第2話 雪の下に潜む駅

道を失った。



歩道の傍に立っていた、ROUTE47を示す看板が見当たらなくなった。それどころか、雪原に一直線に続いていた歩道から外れたようで、気がつけば、完全に白の世界に取り残されてしまっていた。


足が接地している感覚はなく、体を動かせば動かすほど体が軽い粉雪に沈んでいく気がする。


そしてさらに最悪なことに、辺りが暗くなり始めていることに気づいた。このまま夜が来れば、死ぬ。間違いなく。



何とかして、周囲の風景から自分の位置を特定しなければ.....とは言え、流石に死と隣り合わせの状況でパニック状態に陥らない人間はいない。息はどんどん荒くなっていき、体全体から感覚が無くなっていく。それでも無理矢理首を動かして何か目印になるものが立っていないか見渡す。


ちょうど暗くなってきていたことが逆に幸いして、周囲の白い背景に一筋の光があるように見えた。雪の積もり方の微かな傾きから、この周辺に小川があるのではと推測し、とにかく傾きの方向に無理矢理体を捻って動かした。


予想は当たっていた。雪の傾いた方向にもがいて進むと、凍っているとは言え微かに水の流れが存在し、部分的に地面が露出している箇所もあった。


そしてさらに幸運なことに、目の前に現れたのは巨大な人工物.......線路の橋脚だった。数時間ぶりに雪に埋もれていないまともな人の痕跡を発見できたことに、底知れぬ感動を覚えた。


ついに、線路に辿り着くことができたようだ。





磐越西線、古口駅。可愛らしい三角屋根の駅舎の周りを取り囲むように、その屋根の2倍にも雪が積み上がっていた。しかしそれよりも驚くべきことに、鉄路の間だけくっきりと雪の谷間が存在し、車両が通ることのできるスペースが確保されていたことだった。



時刻的には既に夕暮れ時らしいが、降雪によって辺りはそれ以上に暗く感じる。あと数分判断が遅れていれば、雪に埋もれて死んでいたのではないかと思うとゾッとする。


ともあれ命を繋ぐことができたのは確かだ。駅舎の周辺には街灯がまだ点灯している。煙突からは煙が上がっているので、この分だと建物内に先客がいる可能性もあるだろうから、慎重に戸を開ける。




..........どうやら、見た限りでは誰も居ないようだった。建物の中から吹き出す温風を身に受けながら、漸く自分の四肢の感覚を取り戻したような気がした。それと同時に凍傷気味だった腕や足が焼けたように酷く痛む。


まあ、ここまで極限状態に陥れば、死ぬこと以外擦り傷とでも思わなければ生きていけないだろう。

ストーブの効いた室内で、ベンチに倒れるように座り込む。真っ白になるまで雪を浴びまくったトレンチコートを叩いて雪を落とす。雪が溶けて床が水浸しになってしまったので少し後悔した。



その時、料金表の書かれた待合室の窓口の向こう側から........駅員のスペースの方だと思うが、何か物音が聞こえた気がした。

まあ、これだけ設備がまだ生きているなら、管理人の1人くらいは居るだろうとは思ってたので別に驚かなかった。こんな孤立した雪の中の駅で生活しているなんて、さぞかし屈強な大男みたいなのでも想像していたのだろうか。



しかし、実際にはその全く逆だった。故に驚いた。身に纏っているのはセーラー服。スカートも膝上までしか丈がないタイプのやつで、体型も華奢な少女.....ちょうど僕と同い年くらいの、女子高生らしかった。



.......可愛い。


正直にそう思った。このご時世に、他の人と会うだけでも一苦労なのに、こんなに可愛らしい少女と出会えるなんて.....と変に劣情を抱くのも、あまりにも疲れ果てていて感覚が鈍っているからかも知れないが。



すると彼女は僕の前に姿を表すや否や、右手から物騒な黒い拳銃を持ち上げ、こちらの目線とちょうど一致するように銃口を向けてきた。



「......なんのつもりだ」

と、言い切る前に


「手持ちの武器と刃物全部出しなさい。」



一方的に指示する少女



「......従わなかったら、どうする?」



「引き金を引く......貴方を殺す。」


彼女は即答した。

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