果てた宇宙に星が降るまで
夢瑠ぬこ
第1話 白の世界
「.....続いて気象情報をお送りします............旧日本国、東北・北陸地方では日本海側から湿った空気が流れ込み、観測史上一位の積雪を各地で記録しております........各t
(ノイズ)
.....による......k.....そくによりますと.....現在の最大積雪は長野県栄村で18.5m......山形県○○地方で推定15m以上....」
───広大な雪の平原を、足元に神経を注ぎながら.....一歩、また一歩と進み続ける。
腰にぶら下げたラジオからは、酷いノイズと共に、籠った人工音声で気象情報が流れ続ける。
雪に足を突っ込むたびに、奪われそうになる体重を無理矢理前に押し出しながら、積もった雪を掻き分け前に進む。
周囲を見渡せば、各所に点在する小さな雪の山。恐らくあの下にはかつて人々が住んでいた家やら倉庫やら.....が存在している。
2階建ての家をも覆い隠す程の雪の量。前から、後ろから額に吹き付ける粉雪によってホワイトアウトが発生し、視界は殆どゼロに近い。
それでも、一度でも立ち止まれば、二度と立ち上がれなくなることは目に見えている。幸いなことに、この大通りに沿って作られた歩道はまだ人の気配を感じられた。
人の気配....つまりは、この荒涼とした世界に、人の手が加えられた痕跡がまだ残っていた。足元は比較的踏み固められ、まあそれでもその後積もった粉雪の層が腰の上あたりまで達しているが、人が埋もれて歩けなくなる危険性はそれでもまだ低い方だった。
恐らくは最後にこの周辺に到達したイミグレーション用輸送機への乗客用に整備された小道なのだろう。これまた幸いなことに、吹けば飛ぶほど軽い粉雪だったので、これだけ体が埋もれても前に進むことができた。
旧日本国、東北地方山形県戸沢村。
広大な山々の間を貫くように流れる最上川によって形成された谷の底に、集落が存在した。
自動車も、信号機も、人間が人間の世界を構築するために作った数々の人工物が、ただただ白い平原の中に沈んでいく。人間の時代を、強大な自然の力が物言わず飲み込んでいく。もうこの地球は、人間の住むことが可能な環境を無償で提供してくれる優しい惑星では無くなっていた。
5km程度の移動であれば多少無理すれば何とかなると思っていたが、体感気温はどんどん下がり続け、体温を徐々に奪っていった。それでも進まなければ......ただこの心臓が止まるのを待ち続けるか、それに抵抗するのかの2択ならば、僕は進み続けるしかなかった。
目指す先は、最寄りの駅。そこまで行けば、まだ外界との接続手段が存在するかも知れない。或いは最上川の川沿いまで行けば.....少なくとも沿岸部まで出れば生存確率は上がるだろうから。
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