第2話 牙はあるんだぜ

「ミャロこんにちは。たまたま近くに来たらまた君がいるなんて。偶然だね。」


「あれ、あなたは誰だっけ。」


「え、冗談かい。このダリアさま、誰よりも早く二丁目の魚を君に届けたろ。今はちょっと飛べないんだけどね、また足が良くなったらまたあの飛躍を見せてあげるよ。」


「冗談よ、ダリア。君またフラフラしてるのね。どうせまた、雌達でもからかいにきたんでしょ。」


「はは、ミャロ。そんなことしてたかもしれないけど、遠い昔の話じゃないか。

どうかな、その辺歩いて新しい花でも探してみないかい。僕実はね、花にも少し詳しいんだ。この季節はね、珍しい花が咲くんだよ。知ってるかい?」


「ダリア、ごめんなさいね。

今日はね、テレビでバショウが踊る日なの。彼ね、やっと人間に認められて今一番頑張っているときだから、応援してあげたいの。今度また花の事教えてね。」


それきりだった。ミャロはどこかに行ってしまった。何度も会いに行ってもミャロはいない。人間も違うのが住んでいる。きっとミャロはもう遠くに行ったのだろう。


ミャロ、僕だってね。僕だって。大きな夢があったんだ。僕だってただ雌達をからかって生きていたわけじゃないんだ。僕だって。


ああ、でももうどうだっていい。ミャロはいない。これから生きていたっていいことなんてない。だって、もう昔の僕でもない。もういいんだ。


猫だってね。自分で死ぬことだってできるんだよ。もういいんだ。僕は誰でもない。ただね、死ぬときに誰かを道ずれにすることだってできるんだよ。そう、沢山の猫が殺された喉のあの場所に傷さえつければ。


記憶に残るだろうよ。君に会った記念日にあいつを殺す。人間はびっくりするだろうな。あんな英雄が殺されてしまったら。だけどね、これは革命なんだ。猫だって、世界を変えることができるっていう革命なんだ。


そしてね。だれも知らないかもしれないけどね。僕だけが覚えていることがある。バショウ。あいつは、他猫じゃないんだ。そう、向こうはもう覚えてもいないだろうがね。あの毛並み、覚えているよ。何故って、ほら、あのときアイツは子猫だったろう。いつも母猫にピッタリ寄り添って寝ていたね。なぜ僕が知っているかって。そう、僕もそこにいたんだ。僕はもう少し大きく成長していたけどね。


バショウ、僕はオマエの兄だよ。覚えてはいないだろうがね。オマエが高く飛べるのだってわかるよ。足も強いんだろ。美しい毛並みも僕そっくりだ。僕はね、オマエの活躍が誇らしいんだ。ほら、遠くにいるようで実は近くに居た猫が活躍するなんて、ドラマがあるじゃないか。オマエは素晴らしいよ。とても素晴らしいよ。本当にすばらしい猫だよ。


僕の人生はちっぽけだったかもしれない。

でも僕がこれからやる事は偉大なことだ。





















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