第9話 社史編纂室24時

 社史編纂室。それは本来無能の烙印を押された従業員が送られる窓際族の墓場である筈だ。

 しかしその会社の社史編纂室は今夜も電気が消える事は無い。編纂室職員の熱気に包まれた熱い様子を見てみよう。


「おい誰だこの一文を追加した奴は?資料の裏付けの無い物を記載するなよ!」

「資料には無いけどその時の社長の一言は社内ではそう言われてるんだ。おかしくは無いだろう?」

「ダメだと思います。それは会社の歴史ではなく会社を舞台にした時代物小説です。歴史と時代物は違いますもの」


 社史編纂室では真剣にその歴史を記そうと、真剣かつ慎重な討議を繰り返す。その為に彼らは残業を厭わない。ただ歴史を記す為。そして未来に正しい歴史を残す為……


 その日社史編纂室は揺れていた。

 常務理事の不倫騒動の記載を削除するように常務が積めよったからだ。

 それに社史編纂室室長自らが答える。

「社の歴史を一文たりとも余さず正しく伝えるのが社史編纂室の役目です。奥様の監視の酷さが不倫ねな走らせたと同情する方も居るかも知れません。その機会をも不意にするのですか?」


 常務理事は悔しそうな顔をして社史編纂室を後にするしかなかった。

 そんな力量強い社史編纂室ではあるが、どうしてこうなっているのかは誰も知らない。

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