしろいじゃないか。そうさ、この世界、みんな生きる意味なんてないんだ。みんな、死ぬ。そして、生きるのだって楽しくない。ガロンだって同じだ。こんなところで同士にあえるなんて。
「僕でよかったら、詳しく聞かせてください。なぜガロンさんは死ぬことにしたんですか?」
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