第3話 その猫危険につき

バショウ、君は有名だ。なんせテレビにでている。美しく飛ぶ。人間の創った物語の中で、役割を演じることもできる。何より人間達とコミュニケーションができる。毛並みも美しい。そして、声もきれいだ。


だけどね、バショウ。それは君を殺そうとするものに、自分の居場所を簡単に見つけさせることも可能にしているんだぜ。そう、この街にいる英雄。この街から誕生した英雄。僕がなりたかった英雄。ただね、世界を変えられるのは君だけじゃない。


ダリアは、その日から餌を食べなくなった。爺がもってきた缶詰も、生身の魚も、食べなかった。なのにガリガリと壁のクギを噛んで牙を磨いた。


猫なんてね、本当は食べなくたって生きられるんだよ。本当はね、食べなくたって皆エネルギーを得ることはできるのさ。そう、特に何か大きな目的があればね。猫は目的を達成するために、生きているんだよ。本当はね。だからね、僕は食べないのさ。さあ、僕が食べずに死ぬか。君が僕に殺されて死ぬか。これは神が降ったサイコロだけが知っていることだ。僕は本気だ。もう、この世界に未練なんてないんだから。


ダリアが食べなくなって14日目、爺はついに医者を連れてきた。ああ、ほおっておいてくれればいいのに、わざわざ医者なんか連れてきて。

爺と医者が自分を診ようと近づいたとき。ダリアは、するりと身をかわした。ついに自らの計画を実行しようと家をでた。奇しくもその日は、ダリアがミャロとであって記念日と勝手に決めていた日だった。


腹は減らない。いや、腹はへっても覚悟があればどうでもよくなる。そしてそれは、新しい感覚になる。これまで味わったことのない、なにか大きなことが起こる前に感じる。自分が自分ではなくなる感覚。そう、いつだってこうやって生きたかった。目的のために身をささげる。美しさのなかに生きる。


五番地の邸宅。バショウ、有名になるって凄いね。しかも、同じ街から有名になるなんてね。人間のテレビ。熱気。少し見たことのある風景もまるで違った価値があるかのように映るんだもの。冷静になれば、あの場所だって、あのときチラリと見たあの場所だって、そこでしかないのにね。あの邸宅なら、知っているよ。僕は、一度行った場所を覚えているんだもの。君はあの場所で、英雄になったんだね。そう、そしてそのフィナーレは人間達もびっくりだね。猫が猫に殺されるんだもの。そう、君はやり遂げたんだ。最後は美しく、はかなく。それが一匹一匹に定められた運命。この世界に、生きた証に、すぐに僕の命も捧げるよ。


「おや、君はダリアじゃないか。」

突然、呼び止められた。


まっしろな老猫。小さくて真っ白な身体を見て思い出した。


「こんにちは。ガロンさん。お久しぶりですね。」

ダリアは冷静に応えた。


「ダリア。どうしたんだい?少し瘦せたかい。なんか益々凛々しくなったね。ちょうど最近、君の事を思い出したところだったんだ。」



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る